魔王の妻になったメイドが勇者を追い返し続けた結果
「やだやだ、やりたくなーいー!アンが代わってよー!」
が、幼い頃の口癖だったラプラン子爵さんちのアッサムくん。彼は長じて(何故か)勇者になりました。
アッサムくんの幼馴染みだった私、メイドのアンと申します。
何故か私、勇者一行の従者として旅をしています。
パーティーは、勇者になったアッサムと、聖女な神官サマ、折り紙つきの実力を持つ近衛がふたりと、魔法使いのお姫様の五人。私の場違い感半端ない。
しかも……。
「あらあらその程度で『聖女』?亜流魔法使いの間違いじゃなくて?」
「あら。姫様こそ、旅の途中だというのに今日も華やかですこと。ロウソクの火ですらぎらぎらと反射してしまうのに、焚き火に当たったりしたらもう……ふふっ、目が疲れてしまいそう」
女性陣の仲の悪さよ!
ただ悪いだけならいいよ?なんでこいつら私を攻撃するときだけ結託してくるのよ!?
茶がぬるい?飯がまずい?知ったことか!なんで私が三人の面倒をひとりで見なきゃいけないんだよ!
ちなみに、近衛さんたちは夜営にも慣れてるので、自分の面倒は自分で見てくださいます。なんなら、ご飯の材料狩ってきてくれるし、調理だって手伝ってくれる。悪人面だけど天使のような方々です。
そんなこんなで、魔王のところへ到着しました。
え?過程?重要じゃないので省きます。だって私、気づいたら魔王に跪かれてたんですから。
「嗚呼、素晴らしい。なんて美しいんだ……我が妃にふさわしい」
と、私の手を取って嵐のようにキスしてくる魔王サマ。手がふやけそうなんでやめてくれませんかね。
ほらー、みなさんドン引きしてるし。
アッサムはなにが起きたかわかんないって顔してるし、聖女と姫は内心なんであいつがって思ってるの駄々漏れておりますし?近衛さんたちはさすがですね。すぐに剣を抜けるよう身構えています。
「お前が妃として城に留まるのなら、人を滅ぼすことをやめてやろう」
私の頬をすりすりする魔王サマ。うん、顔がいいですね。
実は私、無類のイケメン好きでして、お飾り部隊と揶揄される第九騎兵隊の大ファンだったりします。
魔王サマったら、彼らに匹敵する美貌なんですよね。
しかも、魔王サマなので長寿命。さすがに不老不死ではないでしょうが、魔王の妃になったら長くこの美貌を間近で楽しめる、と。おまけで人類救ったとか言われて、家族の懐も潤うかも?
頭の中のそろばんをすごい勢いではじいて、私は魔王ににっこり笑いかけた。
「正妻かつ、私が死ぬまで愛してくださるならいいですよ」
「は!?ア、アン、なにを……」
「なにを当たり前のことを。我らは人のように移り気ではない」
イケメンはどや顔もイケメンですね。眼福です。
私は勇者一行に向き直り、ぺこりと頭を下げた。
「では、末長くよろしくお願いしますね、旦那様。姫様、聖女様、アッサム様、私はここで離脱しますので、気をつけてお帰りくださいませ。キース様、スー様、道中お世話になりました。お礼申し上げます。あ、アッサム様、家族にアンは幸せにやっておりますとお伝えくださいね❤️」
こうして、勇者のメイドは魔王と結婚し、末長く幸せに暮らしーーたかったんですけどねぇ。
「魔王サマー、王妃サマー、勇者が来ましたー」
「またか」
「懲りませんねぇ」
結婚して三十年。子宝にも恵まれ、麗しの魔王サマは変わらず私を可愛がってくださいます。自分だけ老いていくのが嫌だと言ったら、老化を遅らせる魔法をかけてくれて。
難を言うなら、お花摘みまでついてこようとするのをやめてほしいけど。
「百回目くらいか?」
「まだ八十九回目ですよ。とりあえずいつも通り全部ひっぺがしてお帰り願って」
そう、いつも通り。
勇者アッサムはきっちり年四回、うちへ突撃してくるのです。しかも、毎回装備を取り上げて放り出しているにも関わらず、三ヶ月後には全部集め直して。
あのポテンシャルを他に向ければ、もうちょっと出世も望めるでしょうに。勿体ない話です。
「いやー、それがー」
私の命令に、門番が唇を尖らせた。
「なんかー、魔王サマのー討伐失敗しすぎてー、処刑されそうだからー、かくまってくれってー、お宝抱えてー、来てるんですよー」
まじか。
いえ、今までなんの沙汰もなかったことが不思議なくらいですが。門番は突然キリッとした顔をして魔王に言いました。
「かくまってくれたらー、王妃サマのちっちゃい頃の思い出話とかー、似顔絵とかー、くれるらしーですよー」
は!?
「よし、入れろ」
え!?即決ですか旦那様!?
こうしてやってきた勇者?アッサムは魔王の城に居着き、王妃を肴に茶飲み友達になったふたりは末長く仲良く過ごしましたとさ。めでたし、めでたし。
私はちっともめでたくありませんけどね!なんなのこの羞恥プレイ。そしてアッサムは旦那様を返せ。
お読みいただき、ありがとうございます。
アンが無事に旦那様を取り戻せるかはわかりません←
アッサムさんの体力オバケ具合が羨ましいと思いつつ書きましたw