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超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革【コミック連載中】マリアンヌシリーズ1  作者: 守雨


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いなくなったあの人     ・

 溜め池用の土地に住んでいる牛飼いは「水場と牧草があるから」と溜め池の近くに新たな牧場を移すことになった。

 個人が開拓した土地以外は全て領主に属しているのでこちらは簡単に話がまとまった。

 少々話し合いが長引いたのは農家の方だった。


「測量士がいないならどのような方法で土地の広さを決めるのでしょうか」

「縄をたくさん用意しました。私たちと地主さんが共に確認しながら土地の広さを測りましょう」


 ぽかんとしている農夫を外に誘い、馬車のところまで案内した。


「一台目の馬車に縄を用意してあります。これを敷地の境に落としながら進みます。縄が尽きたらそこで一本目と記録して杭を打ちます。二台目の馬車が縄を回収しながら付いて来ますので、縄が尽きたところから今度は二台目が先に立って再び縄を落としながら進みます。それを最初の場所に戻るまで繰り返せば縄何本分の広さかわかります」


 なるほどと農家の主の顔が明るくなった。厳密にいえば縄をどう置くかで面積は若干変わるけど、そこは許してもらおう。前より土地が広くなる場合だってあるんだし。

 村長の立会いの元、農夫の敷地の広さが判明した。代替地も決まり、翌週から溜め池造りが始められる運びとなった。


 

 屋敷に戻る頃には日も落ちていた。

 心地よい疲れを感じながら美味しく夕食を食べているとお父様が「溜め池造りの道筋はあらかた出来た。あとは工事だけだからマリアンヌは無理をして最後まで立ち会わなくてもいいのだぞ」と言い出した。


「えっ。私は最後まで見届ける覚悟で来てますよ? 休学届けまで出したのに、なぜです?」

「アレクサンドル王子が心配されてるのではないかと思ってな。殿下からやんわりとマリアンヌはいつ頃学園に戻るのかと問い合わせが来た」

「私、領民の生活を改善できることがあれば試したいのです、二、三年くらい」

「それだと殿下は年齢的に別の方と婚約されるかもしれない。お前がそれでいいなら無理に帰れとは言わないが。後悔のないように考えなさい。あれほど大らかにお前を見守ってくれる人がこの先現れるかどうかわからないぞ?」


 今、答えを出せと?


「んーーーーーーーーーー。私はもうすぐ十一歳ですが、もう婚約者を決めなければいけませんか?」

「王子はすでに十六才だよ。貴族は言うに及ばず諸外国からも婚約を希望する令嬢は多いのだ」

「んーーーーーーーーーー」


 息が切れるまで唸った。

 アレクサンドル様は嫌いではない。素敵な人だと思う。でも。


「んーーーーーーーーーー」


 答えが出ない。今のままってわけにいかないのはわかる。でも。


「んーーーーーーーーーー」

「そうか…。このお話は諦めるしかないかな。フローレンスはお前に婚約も結婚も急がせたくないと言っているしな」

「お母さまが?」

「ああ。フローレンスはお前が『いなくなったあの人』と同じことになるのを恐れている」

「え? 何のことですかそれ」


 そこからお父様は『馬男爵の妻である私の祖母の祖父の弟』のことを話してくれた。

 今から百年くらい前。この国に天才青年が現れて次々と画期的な発明をした。

 その人は旅をして宿を提供してくれた人のために色々な工夫や発明をしていったけれど、その都度違う名前を名乗ったらしい。

 その人の名前の数は十を超えていて、現在王都中に張り巡らされた石造りの水路もその人が設計したと言う。

 

 高い命中率を誇る投石器は隣国との戦争で大いに成果を上げた。

 この国で考案された特許制度もその人の発案だそう。

 生活の便利道具から戦争まで。


 しかし王の耳に入るに至り、十の名前を持つ男はあっという間に人物を特定されて、王の前に出ることになり、男爵の爵位を与えられ、領地も授かった。囲い込みだ。

 あちこちの貴族から娘の売り込みがなされ、利益を求めて我も我もと貴族たちは群がった。


 が、ある日のこと。「爵位も領地も全てをお返しします」と置き手紙をして天才は姿を消してしまった。

 放浪癖のあるその人が本当は誰なのか、知っていたのは祖母のおじいさんの一家だけだったそうだ。


 その人は家を出るときに「広い世界を見てみたい。色んな場所で好きな発明をして、移り住む生活をしたい」ともう一通、家族への書き置きをしたそうで、その手紙の最後のサインには一本の麦の穂が斜めに描かれていたらしい。


 そして各地で発明された物には全て同じ斜めに生える一本の麦の穂が刻まれていたそうだ。

 優れた発明家・発案家は権力で押さえつければ逃げ出し、金銭には執着しない。自分の興味のままに生きる。

 フローレンスお母さまはまだ子供の私の中に「いなくなったあの人」の影がチラつくそうだ。


 (あーーーー)


 なんだろう。いなくなったあの人とやらが姿を消した気持ちがよくわかる。それにしてもその人すごすぎる。オオワシみたいに自由だ。

 それに比べたら私はメダカ! いや蟻! いや砂粒! と、自分を卑下したくなったけど、夕食を終えた時間に落ち込んでもろくなことがない。


 玄関が騒がしい。複数の馬の足音やいななき。ガシャガシャと金属がぶつかる音。

 タタタタと走る足音、コンコンコンコンと気忙しくドアを叩く音。


「マリアンヌお嬢様、第二王子殿下がいらっしゃいました! お着替えを!」


 うん、そんな気がした。「誰かの話をすると本人が現れる」って友達のミーシャがよく言ってたもの。





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コミック『超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革1・2・3・4・5巻』
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