総司令 ゴルサップ・ベイン
最近、知り合いのススメで新海誠さんの作品をよく見てる。
個人的に言の葉の庭と天気の子が好き。
手厚い歓迎を受けた俺はそのまま白鳥に案内され、DATの基地に招かれた。
無機質で面白味のない厚い鉄の壁に囲まれた廊下はどれも似たような景色でさらに入り組んでいて、案内なしで歩いていたら必ず迷うに違いない。
「まずは最高司令官に挨拶をしなくてはな」
「最高司令官?」
「あぁ、このDATのトップだ」
「トップ……か……」
今から組織の一番上。そして、最高司令官ということだから戦闘中でも指示を受けることになる人物に挨拶すると聞いて、背筋がシャンとする。
人類滅亡の危機を最前線で指揮する人間だ。少なくともただ優秀や頭がいいくらいじゃ務まらない。人類の命運を背負えるだけの腕っぷしとメンタルがなければ存在することすらできない。絶対にまともじゃないし、必ず狂っている。
それに校長や社長……いや、そんなしょうもない地位じゃない。総理大臣や大統領と同等、あるいはそれ以上に立場なのは間違いない。
何だか未知なる存在と対面するような気がして、緊張というより恐怖の方が強い。
少しでも無礼なことをしたらその場で処刑されるんじゃないかと疑ってしまう。
「何。緊張するな。奴はそんな怖い奴じゃない」
白鳥は緊張してガチガチになる俺を見て、笑う。
怖い人じゃないなら……いや、怖くないからと言って油断したり、馬鹿にしていいわけない。
普通に目上の人と接する感じでいいと自分に言い聞かせる。
「よし、着いたぞ」
すると、白鳥はある扉の前に止まる。
俺の肩幅の三倍近くある大きな扉。扉の上には「Supreme Command Room」。つまり、最高司令室と書かれていた。
白鳥は白衣の内ポケットからカードを取り出し、扉横にあるカードリーダーにタッチする。次にその下にある黒いパネルに手を置く。どうやら生体認証らしく、ピコンと甲高い音が鳴り、「Clear」と音声が流れると扉が横にスライドして開く。
俺達は扉の中に入ると約十メートル先に同じような大きさの扉がある。
後ろの扉が閉じたのを確認すると白鳥は歩き出し、新しい扉の前まで歩く。
扉の横にはまたしてもカードリーダーや生体認証の機械、テンキーがある。
白鳥は先程使ったカードとは別のカードをタッチ。次に生体認証で網膜を読み取らせる。最後にテンキーで七桁の数字を打ち込む。
すると、「Clear」と音声と共にガチャリとロックが外れる音が聞こえてくる。
やはり、最高司令官の部屋となると重要な資料があったり、会議なんかをするから滅茶苦茶セキュリティが厳重なのか。
それにしても面倒だな。俺だったり、一度入ったら二度と出たくなくなる自信がある。
「それじゃあ、入るからな。ゴルサップ最高司令官、入るぞ」
白鳥がそう言うと扉が開く。
いよいよ、ご対面の時だ。
不安と緊張で心臓が激しく動く。
荒い呼吸をしながら最高司令室に入る。
部屋の中は意外にも殺風景だ。
部屋の右側に高級な長テーブルに三つの椅子。二つ一人がけでもう一つは二人がけの長椅子。
両脇の壁にはガラス戸の本棚がびっしりとかけられていて、中には大量の本や資料をまとめたファイルが収められている。
そして、部屋の奥には机と椅子。一番奥の壁は窓になっていて、よくロケット打ち上げのドキュメンタリーで見る、司令室が見える。大きな画面と大量のコンピューター、多数の職員が忙しなく動いている。
その窓と机の間にその人はいた。
スーツを着ていてもわかるボディビルダー顔負けの筋肉質な体。というより、あまりの体格の良さに今にもスーツがはち切れそうになっている。
スーツの隙間から見える首は既に筋肉の筋が浮き出ている。
頭はスキンヘッドであり、近寄りがたい雰囲気を出し、さらに追い打ちとばかり真っ黒なサングラスが視線と表情を隠しており、圧倒的威圧感を増長させている。
何だよ! 全然怖いじゃないか!
どう見ても怖くない人の風貌をしていない。寧ろ、怖がられるような見た目しかしていない。
「君が……日登勇気君か……」
「は、はい!?」
そのガタイに似合うバスボイスですら俺の背中を叩く。
「私は……ゴルサップ・ベイン」
ゴルサップ・ベイン。それがDATを率いて、世界の命運をかけて戦う男の名前だ。




