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決意の空

閃光のハサウェイ早速観たぜ


街の混乱シーンやクスィーとペーネロペーの第5世代モビルスーツの戦闘シーンは本当に怪獣映画みたいな迫力があった

 最低最悪とも言える登校初日を終えた俺はあの日、メルフェスの事件に巻き込まれる前に向かった公園に行き、同じように呆然と空を見上げていた。でも、今日は直接芝生に仰向けになって空を眺めている。

 今日の空は晴れてはいるものの雲が多く、あまり心地いい天気とは言えなかった。そして、妙に空が近くに感じる気がする。人は死んだら天に上ると言うけれどもしかしたら、死んだ誰かが俺の事を空に招いているのかもしれないと思った。


「また、空を見てる」


 頭上から高嶺の声が聞こえてくる。

 高嶺はあの時のようにここに来た。でも、今日は偶然ではなく、必然。

 一瞬、俺は高嶺を見る。俺と同じで学校が終わって直接来たようで制服姿だ。だからだ。寝っ転がっていると高嶺のスカートの中が見えそうになり、俺は慌てて顔を背ける。

 高嶺は「どうしたの?」と言いながら体育座りをする。俺は「別に」とホッとしながらもう一度空に顔を向ける。


「空を見ていると自分が如何にちっぽけな存在なのか思えて、悩みとか一時的だけど忘れられる気がするんだ」


「そうなんだ」


 高嶺の声には戸惑いがあった。多分、俺の言葉に共感できないんだろう。

 気不味い空気を洗い流すかのように風が吹く。高嶺の髪がなびいて、女性特有の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。


「高嶺は知っていたのか? クラスのこと」


 俺がポツリと呟くと高嶺は気不味そうに顔を背ける。


「……ごめんなさい。でも、騙すつもりじゃ!」


「わかってるよ。気を使ってくれたんだろう?」


 俺は自分が思う優しい声色で高嶺を励ます。

 高嶺が謝ることなんて何一つない。今日まで現実を知らなかったのは俺がスマートフォンを持っていなかったから。

 そして、高嶺は俺が現実を知って、苦しまないように気を使ってくれたんだ。寧ろ、感謝するべきなんだ。


「ありがとう」


 感謝を言っても高嶺は変わらずそっぽを向いたままだ。


「だって……それくらいしかできないから……それに本当のことを言ったら……」

 

 本当のことを言ったら。

 その後、どうなるのかと続く言葉を高嶺は発せなかった。そこまで気を使ってくれていたことに今度は心の中で「ありがとう」と言う。


「生きているんだよな。俺達は」


「うん。でも、私は……日登君がいたから生きているんだよ」


 そうだ。こう言うと偉そうに聞こえるけど、高嶺は俺がいたから生きている。俺が戦うことを決意したから生きている。

 あの時、俺が戦う選択肢を選ばなかったら確実に死んでいたと思う。高嶺だけじゃない。もしかしたら、クラスの何人かも……そんな小さな範囲じゃなくて、街とか国とか世界の規模で犠牲者が増えていたに違いない。

 あの選択は俺だけでなく、全ての人にも世界にとっても最善だった。

 自ら選んだ選択をそう簡単に放棄することはできない。もう俺は世界から目を背けることはできない。逃げて、普通の日常に戻るなんて許されない。

 俺はゆっくりと立ち上がる。


「俺はもう……逃げないよ」

 

「駄目だよ」


 俺の決意を感じ取った高嶺は行かないでと言わんばかりに俺の手をギュッと掴む。


「俺は戦う。戦って、世界を守る」


「行っちゃ駄目!」


 覚悟を告げたその瞬間、高嶺は俺の手を強引に引き、腕を抱きついた。


「無理に戦わなくていいんだよ! 他の誰かがやってくれるよ!」


「無理にって……」


「だって、本当は戦いたくないんでしょ!? だから、あの時断った。違うの?」


「……そうかもしれない。でも、その誰かが現れる保証なんてないし、待っている間に犠牲者が出るかもしれない。俺はもう……見過ごせないんだ」

 

 風が強く吹き、木や草が激しく揺れ動く。

 高嶺は知っている。俺の心の奥底に沈めた気持ちと命をかける緊張感もメルフェスに立ち向かう恐怖も身に沁みて知っている。

 本当は戦いたくない。未知の生命体と生きるか死ぬかの生存競争なんて怖くて溜まったもんじゃない。

 でも、ただ逃げたいなんて我儘が通用する立場に俺はいない。

 自分勝手に振る舞えばそれだけ大勢の人が死ぬ。大袈裟かもしれないけど俺の選択一つで命が消えて、世界の命運が変わってしまう。

 俺には戦う力があるから。戦って人々を守る。きっと、今日まで生きて理由はその為なんじゃないのかと思ってしまうくらい、大きな使命感に駆られていた。


「心配してくれてありがとう。俺は高嶺みたいに一人でも多くの救いたいんだ」


 風がピタリと止む。歪な静寂が流れる。

 その静寂に高嶺の「それじゃあ……」と今にも泣きそうな掠れた声が流れる。

 そして、俺の腕を抱く高嶺の力はまるで糸の切れた操り人形のように抜け、だらりと下に垂れた。


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