ボス登場
シンウルトラマン、公開初日の第一回に観に行った
素晴らしい映画だ。私の好きな言葉です。
徹夜明けの影響なのか、異様なテンションと距離感で接してくるメチャーロに対し、俺はどん引いてしまい、一歩後退りする。
アナとは違い、こちらに危害をもたらすような人ではないのは見てわかるものの、かと言ってすぐに馴染める程の性格でもない。
どんな感じで接していいか全くわからないの注意深く、メチャーロを観察する。
「博士から聞いているよ! 君がヴァレッドのバディだってさ!」
「そうだが……」
鼻息を荒くしながら、俺の両手を掴んでブンブンと上下に振る。
握手のつもりなんだろうが、テンションが高すぎて傍から見るとかなりヤバい人にしか見えない。
「最近のヴァレッドは人間味が増して、自分でもびっくりなんだ! 僕が教育を任されていた時よりも成長速度が早いんだ! 実際に人間社会に触れたからかな? それとも君と一緒にいたからかな? 研究者として、興味深いよ!」
教育を任されていた。
その言葉を聞いた瞬間、俺も思わずメチャーロのことを馬鹿にできない勢いで顔を近づける。
「教育……!? まさかお前がヴァレッドに変なことを吹き込んだやつか!」
「変なことってなんだい?」
「合体直後の口上とか変な人間の知識とか! あの間違った知識のせいでこっちは苦労被ってんだ!」
怒りが込み上げてきた。
今まで白鳥だけが元凶と思っていたが他にも犯人がいた。それも目の前に。
戦いの目前にして、名乗りなんかをするせいで
「あぁ。博士も一緒に教えたがメインは僕だ! 知識に関しては謝るが、口上や見得にことだが、あれはサブカルオタクにとっては常識だ!」
「意味がわからない……」
「君はなーーーにもわかってない!!」
潔く謝るのはいいがあまりのも潔すぎて開き直りにしか聞こえず、怒りは収まらない。
人差し指を鋭く向けられ、俺は思わず身じろぐ。
「君が日本人ならわからないのか!? 見得を切るの文化をさぁ!!」
「古くから歌舞伎で行われていたんだ! それは現代でも伝わり、歌舞伎のみならず時代劇や特撮作品、アニメなどでもパフォーマンスとして使われてきた!! それなのに君は……わかってない!」
「いやいや! それはあくまでエンタメの中の演出であって、戦闘中にそんな余裕を見せる意味なんてないんだよ!」
確かに歌舞伎の見得や子供の頃に見たヒーローの名乗りはかっこよかった。
特に後者なんて友達と何回も真似をしたことだってある。
実際に戦場に出てみてるとわかるがあんなことをしている暇なんてない。創作の世界なら盛り上がりの為に敵が都合よく待ってくるが、知性のないメルフェスがそんな都合のいいことをしてくれるわけもなく、問答無用で襲い掛かってくる。
かと言ってやらないとヴァレッドは気にしてしまうからわざわざ時間を作ってやっているが正直な話、その時間があるならさっさとメルフェスを倒したい。
一秒の差で生死が分かれる戦場で余計な時間を使わされるのがどれだけ精神が摩耗することか。
博士には何度も文句を言ったが、他にも加害者がいるならそいつにも言ってやらないとこっちの気が済まない。
「こっちは死に物狂いで戦っているんだ! 余計なお遊びに付き合っている暇はないんだ!」
「余計? 違うね! 戦いって言うのはかっこつけた方が勝ちなんだよ!」
「いや、倒した方が勝ちだろ!」
「全く、君には少年の心や浪漫や美学がないのか!?」
「命懸けの中で求めるものじゃないが!?」
「真の男は極限の状況だからこそ、求めるものだよ!!」
「意味がわからない……」
こっちがどんな正論を述べたところでメチャーロの美学や浪漫の前では風の前の塵と同じで何の意味を持たない。
全く話が通じないことに深くため息を吐く。なんで尽く、ここの人間は話が通じないのか。
「なぁ、ヴァレッド。こいつはいつもこんな感じなのか?」
『あぁ。愉快で面白いぞ』
「俺からすると胃に穴が開きそうだよ」
「まぁまぁ。これから仲良くしようよ!」
「どの口が言うんだか……」
「だって、お互いヴァレッドとよく知る者同士じゃないか! それにここに来て初めて同い年と出会えたんだ!」
「同い年って!?」
「あいつは天才なんだよ。十三歳でヴァレッドのアシストメカを立案するだけでなく、開発もおこなっていまったんだ。あと数年すればわしなんか追い越すくらいには優秀な助手だよ」
「それは驚いた……」
開いた口が塞がらない。
まさか、同い年どころか年の近い奴がいるなんて思わなかった。さらにヴァレッドの開発にしっかりと携わっているなんて。
そう思うとテンションが高くなるのもわかる。
「僕はただロボットが好きでただ夢を追いかけていたらこうなっていただけだよ。それよりヴァレッドと一緒に戦う君のほうが凄いと思うよ! 尊敬に値するよ!」
笑顔ではきはきとした口調で語るメチャーロ。
その言葉には嫌味なんて一切が感じられない。
だからこそ、俺を褒めるのも純粋な尊敬から。聞いているこっちが恥ずかしくなる。
すると、メチャーロは俺の前に手を差し伸べる。
「ヴァレッドに新しい武器や機能が欲しかったからすぐに言ってくれ!」
本来の意味での握手を求められる。
メチャーロは変人だ。きっとこれから振り回される続けるだろうと思うと気が重くなる。
でも、信頼できる。理由はわからないけど、メチャーロの様子を見ているとそう確信できる。
戸惑うことなく差し出された手を握り、固い握手を交わす。
「あぁ、よろしく頼む!」
「僕のことはボスって呼んで欲しい。みんなからそう呼ばれているんだ」
「博士がいるのにボスって……ややこしいな」




