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鋼鉄の勇者 ヴァレッド  作者: 島下 遊姫
呪縛を解き放つ蒼き槍
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覚悟の先に

 目を開けると不気味な程、白い天井と白いLED電灯が目に入る。異様な程、静かな空間。微かに鼻につくエタノールの刺激臭。

 ゆっくりと上半身を上げ、周囲を見回す。ここが病室だということに間もなく気付いた。


「目覚めたか」


 まだ、霞が残る意識の中、声が聞こえた方向に向くとそこには甲太が慎重な面持ちで私を凝視していた。

 何で私の病室に甲太がいるのか。理解不能だ。


「そう……また迷惑をかけてしまったのよね」


 異様な静けさに私のか細い謝罪の声が流れる。

 それに対し、甲太は呆れたように溜息を吐く。感じが悪いと思いながらもっと優しい反応してくれるだろう勇気を探す。


「そう言えば……勇気は……?」


 しかし、病室にいるのは私と甲太だけだ。

 何か嫌な予感がすると思っていると甲太が重い口を開く。


「今、出撃している」


「出撃!?」


 私の病み上がりの体は勝手に反応し、立ち上がろうとする。しかし、バランスが取れず膝から崩れ落ちる。

 甲太が即座に駆け寄ってくるも私は手を出して、大丈夫と合図を出す。


「……つい、数十分前に例のメルフェスが出現して、緊急出動(スクランブル)だ。俺もマリンカイザーの調整が終わり次第、向かう」


 強気な態度は相変わらず。だけど、僅かに泳ぐ瞳と固く握り締める拳を見て、焦っているのがわかる。


「お前はどうせ使えないんだ。ここで休んでいろ」


 甲太が心に鋭く刺さる言葉をかけてくる。酷い言い様だけど、これは優しさだ。敢えて突き放しているんだ。私を戦わせないように。戦わないことに罪悪感を抱かせないように。

 あぁ、まただ。また、私は他人を死地に向かう傍らで安全圏でのうのうと生きようとしている。また、置いてけぼりにされる。

 そんなのは嫌だ。嫌だけど戦うことが怖くて仕方ない。


「ねぇ……どうして戦えるの?」


「どうしてだと?」


「だって、死ぬかもしれないのよ! 死ぬのって怖く……ないの!?」


 あまりの情けなさと恐怖は心に抑え込めなくなり、不意に口から漏れ出てしまう。

 戦う為にここにいる者として、相応しくない台詞。きっと、甲太は呆れて物も言えないだろう。


「……お前、やっぱりここにいるべきじゃない」


 案の定の反応だった。だけど、見放すようなそんなキツイ感じではなく、憐れみとかそういう感じだ。


「死にたくない。それは普通の感情だ。リーファの気持ちは何も可笑しくない。だから、今から説明するのはイカれた俺達のイカれた感情の話だ」


 そして、甲太は深く深呼吸をする。


「俺達だって死ぬのは怖い。でも、それ以上に他人が死ぬのを見たくない。特に今は、仲間が死ぬところとかな。それに誰かが戦わなければ結局、メルフェスに蹂躙される。ただ、恐怖に怯えて、逃げ惑って死ぬよりも立ち向かって死んだ方がマシなんだよ」


 何を言っているんだと理解が追いつかなかった。

 死にたくないのに戦う。

 他人を死なせたくないから怖くても戦う。

 でも、死んだら何もかも意味がないじゃない!


「馬鹿じゃないの……そんなの」


「でも、お前の知ってる人もそんな最期を選んだはずだ? 別に見習えとは言わない。寧ろ、見習うな。両親が命を賭けたからお前まで賭ける必要はないだろ。それは恥じゃない。救われた命を無駄にする方が恥だ」


「死なせたくない……」  


 心の中で振り子が揺れる。

 私は生きたい。ただ、恐怖も何も無い普通の日常を楽しみたい。友達と遊んで馬鹿騒ぎしたい。カラオに行って、好きな歌を歌いたい。お祭り何かの非日常もいい。そして、好きな人が隣にいてくれたなお、幸せなんだろうなぁ。

 でも、そんな日常の裏では誰か……いや、勇気と甲太が戦っている。現実を知っているにもかかわらず、見て見ぬ振りをしていられるの?

 本当にもし、二人が命を落としても平気でいられるの?

 ちょっとウザいだけど何だかんだ腐れ縁のある甲太。命を助けてくれた勇気の存在がなかったことにするなんてできない。

 これじゃあ、昔の私と何も変わってない。脅威から逃げることしか、守られることしかできない弱いまま。

 今の私には戦う力がある。変われるにはきっと今が最後のチャンスだ。

 私は両手で思い切り、自分の頬を叩く。


「ど、どうした!?」


「ねぇ、今からあんたが乗るつもりなんでしょ? マリンカイザーを」


「そう言ったろ」


「本当に乗れるの? 操作したこともないんでしょ?」


「操作くらいはできる」


「でも、複雑な操作は慣れていないでしょ? 簡易化されるとは言え、合体なんて特にね」


「お前……無茶するな」


 いつも堂々としている甲太が珍しく動揺と心配が表情を浮かべる。

 甲太もこういう表情するんだ。何だか逆に嬉しく感じる。嘲りとかそういうのじゃない。


「それにここにいるってことは調整も終わってないでしょ?」


「……その勘の良さ……いいのか悪いのか……」


「……勇気とヴァレッドが助けてくれたんでしょ。だったら、その借りを返さないと」 


「だが!」


 私がゆっくりと立ち上がり、病室の入口に向かって歩き出すと甲太は私の肩を掴んで引き止めようとする。

 結構、力が入ってる。だけど、それでも俺は止まるつもりはない。


「ありがとう。甲太。心配してくれて。でも、私だって、死なせたくないのよ。もう二度と……命を恩人を!」


「リーファ……」


「それに私は死なないでしょ? だって、あなた達がいるんだから」


 決意に満ちた瞳で甲太を見つめる。

 これが私の覚悟。もう逃げない。

 立ち向かう。仲間と一緒に。

 もう一人じゃない。一人で戦っても死んでいる状況でも仲間がいるなら助けてくれる。

 そして、今の勇気はヴァレッドがいても戦力としては一つでしかない。

 だったら、私が助ける仲間になるしかない。


「その目……信じるぞ」


 私の瞳を見た甲太は信用し、肩から手を離す。そして、私の華奢な背中を優しく押した。


「たまには……優しいじゃない」


 その優しい勢いを付け、私は病室を飛び出した。

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