メルフェスとは
「まず、メルフェスがメルフェスと呼ばれるようになったか。勇気、わかるか?」
まるで学校こ先生のように俺に問いかける。
いや、学生の俺からすればわざわざわ休日まで授業を受けたくないんだが……。仕方ないことではあるが。
「わかってたら講義に意味がないでしょ……」
無論、メルフェスについてよく知らない俺が答えられるわけがない。
白鳥は「そうだろうな」と言いたげに悪戯な笑みを浮かべる。
「宇宙から現れた金属生命体。英語で『Metal lifeform from space』。略してメルフェスだ」
「宇宙……金属……!?」
「金属生命体というだけに全身というより細胞そのものが金属で構成されている。唯一金属でない部分は心臓くらいだ」
宇宙から来た金属生命体。姿形を変えることができる。
確かにあんな巨大な生物が地球にいて、今まで発見されていないのはまずありえないと思う。けど、当たり前のように地球以外にも生命体が存在していることを知らされて、俺の頭は宇宙を背景に目を見開く猫のように情報が頭の中でとっ散らかる。
「そして、この金属は水のような柔軟性を持つことから『メルメニウム』と呼ばれている」
「ちょっと待ってくれ。高い硬度を持ちながら柔軟性を持つってどういうことだ?」
「メルメニウムの最大の特徴はある一定の電流を流すことで一時的にゲル状に変化させることができる。メルフェスの心臓は電池に近い構造になっていて、心臓から電流を流して、自身の体を自在に変化させることができる」
自在に変化させることができる。聞くだけで厄介な能力だと思う。
けど、疑問に思うことがある。
「ちょっと待ってくれ。ドリラは別に変化させてなかったが」
「ドリラくらいの大型だとあれが最終進化になり、変化が終わる。頻繁に変化するのは小型から中型での特徴だ。それに戦闘中にゲル化し、弱点を生み出したくないのだろう」
成長が終わるとあんな巨体になるのか。ある意味、それ以上変化が起きないことから一度対策を練ればその対策が通じる続けることになるはず。
それでも成長しきり、文字通り桁違いの力を持つ化け物と戦わなければならないことに変わりはないか。
「そして、ヴァレッドやブレイブジェッターなどDATが保有するメカはメルメニウムで構成されている」
「何……だと!? それじゃあ、俺達は敵の力を利用していることになるのか!?」
白鳥は「そういうことだ」と淡々と説明する。
「運良く撃破し、残ったメルフェスの死体からメルメニウムを採取した物を使っている。電流を流せばゲル状になることから比較的加工が楽なんだ」
メルメニウムは加工しやすい癖に固まればかなりの硬度になる。
メルフェスに対抗するには最低でもメルフェスと同等以上の力と装甲がなければ戦うことすらままならない。
ことわざで毒をもって毒を制すと言うしな。
「そうなのか。……なぁ、戦闘中に電気がショートして、装甲が崩れたり、怪獣みたいに変化はしないよな?」
「大丈夫だ。人間の技術力では流石にメルフェスのように自然な形状変化は再現できない。それにショートした程度の電流ではメルメニウムは変化しない」
俺は「そうなのか」と安心する。
戦闘中に腕が崩れて戦えなくなったなんてことがあったら困るし、何かが起きてヴァレッドもメルフェスのような怪獣に変化したら流石に怖すぎる。
共に過ごしている仲間が醜悪な姿になり、あり得ないと思うけど、メルフェスのように人間を襲うように暴走したら人間は終わりだ。
最強の盾は使いようによっては最凶の矛に寝返る危険性は俺達はあるんだ。
「そして、メルフェスのもう一つの特徴は食べた物の特徴を得やすいということだ」
「得やすい?」
「あぁ。絶対とは言わないが食べた物の影響が出ることがある。過去には戦車を食べて、砲身を生やした個体やモグラを食べて、体がモグラのように変化した個体が発見された。ドリラも恐らく、ドリルを食べてドリルを生やしたんだろう」
「じゃあ、人間を食べたら……」
「あぁ。まだ確認はできていないが何かしらの影響が出ることはある。ただ、金属の重い身体で二足歩行人間の姿に進化するのは難しいだろう」
食べた物の影響を受けるか。
人間を食べて、知能や言語能力を得たらいよいよ厄介になる。
人の姿にならないならまだ不幸中の幸いか。
もし、人の姿になったらこちらの心情的に人を撃つということがなよりキツイ。それに人間特有の手先の器用さで武器なんか使われたら苦戦を強いられるのは確かだ。
「そういえば宇宙から現れたって、どうやってこの地球に来たんだ?」
「詳しい理由はまだ調査中だが、有力なのが隕石に付着していた小さなメルフェスが他の生命体を捕食し、増殖し、進化した」
「そうなのか。人間を襲う理由は?」
「恐らくだが、生存本能だ。捕食がメインとしつつ、邪魔をしてくる害虫だと認識している可能性が高い」
「そうなのか……」
「どうした?」
何というか説としては普通にあり得ると思う。知識の浅いにわかが意見できないくらい真っ当な説だ。
でも、腑に落ちない。捕食メインだったら、わざわざ人間に向かって熱戦を放つか?
殺したところで跡形もなく消滅したら意味がないだろ?
邪魔な存在だとしてもわざわざ力を溜めて、熱戦を吐いてまで排除したいのか?
俺なら熱戦なんて吐かずにただ建物を崩して下敷きにするか踏み潰すのが効率的だ。そもそも、小さい生物相手を気にするものか?
あの時、ドリラはただ暴れているようには見えなかった。
俺の目には明確な殺意を持って人を殺しているように見えた。
メルフェスに人間に何かしらあるのではないのか?
「本当にそうなのか?」
「思うことがあるか?」
「何というか。生きる為に襲ってるとは思えない。もっと恐ろしい、自分勝手な感じがしたんだ」
「真正面から戦った人間にしかわからない感覚か?」
「あぁ。例えば憎しみがあったり、誰かに人間を襲えと調教されていたりするんじゃないのか」
「誰かとは?」
「宇宙から来たんだろ? それなら異星人が送り込んだ侵略生物というのはないのか? メルフェスなんて生命体とがいるんだ。人間以外の知的生命体だっていてもおかしくないだろ?」
白鳥は「なるほど」と顎に手を当て、深い思考の海へと沈んでいく。
殆ど正しい専門家の学説に楯突く素人の学生の意見にもちゃんと耳を傾ける白鳥は割と常識はあるんだと思った。
学者や開発者なんてみんな頭が固いくて、素人の意見など耳を貸さないって思っていたけど、白鳥を真逆だ。柔軟に物事を考えることができる人なんだ。
「その説は勿論あった。だが、残念ながら証拠がないんだ」
「……ならいいんだ」
「いや、時には理屈よりも直観が勝ることだってある。それにゼロではない以上、否定はしない」
メルフェスの第一人者である白鳥でさえもメルフェスの全容はわかっていない。
それこそ俺の思った説も正しいのかもしれないし、誰も考えもしないような正体があるかもしれない。
そんな未知の生命体と戦う。
俺は改めてメルフェスが如何に危険な存在なのかというのを改理解し、そんな怪物達とこれから戦っていくこということに肌がひりつくような緊張が走った。




