見境ない女の子
自分、25歳とまだ若者であるつもりなんですが、油物を食べるとすぐに胃がもたれて、辛い。
マジで焼肉とか肉の脂身はまぁキツイっす。
ナナと引っ張られ、俺はたくさんの店が軒を連ねる商店街に連れてかれる。見覚えがあると思ったら、テレビでよく出る原宿の街に似ていた。
焼いたチーズの香ばしい匂いやバターと砂糖の甘い匂いなどが鼻腔をくすぐる。
その中でもナナは甘い匂いが漂うお店の前で立ち止まった。
「ここのお店、美味しんだよ!」
「そ、そうなのか……」
どんな店なのか、すぐに確認できない。
ナナの走るスピードが速すぎて、息が上がってしまい、膝に手をつくほど疲れて、顔が上げられない。今にも破裂しそうなくらい心臓が鼓動を叩き、体が大量の酸素を求め、肩で息をする。
まるで散歩で先走る犬を制御できないダメ飼い主だ。
呼吸が整ってきたところでようやく顔を上げる。
目の前のお店はクレープ屋だ。
うっと井の中の物がこみ上げ、胸焼けがする。激しい運動の後に甘ったるくて重い生クリームの含まれた食べ物を摂取するのは辛い物がある。
「いや……ナナ。すまない。今は……遠慮……」
「チョコバナナスペシャル生クリームマシマシを二つ頂戴!」
俺の言葉は耳に入っていないようでナナはカウンターに立つお姉さんに慣れた感じで注文する。
よりによっても生クリームを増やされ、げんなりする。
いや、これは俺が悪いか。
連れてきてもらいながら、何も口にしないのは失礼か。
ナナは悪意なんて一切なくて、美味しい物を食べて欲しいという純粋な善意でやっているのはわかっている。
だけど、善意が必ずしも良いこととしてではなく、厄介なこととして降りかかる時もあるのだと今になって気づいた。
「はい、どうぞ!」
「あ、ありがとう」
ナナはお姉さんから二つのクレープを受け取ると小走りでこっちに来る。
そして、片方のクレープを渡してきたので恐る恐る受け取る。
クレープの中身は名前の通り、生クリームの海に沈められたカットされたバナナと大量のチョコレートソースがかけられている。
甘党には至福の一品だろうが、今の俺にとっては見るだけで胃が持たれそうになる。
「うん! 美味しい!」
躊躇う俺をナナは大きく口を開き、生クリームたっぷりのクレープを頬張る。
満面の笑みを浮かべて無我夢中で味わう。
そんな姿を見て、ますます子供っぽい奴だと思った。
だけど、それを見て不思議と食欲が湧いた。
自然とクレープが口に運ばれる。
「確かに……美味しい」
「でしょでしょ! 毎日食べてるんだけど飽きないんだよね!」
味は本当に美味しい。おすすめする理由はわかる。
しかし、あまりの甘さに毎日食べるのはきついだろうと心の中でツッコむ。
「あはは! 口のまわり、クリームついてる!」
俺はナナの顔を見て、思わず笑ってしまう。
口のまわりがサザエさんに登場する泥棒の髭のようにクリームがついていた。一体、どれだけ夢中になって食べているんだともう可笑しく思ってしまう。
「ほら、少し止まって」
「うむっ!」
ポケットからハンカチを取り出すと生クリームを拭き取る。
全く、本当に子供じゃないんだからそれくらいはしっかりしてくれて思う反面、何か愛玩動物を撫でている時に抱く愛おしさに近い感情で俺の心が満たされる気がした。
「ありがとう! あっ! ユウキも頬にクリームついている!」
吹き終わった後、ナナに指摘されてスマホで顔を確認しようとする。本当についていたら、ナナのこと言えないなと自嘲した時だ。
「いただきます!」
俺の頬についた生クリームをナナは直接食べたのだ。
それは傍から見れば頬にキスをしているように見えるだろう。




