絶望の淵
因みに今の話の流れは怪獣映画っぽくしています
「ひ、日登君!」
俺達を巨大な影が覆う。
高嶺は俺の後ろにいるそれを見て、ガタガタと激しく体を震えさせる。
咄嗟に背後へと振り向く。
そこには虐殺を行った怪獣が赤い瞳で俺達を凝視していた。
まるで次の獲物を見つけたと言わんばかりの圧があった。
「逃げるぞ!」
恐怖で小便を漏らしそうになる。
事故の時とは違う。明確に死との直面。
高嶺を手を取り、一目散に逃げる。
怪獣も逃げる俺達を追いかける。一歩踏み出す度に鈍い音が響くと同時に巨大な揺れが起きる。
当然、図体が圧倒的に大きい怪獣は簡単に距離を詰めてくる。
だが、図体が大きい分、小回りが効かない。俺達は何度も左右に曲がりながら、なんとか怪獣を巻こうとする。
予想通り、怪獣の方向転換は時間がかかり、その分時間が稼げた。
しかし、怪獣は執念深く追いかけてくる。まるで俺達が目の敵であるかのように。
中々追いつけないことに怪獣が気づくと足を止め、熱線を吐こうと口を開く。
その時だ。空から発射された飛翔体怪獣に直撃し、甲高い金属音が周囲に響き、怪獣は煙に包まれる。
「今度は何!?」
「ミサイルだ……」
俺達は空を見上げる。
鼓膜を破れるのではと不安になるほどのエンジン音を鳴らしながら、海上迷彩に塗装された航空自衛隊の戦闘機F-2が俺達の頭上を音速で通り過ぎる。
「助けに来てくれた!」
高嶺は空を駆ける戦闘機を見て、頬が緩む。
兵器相手なら多少は時間を稼いでくれる。その間に逃げれば助かる。
そう俺達は考えていたが、見通しが甘かった。
煙が晴れた時、絶句した。
「嘘だろ……!?」
ミサイルを当てられたにも関わらず怪獣の鉄の体には凹みもなければ、傷も一つない。
全くの無傷。ミサイルですら有効打を与えられないのなら残る兵器は指を数える程しかない。それも放てば怪獣どころか周囲を焼け野原や人の住めない地域と化す、危険な兵器しかない。
絶望に打ちひしがれる時、まさに追い打ちをかけんと言わんばかりに、怪獣は周囲を飛び回る戦闘機に向けて熱線を吐く。
高温で高威力の熱線に直撃した戦闘機は一瞬で蒸発し、文字通り消滅する。
「戦闘機でも……ダメなの……」
高嶺は膝から崩れ落ちる。
兵器ですら呆気なく落とされ、俺達の希望もどん底まで落とされた。
「逃げるしか……ない。けど……」
諦める理由にはならない。だが、果たして無事に逃げ切ることができるのか。
流石の俺でも弱気になってしまう。
俺は……ここで死ぬのか。




