流麗花
「これがマリンヴァレッドか」
作戦会議が終わり、俺と甲太は一旦帰宅。張り詰めた作戦会議室でこれからの話をしても不安が募り息が詰まるだけだ。だから、少しでもリラックスできるよう言えないで話し合った方が楽だ。
家に着くと、早速白鳥から借りたデータをリビングのモニターに映し出す。
モニターにまず映ったのは船首にドリルがついた潜水艦、マリンカイザー。
次に映るのはそのマリンカイザーとエクスヴァレッドが合体したマリンヴァレッド。丁寧に合体シークエンスも平面図の映像として流れ、その後に武装の説明が入る。
やはり、メイン武装は右手に装着されたドリル。サブウェポンには魚雷やミサイルが積まれているがグランヴァレッド程の武装数はない。
『マリンヴァレッドは他の形態と比べて接近戦に特化している。水中では海流もある上に抵抗もあり、弾速がどうしても遅くなるため、確実に倒すに接近戦が最も確実だ』
「慣れない水中戦で接近戦か……」
俺は頭を抱える。地上とは全く違う感覚の中、近接戦を行うなんて無謀としか思えない。
「不安材料しかないな。だが、やるしかないのはわかるだろう」
思い悩む俺に甲太は砂糖のたくさん入った暖かいミルク珈琲を差し出す。
俺はありがとうと呟き、珈琲に口をつける。苦さよりも砂糖の甘ったるさが口の中に広がり、幾ばくか心が落ち着く。
ホットミルク珈琲を味わい、ホっとしていると甲太は俺の対面に座り、ブラック珈琲を飲む。そして、落ち着きながらモニターを凝視する。
「この前みたいに余裕が全くないわけじゃない。作戦開始するまでに慣れるしかない。心配するな。俺も付き合う」
「わかってる。でも、甲太だって不安だろ? 操作方法だって全く違うんだろ?」
「……そうだな。だが、俺も慣れるしかない。メルフェスはこっちの都合なんて気にしちゃいない。寧ろ、こっちが手間取れば都合がいいことだろう」
「正規のパイロットがいればこんなことにならないのに……」
「……全くその通りだ。だが、仕方ない部分もある」
「仕方ない? 何かあったのか?」
「あぁ、それは」
甲太が説明しようとしたその時だ。ガシャリと突然、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
「白鳥か? タイミングが悪いな……」
「……いや。あいつは作戦の立案で今は忙しいはずだ。わざわざ、ここまで足を運ぶ余裕なんてないはず」
「それじゃあ、誰なんだ?」
『防犯カメラを確認した。彼女だ』
「彼女だと!?」
ヴァレッドが防犯カメラを確認し、入ってきたのが女性だと伝えると甲太は大慌てする。
どうして、そんなに慌てるのだろうと思っているとリビングの扉が開く。
「ちょっと!? 折角、私が帰ってきたというのに誰も出迎えないわけ!? 超萎えるわ!!」
「誰!?」
「何でこのタイミングで帰ってきたんだ……」
「相変わらず、超冷たい態度ね。甲太は」
リビングに入ってきたのはアジア系の顔立ちの美少女だった。
身長は俺より少し大きいくらいでまるでモデルのようなスタイルだ。
そんなスタイルを良さを見せつけるかのように体のラインがはっきりと出た派手な赤いタイトワンピースを着ており、また、大きい胸を主張させるかのように胸元大きく開き、谷間が顕になっていて、目のやり場に困り、視線を逸らす。
逆に彼女は俺を見つけると見慣れない人間がいるとジッと見つめてくる。
「あら? 見ない顔ね? 誰?」
「あ、俺は日登勇気です」
「勇気ね! 安直な名前ね!」
「安直!?」
「真に受けるな! あいつの傍若無人に振り回される必要はない」
「いいでしょ? だって、私はあの流金グループの創設者の一人娘! 才色兼備の千年に一度の超凄い私なんだから!! 多少のわがままは許される! それにこんな美少女がわがままなんて超可愛いし、言われて嬉しいでしょ?」
「何だ、この人……」
俺は自画自賛する彼女にかなり引いてしまった。
俗に言う社長令嬢。お金や地位を生まれた瞬間、手に入れている。それだけでも十分なのに類稀なる美貌も持っていて、本人曰く才色兼備ということで頭もいいんだろう。つまり、生まれながらの勝ち組。それならわがままにも自信に満ちた性格になるだろう。
「教えてあげるわ! 私は流麗花! 私の美貌に魅入られなさい!」
『そして、マリンヴァレッドの正規パイロットだ』
「……ごめん、全く処理が追いつかない」
流麗花。彼女がそう名乗った後、ヴァレッドが最重要の情報をさらりと補足した。
もう、どんな反応していいかわからなかった。




