問題は山積み
偽マフティーのコスプレしてみたい
真っ暗になったコックピット内で俺は背もたれに全体重をかけ寄りかかる。限界まで激しく脈打ち鼓動を感じ、乱れる呼吸を深呼吸して整え、額から大量の汗を手の甲で拭う。
心も体も落ち着いたところでコックピットハッチが開き、新鮮の空気を全身に浴びる。
「お疲れ様です。日登君」
「はい……お疲れ様で」
俺から見て左側にはグレーの作業服のスタッフが台の上に立っていて、ストロー付きのカップに入った飲み物を手渡してくる。
俺は「ありがとうございます」と感謝を伝え、飲み物を喉に通す。スポーツドリンクの甘ったるい味が口の中に広がる。大量の汗が流れて、乾いた体に水分が芯まで染み渡っていくような気がした。
ふと、周りを見回す。鉄の壁に覆われたそれなりに大きな格納庫ではグレーの作業服姿のスタッフが慌ただしく動き回っていた。
あるスタッフは図面が描かれた大きな設計図を広げ、部下に指示を出す。
あるスタッフは工具片手にブレイブジェットの下に潜り込み、整備を行ったり、その役割は様々。
ここは俺が住む町から少し離れた人気のない山奥の地下に造られたDATの駐屯地。表向きは自衛隊の施設ということになっているらしい。
一応、日本各地というか世界各国に秘密裏でDATの駐屯地が設けられ、ここはその内の一つ。
本来は太平洋に浮かぶ島が本拠点だが俺が住んでいる場所から一番近いということで来年の三月までは俺とヴァレッドはここを拠点に活動していく。
『オ疲レ様。勇気』
「あぁ、お疲れ。ヴァレッド」
コックピットの右側からヴァレッドの声が聞こえる。
ブレイブジェッターの隣には戦闘機形態のヴァレッドが格納されていた。
ヴァレッドもデータリンク機能で共にシミュレーションに参加していた。
『スマナイ……私ガ上手クヤレナカッタバカリニ』
「何言ってるんだ。俺だって反省点は多い」
「なら、早くこっちに来てくれ」
俺達が責任の背負い合いをしているとそんなの無駄だと言わんばかりに白鳥に呼び出される。
俺はコックピットハッチ横に設置された梯子から降りて、白鳥の元に向かう。
白鳥は格納庫の済に設置されたモニターと素人の俺にはよくわからないいかにも複雑そう機器が設置されたエリアにいた。モニターには先程までおこなっていたシミュレーションの映像が流れており、俺とヴァレッドの不甲斐ない戦果が映し出されている。
「三回のシミュレーションで三回とも失敗か」
「この前は上手くいったのになぁ……」
「そりゃあ、生きるか死ぬかの瀬戸際で必死だったからな」
ブレイブジェッターのパイロットとして素質を見出されたものの、俺は所詮ズブの素人で初めから成功することなんてありはしない。ダイヤモンドだって原石のままじゃそれほどの価値がないのと同じだ。
それに白鳥の言う通り、あの時は生き残るのに必死だったのもあった。極限の緊張に襲われた戦闘中と良くも悪くも冷静になれるシミュレーション中で心の持ちようが全く違う。
「勇気はブレイブジェッターの操作と限界を知る必要だな」
「どういうことだ?」
「ブレイブジェッターは他の戦闘機に比べれば、やれることは多いができないこともある。流石にドリラを引っ張れば機体にガタが来て、合体に失敗する」
「とは言ってもあれくらいしか対策が思いつかなかった」
「別にそれはいい。時には限界を超える必要だ。だから、知る必要がある。どこまで性能を引き出していいのかわかるだろう?」




