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気に食わない

カイゼルグリッドナイト、かっこいい

 向けられた期待から逃げるように俺は俯き、顔を逸らした。

 俺の答えに白鳥は驚く素振りはなく、ただ「そうだろうな」と静かに頷いた。


「無論、ただではないさ。一生遊んで暮らせるだけの給料や待遇はするさ」


「そうじゃない。俺は生きたかった。戦わなければ生き残れないと思ったから、行動したんだ。生き残れた今、わざわざ死にに行くような危険なことに首を突っ込みたくない」


 確かに心の奥底では歓喜していた自分がいた。

 他の誰かには務まらず、俺にしかできないことが見つかった。自分が特別な存在なんだという愉悦があった。

 でも、それすらも超える恐怖が俺の沸き立つ心を抑えた。

 死にたくない。死にたくないのにわざわざ死に近い戦場にまた戻るなんて矛盾している。

 それについさっき真矢さんと約束した。生きると。生きて、大人になってお酒を酌み交わすと。

 その約束を進んで破りにいくようなことはできない。


「……そうか。なら……」


 戦うことを拒否した俺に対して、白鳥は容赦がない。

 シャツのポケットから黒光りする拳銃を取り出すと、銃口を俺に向ける。


「拒否すれば殺すと脅したら?」


「し、白鳥さん!?」


 高嶺にとっては予想外の行動だったらしく、大きな声を出し、驚愕している。本来なら真っ先にナースステーションに内線を掛けるべきだが高嶺は全く動かない。正確には動けないと言うのが正しいか。

 機密を知る人間をそう易々と自由にするわけがない。だから、殺害なんて選択肢だって当然ある。

 わかっている。でも、俺だって、そうですかと言いなりになりたくない。


「そしたら……あんたを……殺すだけだ……」


「脅しかな?」


「そう……見えるか?」


 俺は布団で隠しながらゆっくりと腕の位置を変え、枕元にある棚の上に置かれた花瓶を取れるように準備する。ただ、ヴァレッドに乗り込んで時とは違い、腕は他人の物であるかのように激しく震えて、上手き動かせない。

 メルフェスの時のようにただ死ぬくらいなら最後まで抗って、希望を見出す。その意思は例え、相手が同じ人間でも変わりはしない。

 でも、当然だけど人なんて殺したくない。いくら生きる為とは言え人としての一線を超えたくはない。

 殺伐とした空気が流れる。そんな空気を嫌がったのはあろうことか白鳥だった。


「やっぱりか」


 白鳥はさっさと拳銃をポケットにしまい、降参と言わんばかりに両手を上に挙げる。


「死にたくないから命懸けで戦うんだから、脅されたら抵抗するだろうね」


 銃が仕舞われたことを確認し、俺はホッと胸を撫で下ろす。


「本当に惜しいな。君ならヴァレッドの良き仲間になれるんだが」


「……そうか」


 白鳥は心の底から残念だと言わんばかりに大きく溜息を吐き、肩を落とす。

 そんなにヴァレッドと俺の相性がいいのか?

 脅してまでヴァレッドのパイロットとして、引き込みたいのか?

 俺じゃないと務まらないことなのか?

 心に霧がかかる。凄い……不快な気分だ。


「それじゃあ、私はお暇させてもらうよ」


 散々、俺達に迷惑をかけ、感情をかき乱した白鳥は悪びれる様子もなく、病室を後にしようとする。

 俺は白鳥の背中をジッと見つめる。

 この選択で良かったのかと悩んでしまう。

 そんな気を感じたのか。はたまた、俺の感情を読み取ったのか、「忘れていた」とわざとらしく台詞を吐き、一枚の紙を渡してきた。

 その紙には十一桁の番号が記載されていた。


「気が変わったらこの電話番号に連絡してくれ」


 期待のこもった白鳥の笑顔を見て、俺は舌打ちをする。

 つくづくこいつは人の心を馬鹿にする。

 連絡先を渡し終え、ようやく事をなした白鳥は軽い足取りで振り返る。そして、去り際に呟く。


「君は特別になってしまったんだ。もう……昔のままではいられないんだよ」


 白鳥の言葉には確かな哀しみの感情がこもっていた。

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