濁流
ダイナゼノンにグリッドナイト登場は熱すぎる
恐怖が具現化したような物体に俺は思わず息をするのも忘れてしまった。
本当に現実なのか?
俺は本当に創作物の世界に転移したのかと疑ってしまう。
「に、逃げろぉぉ!」
疑心暗鬼になりつつある最中、人々の悲鳴によって怪獣が存在する現実に引き戻される。
巨大怪獣を目の前に、人々は一斉に怪獣とは反対の方向へと逃げ惑う。
聞くに耐えない絶叫と悲鳴を上げながら、周囲の人間を押しのけ、無我夢中で逃げ出す様はまさにパニック映画のワンシーン見た光景だ。
幾度となく、人々が俺の体にぶつかってきては前に押し出される。
ぶつかる衝撃で背中に刺さった硝子の破片がさらにくい込み、痛みが増す。
倒れそうになるものの必死に踏ん張って、耐える。
一度でも倒れたら、たちまち逃げ惑う人々の踏み潰されて、死ぬだろう。
そんな死に方は嫌だ。いや、そもそも死にたくない。
取り敢えず、この場から逃げよう。そう思い立った時、俺はあることに気づいた。
「高嶺!? どこだ!」
ふと、俺は隣を見る。今まで隣にいたはずの高嶺がいなくなっていた。
失念した。切羽詰まって状況と自分自身に気を配ったあまり、高嶺の存在を頭の片隅に追いやってしまった。
この状況ならと思い、急いで周りを見回す。
すると、少し離れた場所で人波に揉まれて流されている高嶺を見つけた。
「日登君!」
高嶺は流されながらも俺から目を離さず、手を伸ばしている。
すかさず、人をかき分け、高嶺の元に駆け出す。
背中に痛みが走る。歯を食いしばって耐える。
高嶺も人波に抗おうとするものの、少し力を入れれば壊れてしまうような華奢で細い体では太刀打ちできない。
だから、俺が行かないといけない。今、高嶺を助けられるのは俺だけだ。
高嶺との距離がジリジリと迫る。
高嶺も流されまいと必死に踏ん張っている。
そして、目と鼻の先まで近づいた時、俺は手を伸ばし、高嶺の細い手を掴む。
「絶対に手を離すなよ!」
「う、うん!」
あまりの勢いの激しさに高嶺はギュッと力強く俺の手を握る。
そのまま、高嶺の手を強く引っ張り、一度、人々の濁流から抜け、人のいない裏路地に逃げ込む。
「逃げなくていいの?」
「あんな中にいたら、人に押し潰される。だから、こっちに逃げよう!」
幸い、この道に逃げ込む俺達以外はいなかった。
ふと怪獣に注目する。
怪獣は特に行動を取らず、呆然と立ち尽くしている。
「今のうちにここから逃げな……」
怪獣の動向に注意しながら逃げようとした時だ。
無機質な目がゆっくりと動いているのを確認する。
目の先にあるのは川となった逃げ惑う人々の列。
狙いを定めたかのように怪獣は目を細めるとゆっくりと口を開く。
喉の奥から青い炎がこみ上げていくのが見えた。




