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不吉な予感

そろそろ書き溜めがなくなってきた……

 九月になった。

 昨日で夏休みが終わり、今日から学校生活が再会する。

 久しぶりの制服は少しきつく感じた。体重が増えたわけではないのに。何というか着心地が非常に不快だった。

 家を出て、久しぶりに歩く通学路。俺はふと、空を見上げ、夏が終わったにも関わらず、ジリジリ照り付けてくる太陽を睨む。

 あの夏が終わった。怪獣が暴れ、ひょんなことからロボットに乗り込み、戦ったあの夏が。まるで夢か幻かと錯覚してしまう程、浮世離れした時間だった。今でもその感覚は残っている。きっとつい三日前まで入院していて、外出も全くできず、世界の変化を体で感じられなかったからだろう。

 でも、慣れた通学路を歩き、見慣れた制服と学生を見て、ゆっくりと感覚を取り戻しつつあった。

 これが普通の日常。俺も今までは日常の一欠片だったに違いない。

 だけど、この日常が居心地悪く感じた。

 怖かった。いつ何が起こるか嫌でも身構えてしまうのだ。

 もしかしたら、数時間後に……いや今すぐにでもメルフェスが現れて、この日常が壊れるかもしれないという恐怖が常に付きまとっていた。


「日登君、おはよう」


「……おはよう。高嶺」


 背後から飽きる程、聞いた声がかけられ、振り返る。

 振り返った先には制服姿の高嶺がいた。

 高嶺はソソっと俺の隣まで来ると心配そうに見つめてくる。


「体は大丈夫?」


「あぁ、大丈夫」


「……戻ったんだね」


「……そう……か」


 人と話したい気分ではなく、高嶺に言葉にこちら短い言葉を返す。 

 現実に戻ってこられた。確かに何も起こらないのが現実で普通の日常かもしれない。

 何も変哲もない日常の裏では、現在進行形で危機が迫っている。

 以前のようにいつどこでメルフェスが暴れ、平和と命を奪い、不幸を振り撒くかわからない。もしかしれば、この瞬間に現れてもおかしくない。この場所でなくても別の場所に現れているかもしれない。

 世界の真実を知ってしまった今では、何をするにも気が気ではなかった。今の俺にとってはこの平穏こそが幻のように思えた。

 多分、普通の人なら考えすぎだ。自分のことだけ考えていればいい。もし、襲われたらもう諦めるしかないと投げやりになれるんだろう。

 でも、俺は違う。あの日、生き残ったから。戦って、生き残ってしまったから……俺とヴァレッドならどうにかなってしまうのでは希望が生まれてしまったから。

 白鳥が言っていたように俺はもう普通じゃない。特別になってしまったから……。


「日登君。まだ……痛いところあるの?」


 思い詰めている中、高嶺が不安そうな表情で俺の顔をのぞき込んでくる。


「そんなことはない。でも、調子が少し悪いみたい」


「大丈夫!? 今日は早退したほうが……」


「……そこまでじゃないから。それより、ちんたらしてたら遅刻する」


 高嶺のお節介が段々と鬱陶しく感じてきて、逃げるように歩みを速める。

 寧ろ、早退して引きこもっているよりも教室の喧騒に囲まれている方がおかしな話だが、落ち着く気がする。多分一人でいると色々と考え込んで、返って思い詰めてしまい、さらに調子が悪くなりそうだ。

 それに教室の喧騒やクラスメイトの顔を見れば、普通の日常に戻ってこれたと実感できる気がする。

 夏休み前の俺なら学校なんて面倒なんて思いながら重い足取りで通学路を歩いていたのに、今となっていち早く到着したいなんて思っている始末だ。

 心の奥底から普通の日常を追い求めていた。そして、それは既に俺がもう普通ではないことを示していた。

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