病院で
走る飛羽真BB好き
意識がゆっくりと覚醒していく。
背中に羽毛のような柔らかいものが敷いてあるのを感じる。
俺はゆっくりと目を開ける。ぼやけた視界にまず入ったのは真っ白な天井と電気の点いていない蛍光灯。
体の左側から熱い夏の風がまるで目覚めた俺を確かめるかのように吹いてくる。
ゆっくりと起き上がり、周りを見回す。
壁と床、棚や机といった家具も全部清潔感のある白に染まっている。
仄かにツンと匂う消毒液の匂いは目覚めたばかりの俺には少々刺激が強く、思わず顔をしかめてしまう。
「ここは……病院か……」
意識が覚醒しきった頃、ようやく俺は病院にいることに気づいた。
そうか。あの戦いの後。この病院に運び込まれたのか。
覚めた目でもう一度、部屋を見回す。俺以外に病人はいない。どうやらここは個室の病室のようだ。
「日登君!」
右側から馴染みのある声と椅子が倒れる甲高い音が聞こえる。
俺は顔を右に向けるとそこには驚きのあまり、立ち上がっている高嶺がいた。
瞳は潤んでいて、今にも泣きそう表情を浮かべていた。
「……高嶺? どうし……うわっ!」
言葉を言い終える前に突然、高嶺が抱き着いてきた。絶対に離さないと言わんばかりにきつく。
香水でもつけているのだろうか。甘く心地のいい匂いが鼻孔をくすぐり、頭がクラクラする。
どうしたのだろう。たかが目覚めたくらいで抱き着かなくてもいいだろう。別に恋人同士でもないのに。
「高嶺……苦しい」
そう呟くと高嶺は「ごめんなさい」と言って、慌てて俺から離れる。
「本当に良かった……。日登君が生きてて……」
「生きてって……そんなに酷い状態だったのか?」
「そうじゃなくて……パパは命に別状はないって言ってたけれど……だって二日も目覚めなかったから」
「二日間もか……」
驚き過ぎて逆に冷静になってしまう。二日間も眠っていれば二度と目覚めないと不安に思うのも無理はないか。
それにしても抱き着くなんてどう考えても距離が近すぎると思うけど。
「ちょっと待っててね! パパに日登君が目覚めたって連絡してくるね!」
すると、高嶺は俺が目覚めたことを父親に連絡すると病室に備え付けられた電話で連絡する。
先程からパパと連呼していることからここの病院が高嶺の両親が経営している病院のようだ。
俺は運がいいと思った。あんな災害と言っても過言ではない混乱に巻き込まれた多数の負傷者や命にかかわる重傷者がいるはず。人によって被災地周辺の病院なんて受け入れや治療で逼迫して、怪我の具合によっては拒まれる人なんて沢山いるはず。
それなのに俺はたかが、背中に硝子の破片が深く刺さっただけで当然のように病院に搬送されて、個室で悠々と療養できている。
きっと、高嶺が色々と気を使ってくれたに違いない。もし、その通りなら高嶺には感謝しかできない。だが、特別扱いされているような感じがして、あんまりいい気分ではない。
俺はふと、窓の外を目をやる。
小高い丘の上にある病院からは街の様子がよく見えた。
「あれは……夢じゃなかったんだな」
街は悲惨の一言だった。
建物の殆どが倒壊していた。ビルはまるでドミノ倒しのように横に倒れ、別の建物がビルの下敷きになっていた。それは文字通り、瓦礫の山だった。
倒壊時に起きた火災が起きたのだろうか。街は真っ黒に染まっており、至る所から今なお煙が上がっている。
そして、俺達が乗ったヴァレッドがメルフェスを撃破したであろう場所はメルフェスの爆発によって、巨大なクレーターができあがっていた。




