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鋼鉄の勇者 ヴァレッド  作者: 島下 遊姫
シンクロニシティ
40/117

温度差

「さてと、準備終了っと。これで完璧だ」


 俺はふうと一息をついて、額から流れる汗を手の甲で拭う。

 目の前にはキラキラと輝いているように見える俺の部屋。ついさっきまで掃除機や濡れたタオルで徹底的に掃除したおかげで埃一つ落ちていない気がする。

 心なしか空気も澄んで、美味しく感じる。

 目を閉じれば青々しい木々に囲まれた森の中に立っているような気がしないでもない。


『カナリ早ク終ワッタナ。掃除ダケダッタカラカナ?』


「そうだな……少しの掃除とテーブルを出すだけだからな……」


 ヴァレッドの指摘され、俺は現実に引き戻される。

 別に準備と言っても大したことはしていない。ちょっとだけ、部屋を掃除し、来客用のテーブルを出しただけ。

 多分、同年代の男の部屋というのは何かしらの物で散らかっているはず。だけど、趣味もなければ収集品もない、俺の部屋には散らかる程の量の物がなく、元々それなりに綺麗だったのをさらに綺麗にしただけだ。

 片付けをしている中、ただ俺がいかに面白味のない人間なのかと痛感し、部屋が綺麗になる代わりに心が黒い感情で汚れていった。

 これが俗に言う等価交換というものなのか。

 ピンポーン。

 くだらないボケに頭を使っていると来客を知らせる音が家中に響き渡る。今日は真矢さんだけでなく、叔父さんと叔母さんも家を空けており、反応できるのは俺だけ。不意に時計を見る。大体学校を出てから四十分くらい経っている。少し遅いと思ったがこのタイミングでの来客は彼女だろうと部屋を出る前にクーラーをつける。その後、階段をドタドタと降り、玄関のドアを開ける。


「いらっしゃい、高み……」


 俺はドアを開けた瞬間、まるで石化したように体が固まる。


「ご、ご機嫌よう……」


「え? ……あぁ……ご機嫌麗しゅう?」


 ドアの前には私服姿の高嶺が頬を赤らめて立っていた。

 胸がドキリとした。高嶺の服はまるでファッション誌で表紙やセンターを飾れるくらいお洒落で綺麗だった。そして、確かに香る香水の色気が見る目を変える。

 てっきり、制服姿で来ると思っていたからこの装いにはかなり驚いた。


「綺麗だな……」


「え?」


「あっ!? いや……その……聞かなかったことにしてくれ!」


「あ、ありがとう!」


 不意に感想が漏れてしまい、顔が燃え上がったかのように熱くなった恥ずかしくなる。そして、その言葉を聞いて、高嶺はこれ以上にないくらいの満面の笑みを浮かべている。

 俺はどぎまぎと動揺しながら、高嶺を家に上げる。

 高嶺は「お邪魔します」と言い、綺麗に靴を並べると家にあがる。


「静かだね。今日は……日登君だけなの?」


「あぁ。そうだけど?」


「そう……なんだ」


 すると、高嶺は唇を触りながら挙動不審と言わざる得ないくらい周りをキョロキョロと見回す。

 急にどうしたのか。ゴキブリでも見たのか?

 お互い、変な空気を味わいながら部屋へと案内する。


「綺麗な部屋だね」


「まぁ、徹底的に掃除したからな」


 高嶺は開口一番、綺麗になった部屋を褒める。

 お世辞かもしれないがそれでも嬉しかった。


「ちょっと、待っててくれ。今、お茶を用意するから」


 ニヤける顔を見られないよう、急いで高嶺に背を向け、一階のキッチンに向かう。

 キッチンで麦茶の入った容器とコップ二つとクッキーを用意し、お盆に乗せる。ニヤケ顔も治まったところでお盆を持って、部屋に戻る。


「……どうした?」

 

 部屋に入ると顔を赤らめた高嶺が目を見開いて気まずそうに床を眺めている。

 まるで、悪戯をした瞬間を見られた猫のような感じだ。


「な、何でもないよ!?」


「いや、さっきから色々とおかしいけど、体調悪いのか?」


「そ、それは……あれだよ! 初めて男の子の家に来たから緊張してるの!」


「なるほどな。そういうことか」


 取り敢えず納得するが、異性の家如きでそんな挙動不審になるほどか疑問に思う。

 そんな昼ドラでお嫁さんが旦那さんの実家に挨拶にするわけじゃあるまいし。

 そんなことを思いながらお盆をテーブルの上に置き、高嶺に差し出す。

 すると、高嶺は「ありがとう」と言いながら目にも留まらぬ速さでコップを取り、麦茶を注ぎ、仕事終わりに一杯やるサラリーマンのように勢いよく飲み干す。

 顔が赤いのは緊張しているではなく、熱中症なのか?

 それならまずいとエアコンの温度をさらに一度下げる。


「高嶺、もしかして、熱中症か?」


「ち、違うよ! それより、話って?」


「あ、あぁ……。会わせたい奴がいるんだ」


 話を逸らされた気がするが、当の本人が大丈夫と言っているなら信用しよう。

 ようやく本題に入るという時、俺は腕に付けていたブレスレットを外し、テーブルに置く。


「見せたいのって……これ?」


 高嶺は拍子抜けする。


「そうだ。でも、これはただの電子機器じゃない」


 そして、俺は「でてきてくれ」と言うとブレスレットの画面が光る。

 朝は文字通り雲一つない快晴だったが昼頃から雲が出始めて、今では曇が太陽を覆っていた。

 エアコンの冷風は冷たく、肌が少し震える。

 麦茶の冷たさで露結したコップの側面から雫が流れる。


『君ハ勇気ト一緒ニイタ女ノ子カ』


 高嶺はブレスレットの画面に映るヴァレッドを見て、言葉を失った

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