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鋼鉄の勇者 ヴァレッド  作者: 島下 遊姫
シンクロニシティ
55/117

卒業式

ガンプラの再販数少なすぎてキレそう

 時間というのは気がつくと風のように通り去っていく。

 初めてメルフェスに襲われ、ヴァレッドと出会い、共に戦ってからもう半年が経った。

 グラーブスとの戦闘から月に一回程出撃し、メルフェスと戦った。だが、ドリラやグラーブス程の巨大かつ強いメルフェスではなく、博士曰く中規模だったこともあって特に苦戦することなく戦った。

 そして、学生と戦士として二足の草鞋を履いている俺は今日を持って義務教育を終了し、中学校を卒業する。

 とは言っても次は高校生になるだけで多忙な毎日は大して変わらない。今よりも環境が良くなるくらいしか変化はない。

 少し肌寒い体育館に並べられたパイプ椅子に俺達は座り、登壇する大人の話を黙って聞いている。

 俺は周りを見回す。

 卒業生が座るパイプ椅子の中にはいくつか空席がある。これは欠席したわけではない。あの日に死んだクラスメートのことといなくても全員で卒業したいという全生徒の要望あっての措置だ。

 少し前に行われた最後の点呼も亡くなった生徒を除かず、しっかりと名前を呼んだ。その時の先生全員が声が上擦ったり、涙声になったり、そもそも言葉に詰まったりしてしまった。

 さらには亡くなった生徒の名前を呼ばれて嗚咽を漏らして号泣した保護者がいた。

 胸が刺されたような痛みを抱いた。体育館の脇には正装の教師達がまるで棒のように綺麗に真っ直ぐ立っている。

 後ろには卒業を祝う為に歌う一年生と二年生が座っており、さらにその後ろには卒業生の保護者達が子供の新たな旅立ちを見守っている。その保護者の中には真矢さんがいて、ずっと目元にハンカチを当てている。無論、叔父さんと叔母さんはいない。

 いくら何でも泣きすぎだと思う。でも、涙を流してくれるくらい思ってくれていることがとても嬉しかった。

 心がポカポカと暖まると俺は再び前を向く。

 丁度、卒業生代表のスピーチが始まるところだった。

 舞台袖から出てきたのは高嶺だった。

 成績優秀で生真面目で思いやりがあり、人格も良く、正に絵に描いたような優等生だから代表スピーチに選ばれても何ら違和感がない。

 大人しくひ弱なこともあって、全校生徒と保護者、教師を前に高嶺は緊張で顔が見るからに強張っていた。

 そして、軽く会釈をして、制服のポケットから紙を出し、スピーチを読み上げる。


「私達は本日、この学校を卒業します」


 淡々と心を震わせながら、教師や保護者に対し、ここまで育てたくれたことを感謝するといった旨のスピーチを読む。

 ここまでは普通のスピーチだ。だけど、次からは違う。


「私達は半年前。多くの友達を失いました。あまりの突然のことに誰もがその事実を受け入れることができませんでした。全員で卒業して、新しい未来を歩くことが当たり前だと思っていました」


 シビアな話を始めた途端、体育館に冷たい空気が流れる。その中に啜り泣く声も聞こえてくる。この場にいる殆どの人が亡くなった人のことを思い出しているんだろう。

 俺はジッと高嶺を見守る。見守ることしかできない。

 すると、不安そうで辛そうな表情を浮かべる高嶺と目があった。俺を見た高嶺は確かめるように頷くとしっかりと前を向いた。


「私達は亡くなった人達の思いを胸に。そして、生きたいと願った人達の分まで生きる。それが私達のできることです」


 そして、高嶺は何かを決意したかのように紙をポケットに仕舞った。


「雨は降ります。予報通りに行く時もあれば突然、降る時もあります。そして、傘を必要としない霧雨の時もあれざ時には洪水を引き起こし、災害として牙を剥くこともあります」


 段取りにない言葉のようで先生達は動揺していた。

 突然、天気の話を始めて、何を言っているんだと疑問に思った。

 しかし、しきりに俺と目を合わせる高嶺を見て、何を言いたいのかようやく気づいた。


「残念ながらこれからも雨は振り続けます。苦しむ人達も生まれてきます。ですが、止まない雨はありません。必ず、雨雲を晴らす風は吹きます。私はその風が希望を運ぶ物だと信じています」


 高嶺は最後にそう言うと緊張から解き放たれ、ふっとを頬を緩ませながら一歩後ろに下がる。そして、深々と頭を下げる。

 参列者達から喝采までとはいかないものの一斉に拍手が起こる。



 

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