食卓
突然の来訪者が現れ、何が何だかわからなくなっているといつの間にか夕方になった。俺達三人は食卓に座り、甲太の手料理を味わう。
今日の料理は肉じゃがや味噌汁など和風の物が中心。
中国人のリーファが帰ってきたということで中華料理を振る舞うと思っていたけど、普通に日本食だった。
甲太曰く、慣れ親しんだ中華料理を振る舞うといつにも増してうるさいのであんまり作りたくないらしい。
また、たまには慣れしたんだものとは別の味付けの食べ物を食べたいだろうという気遣いらしい。
「超好吃!! 甲太は料理だけは褒められるわね!!」
リーファは肉じゃがを口に運ぶと目を閉じ、舌鼓を打つ。
「お前、飯、取り上げるぞ」
「最低! 虐待よ! 虐待!!」
ただ褒められばいいのに余計なことを言って、甲太を怒らせ、つまらない争いをし始める。
「二人共、食事中は静かにしない?」
『いいじゃないか。二人は再会を喜んでいるんだ。確かこれは痴話喧嘩というものだろう?』
「「誰が恋人同士だって!!」」
「あはは……仲がいいんだ……」
ヴァレッドの分析に対し、二人は息ぴったりのツッコミをする姿を見て、否定できないと苦笑いを浮かべるしかできない。
リーファも甲太に冷たく、見下しているように接しているが誰がどう見えても彼氏にダル絡みする彼女にしか見えない。
それに甲太も適当にあしらえばいいのに妙に何だか付き合うもんだから傍から見ると面倒くさいカップルにしか見えない。
俺もヴァレッドに続いてそう言ってみようと思ったけど、流石にからかいが過ぎると思うのでグッと抑える。
「それにしてもお前はどうして戻ったきたんだ?」
落ち着いた甲太は今度は真面目な様子でリーファに問いかける。
すると、待ってましたと言わんばかりに胸を張る。
「だって、マリンカイザーが必要なんでしょ? それなら正規パイロットの私が必要でしょ!」
「いや。お前には無理だろ。黙って俺に任せとけ」
「あらぁ? カナヅチの貴方が水の中で使い物になるの?」
「へぇ〜。甲太ってカナヅチなんだ」
「だって、あんな筋肉達磨が水に浮かぶわけないでしょ?」
カナヅチと聞いて、俺は甲太は凝視する。
どうやらリーファの言う事は本当らしく、甲太の顔を真赤にし、顔を逸らしている。
そして、恥ずかしさを隠すかのようにご飯をかき込み、お茶を一気に飲み干す。
「操縦だから関係ないだろ!? それに今のお前よりもマシだろ?」
「それは……無問題! この私を誰だと思ってるの!! 私は……!」
「流金グループの一人娘だろ。耳にタコができるくらい、聞いたよ」
「えぇ……。耳から蛸が出てくるの……? 恶心的」
「日本の言い回しだ。それにそっちの蛸じゃねぇ!」
まるで漫才のようにやり取りに苦笑いを浮かべるしかなかった。
それにしてもどうして甲太はここまでリーファの決意を否定しようとするのだろう。
誰がどう考えても正規パイロットに任せた方がいいに決まっているのに。
不器用な甲太のことだ。何か戦わせたくない理由があるんだろう。やっぱり、リーファのことが好きで戦わせたくない……いや、それは無さそう。そんな自分勝手な理由で動くような人ではない気がする。
「心配しなくていいの! 十分、休養を取ったから心も体も超元気!!」
「休養? 何かあったの?」
「ちょっと、色々あってね。それで故郷に帰ってリフレッシュしてきたの」
「色々……なんだ」
色々という何だか含みのある言葉選びにこちらもその真意を探ってしまう。
取り敢えず、プラスの意味ではないのはわかる。
一方で甲太はまるで見定めるようにリーファを観察していた。
「もう、そんな湿っぽくしなくていいから! 楽しい話をしましょう! じゃあ、勇気が質問したから次は私の番ね!」
これ以上、話を追求されたくないのか。リーファは話を切り替えようとする。
正直、何があったのか聞きたかったけど本人が話たがらない以上、無理に話させるのも酷だろう。
「いいよ。できる限り答えるよ」
「それじゃあ、彼女はいるの?」
いきなり色恋の話かと少し引いてしまう。
こちらの気持ちとは真逆にリーファの表情は興味津々と言った様子だ。
「いや、彼女はいないけど?」
「なら、好きな人は?」
「それもいないけど」
「えぇ……つまらない。ねぇ、ヴァレッド。勇気の女の影はないの?」
『高嶺さんとはかなり仲睦まじかったが』
「高嶺とはそうじゃないのはヴァレッドもわかっているだろ? ただ、お互いが助かる為にヴァレッドに乗り込んで戦っただけだ」
「それは初めて聞いたな。よく、DATはその高嶺って子は放置してるな。下手したら情報が漏れる可能性もあるが」
すると、まさかの甲太も話に入ってきた。
しかし、甲太の興味は俺に彼女がいるかというより、ヴァレッドの情報を知りながら、そのまま生活していることに対してだった。
「高嶺はそんな人じゃないから」
「……お前がそんな言うなら安心ではあるが……本人の意思とは関係なく情報を欲しがる奴らもいるだろう。そういう奴らにとって、その高嶺って女は格好の獲物だろう。それなら一緒にここに連れて、保護した方が安全だろう」
「確かに……」
「……あるいは実は決まっているのか……?」
「何が?」
「いや……こっちの話だ」
「真面目な話、超つまらない! もうヴァレッド! 二人の代わりに何か面白い話をして」
俺達の話はリーファの期待に沿えなかったようで文句を垂れている。そして、無茶ぶりを振る。
いくらヴァレッドでもそんな抽象的な対応をできるのか不安でしかなった。
「面白い話……。寿限無でいいか?」
「なんとまぁ、渋いチョイスだな」




