祖父は肝が冷えた
マリアンヌの祖父の胸の内です
伯爵家に嫁いだフローレンスから手紙が届いた。毎日楽しく家族も健やかに過ごしてるらしい。
孫のマリアンヌが王宮のお茶会に呼ばれた事は驚いた。王族の前でなんぞやらかさなかっただけでも大成功だと安堵した。
あの子は優しい上に途方もなく賢い子だが、貴族としては、やや正直にすぎる。
口も頭も回りすぎる傾向があるのだ。
小さい頃のフローレンスに似たか。
フローレンスは弟妹の世話ばかりしていてすっかり嫁ぎそこねてしまっていたが、そんなあの娘が今では伯爵家の奥方に収まっている。
マリアンヌも生まれて幸せで。人生はどう転がるかわからんものだ。
身分違いの上に先妻様そっくりの気高いお嬢様がいると聞いていたから心配したが。そのお嬢様ともそこそこは上手くいっているようだ。
伯爵様は女遊びの噂もない堅物だと聞いていたのに、フローレンスと見合いするなり毎日毎日花を贈りプレゼントを贈り、三日と空けずに我が家まで通って婚姻の許しを乞う熱意と誠意を見せた。
フローレンスは親戚筋に説得されて渋々見合いはしたものの「今更結婚は面倒」と渋るばかりだった。
我が家にしてみたら伯爵の必死さに驚かされた。
伯爵様の必死な理由が
「家族全員が笑い合って過ごす家庭の素晴らしさをこの家で初めて知った。この幸せを知っているフローレンスを他の男に取られたくない。自分と一緒にこんな家庭を作って欲しい」とはねぇ。
貧乏男爵の自分にしたら当たり前のことなんだがな。
家に帰れば可愛い妻と子供たち。
質素だが妻の手作りの美味しい食事、笑いの絶えないお茶の時間。
そんな家庭の雰囲気に感動したと言われて驚いた。
そんなに高位貴族の家はヒンヤリしてるものなのかね。
「フローレンスに子供が生まれたら、今いる娘と共にこの家みたいな家庭にしたい」と。
「だからどうかフローレンスを妻にくれ」と。
フローレンスにも俺にも繰り返していたなぁ。
ちょくちょく遊びに来るマリアンヌに話を聞けば、伯爵様は約束を守ってくれたようだ。
「裕福な上に楽しい我が家」だそうだ。
そこは少しは遠慮して口にしろ、マリアンヌ。
それにしても、だ。先日のあれはなんだ。
我が家に遊びに来たマリアンヌを追いかけるようにして第二王子が警備の騎士様たちを引き連れて我が家にいらっしゃるとは。
「おじいさまは席を外しても大丈夫」と言われて隣の部屋で待機していたが。
まあ、マリアンヌが王子に遠慮がなさ過ぎることといったら。
じじいは心底肝が冷えた。
王子も王子で「一筆書け」と詰め寄られて大人しく書く有り様。
それで王子はお怒りになることもなく、マリアンヌの言葉に奮起されてお帰りになったが。
あんな二人でいろいろと大丈夫なのだろうか。
警護の騎士様たちは皆、名のある貴族家の出身だ。マリアンヌと殿下のことは貴族社会に知れ渡っていることだろう。
今はまだ子供同士、と言い訳も立つが、この先もあのような二人であれば、どんな貴族もランドフーリア家に見合いの話は持ち込めまい。王子の怒りを買うのは誰だって嫌だ。
こちらはこちらで、王子がいずれ高位貴族の令嬢と婚約するまでは動きがとれぬだろう。マリアンヌ本人はその辺の貴族にさっさと嫁ぐ気満々の話ぶりだったが。
王子に追いかけられる状態では男子のいる貴族に避けられるのは目に見えてる。
あの王子がマリアンヌに飽きてくださるのを待つしかないだろうが、なかなかの執着ぶりで悩ましいところだ。
しかし飽きて貰わねば困る。
マリアンヌは公爵家の第二夫人や愛妾などをこなせる性格ではない。
ましてや公爵夫人など向いてもいないし望みもしないだろう。
あの子の能力が生かせる世界で生きてほしい。
あの子に何か起きたら、じじいはなんとか守ってやりたい。ばあさんと二人で長生きをしなくては。