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超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革【コミック連載中】マリアンヌシリーズ1  作者: 守雨


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雨不足は続く     ・

 部屋のドアを開けると、アレクサンドル様が自宅にいるかのようにリラックスしてお茶を飲んでいた。何度も思うけど、この人は場所を問わずにリラックスする天才じゃなかろうか。


「お待たせいたしました」

「たいして待ってないよ。悪かったね夜分に」

「それ、悪いと思ってない人の言うセリフですよ王子様」

「どうした? 笑っているな?」

「いえ、なんでもありませんし笑っていませんし」


 本当は少し笑ってしまったけれど。殿下がご機嫌そうでよかったなと思ったらついね。


「そうかそうか、久しぶりに俺の顔を見られて嬉しいか。実は溜め池を造ると聞いて見学に来た。作り始める所はなかなか見られるものでもないからね」

「丁度明日から工事が始まります。そして笑ってません」

「そうか。来てよかった。楽しみだ。お前が笑ってたからな」


(ぐぬぬ。負けないやつめ)



□ □ □ □ □



 翌朝、一番大きな溜め池を造る場所へと移動した。殿下は興味深そうに工事を見学している。

 いったん川底を掘り、どんどん大きな石を埋めていく。なだらかな弧を描くような石垣が少しずつ水を遮って池が生まれ始める。


 大きな石の隙間を埋めるように中ぐらいの石、小ぶりな石が積まれていく。

 生まれたばかりの池は次第に大きく成長していく。夕方になる頃にはだいぶ水が溜まっていたが、まだまだこれでは終わらない。

 工事の責任者が作業をする村人たちと明日の行程について話し合っているのを眺めていたら、殿下が近寄って来た。


「大変勉強になるものが見られた」

「遠くまでいらしてくれたことをありがたく…アレクサンドル様、ほんとにどうしたのです?こんなところまで」

「ひとつ聞きたいことがあって来たのだよ。お前は王都に帰ってくる気はあるのか?」


 また難しい質問を。


「んーーーーーーーー」

「息をしろ、息を。まあいい。俺はあと五年は誰とも婚約も結婚もしないつもりだ」

「えーと。それはどういう……」

「言った通りの意味だ。俺はあと五年は国の役に立つ人間になるために全力を尽くすだけだ」

「んーーーーーーーー」


 ウンウン唸っている私を見て殿下は笑い、それ以上は何も言わずに帰っていった。


 ええー。

 つまり何を言いたかったのか。五年は待ってるよ、と言うこと? 私の自信過剰?

 いやー。言葉が足りないでしょうよ、王子様。


 しばらく考えたけど、悩んでも答えは出ない。私は領民たちの生活改善になることを考えることにしよう。

 夢中になって忙しくしていると思い悩む暇もないから。

 

□ □ □ □ □



 本格的な冬が来る頃に四箇所の溜め池は順調に工事が終わった。

 溜め池が大きくなるのを待つ間に水路も掘らねばならない。

 工事に参加する村人たちにはソバの普及を兼ねてお昼にはソバ団子入りの肉野菜スープが振る舞われる。味つけは毎回少しずつ違う。


「ソバ団子はもちもちで美味いです!」

「腹持ちもいいなぁ」

「うちの女房にも作ってもらおう」


 陽気な声があちこちから上がり、現場は朗らかだ。今年は小麦の売り上げが少ない分、工事の日当がありがたいと皆で口を揃えていた。


 ため池は順調に大きくなり、定めた水位まで来たら流れるようV字に切ってある場所から水が滔々と溢れて流れるようになった。

 四つのため池を見て回り、どれも問題なしとなったのは冬も本番の頃。

 雪の積もる冬、マリアンヌは村を回って子供たちに文字の読み書きと計算を教えて周り、本の読み聞かせをして文字に触れる楽しさを教えていた。


 春になり、マリアンヌの予想通りほとんど雨が降らず、農民たちはため池の水を利用してギリギリのところで作物を育てた。


「豊作とは言いかねますが、どうやら飢える領民を出さずに済みました」


 村長を代表してソバ粉を受け取ったあの男性は深々とマリアンヌの父である伯爵に頭を下げる。


「マリアンヌ様が水不足を予想してくださらなかったら、わしらはどんなことになっていたか。ソバは少ない水でもよく育ちます。まだ数年間は雨が少ないのなら、小麦の作付けを減らしてソバを増やしましょう。何から何までお世話になりました」

「マリアンヌに必ず伝えておこう。あれは今、井戸掘りに立ち会っていて、もうしばらくは帰ってこないのだ」



□ □ □ □ □



 伯爵の屋敷から馬車で三日ほどの集落。

 マリアンヌは他領から呼んだ深井戸掘り専門の職人たちと共にいた。

 その集落は普段は飲み水も生活用水も湧き水に頼った生活だが、二年続きの雨不足で湧き水が枯れかかっていた。


「たとえ湧き水が枯れても、もっと深い所の水脈までは枯れてないはず」


 マリアンヌはその可能性に賭けた。

 硬い岩盤にぶつかれば場所を変え、井戸掘りは続く。まだあと何年水不足が続くかわからないのだ。

 領地の町や村に最低でも一本ずつは枯れない井戸を確保するのが今のマリアンヌの目標だった。

 掘らねばならない深井戸は多く、月日はあっという間に流れた。


 春から夏にかけての雨不足の年は三年続き、人々は苦しい生活が続いた。餓死者が出なかったのは秋から冬にかけてため池に水を溜められた水で野菜を作ることができていたことと、全ての集落に深井戸が掘られていたことが大きかった。

 水は大切に使われ、野菜やソバを収穫出来た。



□ □ □



 春。四年ぶりに恵みの雨が降った。

 春から夏にかけて、雨は優しく大地を潤した。六十年周期という領地の水不足は終わりを告げたのだ。


 マリアンヌが王都の屋敷に戻ったのは彼女が十五歳の夏だった。


読んでくださりありがとうございます。

短期集中で話を進めたかったけれど、本業が切羽詰まってきたので次回は24時間後になる予定です。

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コミック『超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革1・2・3・4・5巻』
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