一日の終わり
7月から約2ヶ月、山口に出張することになったのでかなり更新頻度落ちます
「ふぅ……疲れた」
白鳥が運転するベンツの後部座席に座る俺は深い溜息を吐き、背もたれに全体重をかける。
DATに所属して僅か初日にして激動の一日が一区切りがついた。
どっぷりと疲労感が全身にのしかかり、このまま椅子と一体化してもおかしくないと思ってしまう。
「あっはっはっ! だろうな」
白鳥は運転しながら高らかに笑う。
これが日常な人間にとっては今日の出来事は全部コントのようなことなんだろう。
重い瞼を落とさないよう力を入れながら窓の外に目を向ける。
工場地帯を抜け、住宅地帯に入ったけど夕日も相まってを感じられる町並みだ。
島と聞いて田舎のような殺風景な町並みが広がっているかと思っていたけど、俺の住んでいた街と対して変わらない。
話を聞く限り、中心部は都会と変わらないくらい栄えているらしい。
余力があったら明日はこの島を巡ってみようか。
そんなことを考えているとベンツが泊まり、白鳥が降りる。
俺も続いて降りる。
「ここが勇気が暮らす家だ」
「大きい家だ……」
白鳥が視線を向ける建物を見て、唖然とする。
寮と聞くとアパートやマンションのようにたくさんの部屋が人が入れるように縦や横に長い建物を相続するがそうじゃない。
かなり大きめな一軒家。いや、一軒家の中でも軽井沢や伊豆によくある別荘だ。
一度は憧れる別荘のような建物での生活。それを齢十五で叶えることになるなんて夢に思わない。
「DAT職員は独り身なら職員専用の寮。家族で移住してきた場合は一軒家を与えられる」
「なら、俺も寮なのか?」
「そうだ。だが、一般の学生達とは異なる特別な寮になる」
「特別か。住んでる場所を知られたら学校でどやされそうだ」
「命懸けで戦うんだ。普通の学生と同じ待遇では不平等だろ。それにそういうほうが組織もやりやすい」
確かに明日があるかどうかわからないのに普通の人間と同じ生活を強いられては納得できるはずがない。
命を賭けるならそれ相応の対価が必要だ。
そう話しながら、敷地内に入り、玄関の前まで行く。
「鍵はDATブレスだ。扉の横にある機器にタッチすれば扉が開く」
白鳥の説明通り、DATブレスを当てるとガチャリと鍵の開く音が鳴る。
俺は扉を開け、中に入る。
芳香剤のいい匂いが鼻に入る。
外見の豪華さとは真逆に内装は至って普通だが、広さがやはり桁違いだ。
それに滅茶苦茶綺麗だ。床には髪の毛一本も落ちてない。
いい家だと思う反面、一人で住むには正直、手に余ると思うのが本音だ。
「なぁ、俺が一人……いや、ヴァレッドと二人だけなのか?」
「いや。今のところ、入居者は他に一人だけいる。が、今日は用があっていないが」
「もう一人?」
「いつかお前と一緒に戦場で戦うことになる。見た目に衝撃を受けると思うが、真面目で勇気以上の正義感を持つ男だ。仲良くしてやってくれ」
俺以外にも住んでいる人がいる。
そして、一緒に戦うことになるか。
安心するし、ワクワクする。一体どんな人なんだろうと思い描く。
世界を救う為に戦う人間で白鳥が言うには正義感の強い人なら決して悪い人ではないのは俺でもわかる。
頼もしいと思う。俺とヴァレッドだけでも戦えるかもしれないが、それでも他に並んで戦ってくれる仲間がいるだけで心強い。
「部屋の案内は……いいか。見ればわかる。ルールについてはその同居人に教えて貰え」
「わかった」
「後、二階がそれぞれの個室になっている。一応、勇気の部屋は一番左奥になっているが拘りがあるなら右奥以外なら変えてもいいぞ」
「わかった」
ふうと深く息を吐く。
ここが俺の新しい家。そして、新しい生活が始まると興奮を隠せない。
俺は一旦荷物を置き、中を歩き回る。
まず見たのがリビングだ。壁に大きなテレビが付き、その周りに三人がけのソファ一つと二人がけのソファが二つ設置されている。
テレビの対面にはかなり広めなアイランドキッチンと椅子が六個並んだ大きな机があった。
ふと机の上に目がつく。
「これは……」
机の上に大きな皿の上にラップ掛けされた山盛の唐揚げが置いてあった。
ざっと数えるだけ五十個くらいあるがどう考えても一人で食べ切れる量じゃない。
「それは唯一の同居人がお前のための作り置きだ。家事が好きな奴でここでの料理は殆ど作っている」
俺の為か。なんか、気を遣わせてしまったと思いつつ、歓迎されている気がして嬉しく思う。
「なぁ、その仲間の名前は?」
すると、白鳥はニヤリと笑いながらその名前を口にする。
「兜山甲太。一応、伝言を受け取っている。できたてを食べさせられなくてすまないなとな」




