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鋼鉄の勇者 ヴァレッド  作者: 島下 遊姫
シンクロニシティ
41/117

些細な変化

『ワタシハヴァレッドダ』


「高嶺紗友里です。その……」


 俺と違って高嶺は大してヴァレッドと関わっていないからか、非常に余所余所しい態度を取る。

 そんなぎこちない様子で自己紹介を終えると高嶺は不安がいっぱいと言った瞳で俺を見つめてくる。


「日登君……やっぱり」


「あぁ、ちゃんと戦うことにした。本当はこのことは他言無用なんだけど、ヴァレッドに許可を貰って高嶺にだけは伝えようとね」


「何で……?」


「そりゃあ、あの時一緒にいたんだし、覚悟を聞いてもらった。それに迷惑もかけたからさ。高嶺にだって事の顛末くらいは知る権利はあるだろうし」


 ついこの間に戦う覚悟を決めたことを話したが、今日は改めてヴァレッドと正式に戦うことを伝えたかった。

 あの時、一緒に死線を潜り抜けた相手を除け者にするのは何か後味が良くない気がした。それに中途半端に足を突っ込んだままだとそのままズブズブと沼に吞まれてしまうから。俺なんか戦いという世界に踏み込んでしまったおかげで普通の日常に戻れなくなってしまったから。

 だから、高嶺には俺の二の舞にならないように俺が向こう側から手助けして、俺のいる世界から綺麗さっぱり脚を洗って欲しいから敢えて全てを話すつもりだ。


「そう……なんだ。ありがとう」


 俺の意図が伝わっているか全くわからない。いや、反応を見る限り伝わっていないな。

 寧ろ、不安を煽っただけのようだ。

 前に戦う覚悟を伝えた時もあんまりいい反応をしていなかった。当然か。数人のクラスメートが死んで、死というのが身近に存在することを気づいてしまったこの現状で、わざわざ命を懸けて戦う男なんざ、理解できないか。


『高嶺君……デイイカナ?』


「は、はい!」


 まいったと頭を抱えているとヴァレッドが自ら口を開いた。


『勇気ノコトハ任セテ欲シイ。彼ハ絶対ニ死ナセルコトハシナイ。ダカラ、心配シナイデクレ。コレハ君トノ約束ダ』


「約……束……」


 ヴァレッドは真剣そうな声色で高嶺と俺を死なせないという約束を交わそうとする。


「おい。高嶺は俺の母親じゃないんだから。そんな娘さんをくださいみたいなことを言わんでも」


『何? 君達ハ深イ関係デハナイノカ?』


 ヴァレッドの言葉に驚いた俺は思わずお茶を吹き出す。

 俺と高嶺がそんな関係だって!?


「ば、馬鹿野郎! 俺と高嶺はただのクラスメートだ!」


『ワザワザワタシノコトヲ伝エヨウトスル。加エテ、男女ガ二人デイルトイウコトナノダカラ特別デハナイノカ?』


「そうとは限らない! あの時は高嶺の荷物を持ってた後だから! 高嶺からも勘違いだって……」


 まさか、若気の至りを持つ存在が間近にいたとは。いや、ヴァレッドの場合は本当にそう思っているだろうかから少し違うか。

 俺は誤解を解く為に、同意を求めようと高嶺の方を見る。

 高嶺は唖然としているのかどこか上の空だ。


「高嶺?」


「あ! ……ううん! そうだよ、勘違いだよ! 勘違い……」


 同意を求めると高嶺の声はデクレッシェンドのように段々と弱まっていく。


『ソウナノカ。人間関係トイウノハ複雑ナンダナ』


 俺達の関係が大したものではないことにヴァレッドは不満気な様子だ。

 ゴシップが好きな近所のおばあさんかよ。

 まぁ、複雑なことは否定しない。

 ただのクラスメートではないけれど恋人でも親友でもない。本当に説明が難しく、上手い表現が全く見つからない。


「まぁ、こういうことだからさ。何かメルフェスとかで問題があったら俺に言ってくれ。俺とヴァレッドで直ぐに駆けつけるから」


「……うん。わかった」


 高嶺はゆっくりと首を縦に振る。

 そして、高嶺はヴァレッドに視線を移す。


「ヴァレッドさん。日登君のこと、よろしくお願いします」


『心得タ。君コソ、勇気ノ言ウ通リ、何カアッタラ私達ヲ頼ッテクレ。人々ヲ守ル為ニ私達ハ戦ウカラナ』


 ヴァレッドと言葉を交え、高嶺はほっとしたようで自然と柔らかな笑みを浮かべる。

 取り敢えず、話すべきことは全て話した。一先ずと麦茶を喉に通す。

 冷たく渋い味が口の中に広がる。


「……日登君って凄い真面目だよね」


「そうか?」


「だって、このことだってわざわざ私に伝えるなんてさ。普通なら私はもう蚊帳の外だよ」


「そういうのが嫌だから伝えたかったんだ」


 一人だけ仲間外れなんてあんまりいい気分じゃない。

 今こそ生きていてよかったと思っているが両親が死んだ時だって「どうして俺だけ置いていったんだ」と嘆いたし、今だって真矢さんが気にかけてくれているけど、正直、この家では俺は邪魔でしかない。

 仲間外れの苦しみや辛さは誰よりも知っているつもりだ。だから、せめて俺くらいは誰かにこんな思いを味わせるようなことはしたくない。


「ありがとう。今日は楽しかったよ」


「楽しかったのか?」


「うん。ヴァレッドさんと話している日登君、凄い楽しそうで、こっちもね。学校だとクールで近寄り難い感じで一匹狼見たい感じだったから、ギャップに驚いちゃった」


「幻滅したか?」


「そ、そんなことないよ! ただ、自然な感じがして、こっちの日登君の方が……私は好きだよ」


 自然な感じがすると言うことは今までの俺は不自然だったということか。

 俺は不意に掌を見つめ、握ったり開いたりする。何となくしっくりくる気がする。

 確かに俺は変わった……いや、戻ったという方が正しい。

 両親が死ぬ前は高嶺が今見ている俺が本当の自分だった。でも、色々と不幸やショックなことが続いて、俺は心を閉ざしてしまった。

 しかし、ヴァレッドと共に自分の全てを出し切って戦っていた時に閉ざしていた心も無理矢理こじ開けたから昔の俺が出てきて、戻ったんだと思う。


「そう言われる。何だか嬉しい。ありがとうな」


 真っすぐな感謝の言葉に、高嶺は一瞬固まった後に「どういたしまして」と笑顔で返した。

高嶺ちゃんはヒロインかどうかは私にもわからないので取り敢えずこれからの曇りように注目してください

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