共同生活
偽マフティーの奇妙な人気はガンダムヘッド生える
この家で唯一の居場所である自分の部屋に戻ってくるや否、俺はベッドに倒れ込む。
今日一日で大きな変化が電車のように連結し、流れてきた。無論、俺自身が望んだことだけど、流石に若い体でも全ては受け入れられず、疲れてしまった。
『ココガ君ノ部屋カ……』
安心とベッドの包み込むような柔らかさからゆっくりと意識が沈んでいく中、普段なら聞こえるはずのない機械音声が響き渡る。
俺はゆっくりと左腕を顔の前に近づけ、手首に巻いたブレスレットを見つめる。
ヴァレッドブレス。通常、支給されるのはダットブレスだが、俺の物は常にヴァレッドと通信することができる特別仕様。
ヴァレッドはブレスレットに内蔵されたマイクや高感度カメラによって、周囲の状況を確認することができる。
『思春期ノ男性ニシテハ何モナイナ。コレガ殺風景ト言ウノカ』
「余計なお世話だ」
ヴァレッドの口調は紳士的で知的に聞こえるが時々、言葉選びが子供のように容赦がない。
AIということで知識はあるが、まだ意識が芽生えてまだ時間が経っておらず、常識というのも育っていない。
ということで当分はヴァレッドと共に普通の社会で生活し、常識だったり、社会の理、そして、普通の生活を送る人間を教え込むのが俺の初任務。
『組織ニハ君ト大シテ変ワラナイ研究員モ在席シテイルガ、自室ニハ大量ノ女性ノ人形ガ置カレテイタガ』
「俺はそんな趣味はないしな。それにあんまりお小遣いなんて貰えないし、それでいて身の回りの物は自分でやり繰りしないといけないから」
確かに俺の部屋はつまらない。カタログやモデルルームみたいな綺麗だけど面白味のない部屋だ。
でも、俺には模様替えができるほどの余裕なんてない。と云うのも叔父さん達は余所者の俺なんかに金なんか渡したくないと思っている。だが、一銭も渡さないのは流石に世間的によろしくなく、毎月渋々五千円は渡している。
この五千円で俺はヘアワックスや歯ブラシなどの日用品。ノートやペンなどの勉強道具をやり繰りしないといけない。
服に関しては俺が着せ替え人形にされる代わりに真矢さんが買ってくれるから問題ないけど、とにかく趣味なんかに散財している金銭的余裕なんてなかった。
『ダガ、コレカラハ好キナ物ヲ買エルジャナイノカ?』
「そうだけど……あんまり俗っぽいことを言うな。あまり印象は良くないぞ」
『ソウナノカ。アレバアルダケ嬉シイ物ジャナイノカ? オ金トイウモノハ?』
「そうだけど。そうだからこそ、人を見下しているように見えて、嫌な気分になるんだ」
「ソウカ……。人間トイウモノハ複雑ダナ」
「あぁ、複雑過ぎて息苦しいんだよ」
そうだ。人間はつくづく面倒だ。
今日だって、白鳥とDATに所属することでいくつかの取り決めを行った。
まずは守秘義務について。
DATに関する全ての情報及び俺が所属していることは例え家族でもあっても話してはいけない。前者は勿論、わかっている。ただ、白鳥的には俺自身と家族や関係者の身の安全に関わることから後者の方を重要視しているようだった。
二つ目にこれからについて。
本来ならDATに所属する人間は全員DATが管理し、基地を併せた島に移住し、そこで生活及び業務を行う。
だが、俺は中学三年生で義務教育が終わってもいないこと。夏休みが終わったタイミングで突然の転校というのもあまりにも不自然だと言うことで卒業式が終わるまでは普通にこの街で生活する。その合間に操縦訓練だったり、座学を行い、有事の際は出撃して戦う。
そして、ヴァレッドを共に生活し、絆を深めつつ、ヴァレッドに人間社会を触れさせるのが主な任務。
因みにちゃんと学校があって、俺は推薦という形で入学することになる。だから、受験勉強をする必要がなくなった。
最後に給料について。
DATは国連みたいな国際組織で待遇はかなりいい。特に俺は他の人とは違い、誰よりも命の危険が付き纏う最前線で戦うということで、学生の身でありながら、毎月とんでもない額が支払われる。
加えて、衣食住は組織が提供し、学費も賄ってくれる。一生遊んで暮らせるというわけではないが少なくとも高校生活が終わるまでは一切困ることはない。




