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change the world

膝が何か化膿してて痛い

 俺は高嶺と別れ、公園近くの公衆電話で白鳥から貰った電話番号にかけた。

 確か公衆電話から掛けた場合は非通知での発信になり、相手のことなんてわからないはずが白鳥は電話に出るや、いきなり俺の名前を呼んだのはびっくりした。

 そして、俺の言葉なんか一切聞かずにただ一方的にとある場所に来るように伝えられて、電話を切られた。

 まるで俺が電話を掛けることを、再び戦う覚悟をすることわかっていたような反応がまるで掌の上で踊らされているような気がして、吐き気を催す程不快だった。

 引き返すという選択肢が僅かに生まれたが、一度覚悟を決めた以上、そう易々と撤回するのは格好が悪い。

 一つ大きな溜息を吐きながら、指定された場所に向かう。

 何も変化のない閑静な住宅街を抜け、大通りに出る。目的地はこの先の為、横断歩道を渡ろうとするが生憎、信号は赤であり、やむを得ず進めという指示があるまで待つ羽目になった。

 普段は途切れることなく車が走っているが、今はこの付近でメルフェスが暴れ、甚大な被害を受けたことで車通りが極端に少なくなっていた。

 これもメルフェスの出現によって変わってしまった日常の風景だった。

 確かこの通りを道なりに少し先に行けばメルフェスによって倒壊したビルがある為、この道は関係車以外は通行止めになっている。

 こんな些細な風景ですら不穏に思うことになり、気持ちが沈んだ。幸か不幸かこのタイミングで信号が青になり、俺はゆっくりと道を渡る。

 横断歩道を渡り、今度は公園内を通り抜けることになる。

 公園内は多少の瓦礫や木の一部が転がっているがそこまで大きな被害はなかった。

 だからだ。被災地に近くで比較的安全かつある程度開けた場所でそれはとても都合が良かったのだ。


「あの! 旦那は! 旦那はまだ見つかっていないんですか!?」


「息子と娘はここに来てないのですか!?」


 公園内には先日の事件によって行方不明者の情報やその関係者の為の掲示板などが置かれた簡易テントが建てられいた。

 テント中では迷彩の制服に身を包んだ自衛隊員達がテキパキと動いている。逆に外では行方不明者の関係者であろう人々が必死の形相で自衛隊員達に詰め寄っていた。

 俺は見るにも絶えず目を背けた。

 両親の遺体を見た時のあの衝撃を思い出し、胸が破裂しそうなくらいの痛みを感じた。とても苦しくて、意識が保つのがやっとだ。

 大切な人がいなくなる。その辛さは痛いほどわかる。

 でも、あの人達の痛みは俺の味わったものとは比べ物にならないかもしれない。

 俺は死を目の当たりにしたから、現実とはっきり認識できたから今もこうして両親がいないことを受け入れられ、完全ではないけど振り切れているつもりだ。

 でも、ここに来る人達は俺とは違う。死に目にすら会えず、最悪の場合、息のない遺体にすら再開できない。メルフェスの熱戦で遺体もおろか、遺品一つも残されず文字通り消滅してしまった人達もいるのだから。

 最後の別れすら許されず、気持ちの整理もつけられないまま無情にも現実は流れていくという苦しみ。最早、生き地獄という言葉がふさわしい結末。

 俺はその現実を直視することができず、駆け足で公園内を抜けた。

 人々の苦しみと悲しみが蔓延した地獄を抜けた先には新たな地獄が広がっていた。俺はその地獄を目の当たりにし、言葉を失った。

 そこはメルフェスの出現によって崩壊した街。ビルなどの高い建物は根元から折れ、倒れている。地面には黒く焦げた瓦礫の山が積み上げられている。この街は交通の便もよく、かなり栄え、夜は『宝石が散りばめられた摩天楼』と言われ、国内では有名な夜景として知られていたが、そんな栄誉ある肩書は見る影もなかった。

 何より一か月近く経った今でも復興の兆しは一切見えず、元の街並みに戻るのに相当な時間がかかりそうだった。

 たった数時間だけ現れ、暴れただけで元に戻るのに破壊活動の何倍以上の時間を費やすことになる。その爪痕の大きさに俺はメルフェスという存在の大きさと驚異を再確認した。

 地獄を見た。脚が竦む。涙が零れそうで、体が小刻みに震える。

 でも、それでも脚は前に進んでしまう。例え、瓦礫が重なり、酷く進みづらく、危険な道でもあっても。

 こんな脅威を放っておいていけない。

 別れすらも許されないあんな耐え難い苦しみを誰かに味わって欲しくない。

 もう、この覚悟は決して散ることはない。


「本当にここに来たのか」


 荒れ地を歩いているとここに呼び出した張本人である白鳥が立っていた。

 白鳥の表情は一切の余裕もふざけもない、ただ真剣そのものだった。


「嫌な人だね。わざわざここに呼び出して」


 俺はじっと白鳥の背後のあるものに見つめる。

 それは大きなクレーター。そう。俺の運命は、世界はここで変わったんだ。


「ここは君とヴァレッドによってメルフェスが倒された場所だ。私はメルフェスの痕跡を調べていて、あまりここから離れたくなかったんだ」


「我儘すぎる」


「老人の我儘に素直に従う君も大概さ」


 白鳥はニヤニヤと笑みを浮かべる。


「ここに来たんだ。今更、答えを聞く意味はないけれど一応聞こう。君は……どうする?」


 スウと大きく息を吸う。

 ここに来た時点で答えは一つしかないし、既に覚悟は決まっている。もうこの気持ちは揺らぐことはない。

 俺ははっきりと答える。


「俺は戦う。ヴァレッドと一緒に世界を守るために!」


 強い風が吹き荒び、俺の髪と制服が靡く。

 雲の多い空の隙間から太陽が覗かせ、一筋の光が俺に向かって差される。

 今まで薄暗い世界が見違えるくらい明るく見えた。


「ようこそ、日登勇気君。世界防衛機甲隊、通称『DAT』に」


 白鳥は笑みを浮かべながら、俺に近づくと手を差し出す。

 俺はゆっくりと手を上げると固く握手を交わす。


「さて、君には早速任務を与えるよ」


 俺はその言葉に息を呑む。

 早速戦いか?覚悟は決まっていても戦う恐怖はある。それでも恐怖を殺して戦わなければならない。別に非情とは思わない。それを望んだのは紛れもなく自分自身だ。

 白鳥は足元に置いてあったジュラルミンケースを開け、中から小物を取り出すとそれを俺に手渡す。

 俺は渡されたそれはスマートウォッチとブレスレットが合わさった電子機器だった。


「これは?」


「DAT隊員に支給される多機能ブレスレット型装置の『ダットブレス』。これからはそれを介して連絡しよう」


 俺はブレスレットを凝視する。一見すると家電量販店に売っているような物に見えなくもない。


「いや。ただ、君のブレスレットは通常とは違うからその名称は不適切かな」


 ブレスレットの横にあるボタンを長押しするとブレスレットが起動する。

 そして、画面に印象深いあの赤い顔が浮かび上がる。


『君ハ、アノ時ノ……』


「その声は……ヴァレッド!?」


 画面に映るモノ。それはこの地で共に戦ったヴァレッドだった。

新たな世界へと踏み入れた少年は意志のあるロボットとの共同生活が始まる。

人の感情を持ちながらも人ではない存在との関わり方を知らない少年は四苦八苦しながらも交流も深めていく。

しかし、人とロボットという明確な違いに二人の間に問題が重なっていく。

二人の息が合わない中、蟹型のメルフェス「グラーブス」が現れ、街を襲い始める。

足並みが揃わない二人の結末は生か死か。


次回 鋼鉄の勇者ヴァレッド


「シンクロニシティ」


見えない絆を紡げ! ヴァレッド!

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