新たな変人
最近、普通に仕事が忙しかった。
後、子供に水泳を教える時に紆余曲折あって仮面ライダーという単語を発したんだけど、そしたら、一人の男の子が「仮面ライダー鎧武が好き!」って言ってたんだよ。
鎧武って結構前の作品なのによく知ってんなと思いつつ、もう9年前の作品ということを知って、島下遊姫は考えるのを止めた……
「一体、何なんだったんだ……あの人達は……」
キャシーとアナへの挨拶が終わると逃げるように作戦司令室を後にした。
緊張と重圧とか解き放たれた立っていられない程の疲労感が全身に重くのしかかる。まるでフルマラソンを走った後のようだ。
正直、家に帰ってふかふかのベッドにダイブして、そのまま眠りについてしまいたいところだ、
「がはっはっはっ! とんだ災難だったな!」
「笑い事じゃないんだよなぁ……」
「そうは言ってもこれから共に戦う仲間だ。思うところもあると思うが上手く付き合っていかなければいけないぞ」
「マジかよ……」
「それが大人の付き合い方だ」
「大人って辛いんだな……」
深く溜息を吐く。
俺がどんなに嫌がってもあの二人から逃げることはできない。寧ろ、戦闘中になら積極的に関わらなければならない。戦闘中にあんなことされたら、きっと戦闘に集中できないし、別の恐怖として悩まされる。まぁ、DATに所属していることから公私の混同はしない……と思いたい。
真矢さんから職場の嫌な上司の愚痴なんか聞いていたけど、その度に口を利かなければいいだけだと思っていた。
でも、似たような環境と立場に立つことになって、俺の見ていた世界は甘かったんだなと痛感した。
『勇気、脈拍が低下している。強いストレスを感じているようだが、大丈夫か?』
「あぁ……多分。心配してくれてありがとうな」
俺はブレスレットから発するヴァレッドの声に対して、微笑む。
この組織でヴァレッドだけが唯一まともで良心を持っている気がしてならない。
「さぁ、いよいよワシの部下を紹介しよう」
「部下か……」
「この流れからして、例に漏れず変人だと思っているだろう」
「違うのか?」
「全く以てその通りだ」
変人の白鳥の部下だからそれ相応の人達が集まっているのは予想していたが案の定か。
まぁ、オーバーテクノロジーとも言えるヴァレッドのAIと機体を開発するなんて普通の人では到底不可能だとは思うけど。
まぁ、また変人と対面するとなると胸焼けがしてくる。まるで脂身たっぷりのローストンカツを食べた後にこってりとしたとんこつラーメンを食べさせられるような気分で胃がもたれそうになる。
「さて、ここが研究室だ」
憂鬱な気分の中、いよいよ白鳥達の根城である第一研究室に到着する。
白鳥は上着のポケットからカードキーを取り出し、スライドドアの横に設置された機械にタッチすると、扉が開く。
「なんだ、これは!?」
部屋の中を目の当たりにした瞬間、俺は絶句した。
床を埋め尽くさんばかりの書類。いや、最早山積みになっている場所さえある。
無造作に並べられた机と椅子の上にも同様に書類が散らかっていることに加えて、エナジードリンクの空き缶も転がっている。
正直、散らかっているだけならそこまで驚きはしなかった。
しかし、散らかった書類の下に白衣の男性達が埋もれているのだから腰を抜かしそうになる。
「あぁ、いつもの風景だから気にするな」
「いつも!?」
「ワシらは徹夜が多くてな。確か、今日も徹夜明けだったな」
確かに一日二日で成せる業務じゃないのはわかるがまさか、そんな体に鞭打ってまでとは……。
やはり、世界を守るというのは想像以上に重い責任と使命を背負うことなんだな。
「折角、寝ているんだ。挨拶はまた今度に……」
徹夜明けで死ぬほどの眠りたいはずだ。
だから、挨拶は後の機会にしようと思ったその時だ。
「その声が!!」
突如、書類の海から割って出現する一人の青年。
まるでトビウオのような跳躍に俺は唖然とするしかなかった。やがて、その青年は俺目掛けて落下し、抱きついてくる。
「君が勇気だね! 会いたかったよ!!」
いきなりの熱い抱擁に俺は状況を飲め込めなかった。
「誰だお前は!? ちょっ!? 離れろ!!」
俺は両手で青年を突き飛ばす。
すると、青年は書類の海にダイブし、大量の書類が水飛沫のように舞い上がる。
書類がクッションになったおかげか特に悲鳴が上がったりはせず、青年はすぐに立ち上がった。
肌は黒く、パンチパーマの髪型が印象深い。
「ごめんゴメン!! 自己紹介が遅れたね!! 僕はメチャーロ・ボスキー!! よろしくね!!」
メチャーロと名乗るその青年は屈託ない笑顔を浮かべた。




