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超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革【コミック連載中】マリアンヌシリーズ1  作者: 守雨


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母の願い     ・

 幼い頃からマリアンヌには驚かされることが数え切れないほどあった。

 文字を覚えるのも早かったが、覚えたあとは恐るべき勢いで知識を貪り始めた。


 文字を覚えて一年ほどした四歳の時、辞書を使いたいとねだられた。手袋を使うことを条件に夫が高価な辞書の使用を許可すると、朝から晩まで辞書に齧り付いていた。

 たちまち難しい単語を読み書きできるようになり、幼い外見に不似合いな単語を回り切らない舌で話すようになった。


 ある時は私がガラス瓶に貯めている貝ボタンに興味を示した。(女の子はボタンが好きよね)と思ったが、一心不乱にボタンを並べ、グループを作っては考え込み、それを数えながら紙に何かを書き込んでいた。


「おかあさま、見て!」

と嬉しそうに広げていたのは掛け算の表だった。

 掛け算は学園の五年生が習うもので、本来は十一歳の子が教師に習って四苦八苦する物を四歳の娘が自力でまとめ上げていた。


 更にしばらくすると「あの表を使えばもっと沢山の数の計算も早くできる!」と言い出した。

 夫は高等学院に行くまでは家庭教師が教育の全てを任され、家で育った人だ。カタリナさんのことも家庭教師と学園に任せていただけに、マリアンヌのこともさほど驚かずに「賢い子だなぁ」と微笑ましい話として聞いていた。


 でも弟妹の勉強を見てきた自分は、これは全く普通ではないと思った。

 両親に手紙で相談したら父が飛んで来た。

 父は二日間、娘とたっぷり遊んだあと真面目な顔でこう告げた。「腹をくくれ」と。


「あれは普通の子のように育てたら潰してしまう。突拍子もないことをやり出すだろうし、訳の分からないことを言ってくるだろう。でもそれを笑うな。聞き流すな。危険ではない限りあの子がやりたいことをやらせてやれ。そしてあの子は他の女の子たちと関わるようになればきっと叩かれる。その分、あの子を認めて励ましてやる親になれ。安らぐ家にしてやれ。あの子と一緒になって叩かれる覚悟を持て」


 そう言って帰って行った。


 父の指摘は全て現実になった。いろんなことに興味を持って、自分が納得いくまで夢中になり続ける娘。見守るのは楽しくもあり不安でもあった。


 王立図書館に行きたいと言われればあの子が「もういい」と言うまで通いつめた。本だけでなく過去の法令や王命の書類を読み漁っていたのにある日突然、「もう行かない」と言う。

 そんなこともあの子の性格なんだと思って行くのをやめたが。

 

 学園に入ってすぐの頃に「大きな体の人はどんなものを食べて育ったのか調べたい」と言い出した。

 調べるうちに孤児たちと出会って、「食事量が足りないし肉や卵の足りない暮らしだからあんなに痩せて小柄なんじゃないか」「鶏を飼いたい。食事を改善させてやりたい。鶏を飼育して孤児たちが自分で稼いで暮らせる仕組みも作りたい」と言い出した。


 なるほど、我が父はこうなることを見越してたのか。

 普通なら「気の毒な子どもたちに食べ物かお金を与えたい」と思うところだ。

 ご婦人たちの茶会では農場のことを随分と嘲笑されたし嫌味も言われたが、笑って聞き流した。今では農場で作って売り出している菓子は貴族にも人気だ。


 今回は日照りに備えてソバを普及させたいそうだ。上手く普及するといいが。

 夫だけでなく庭師のトムも料理長のサムも協力してくれていて心強い。


 一緒にケーキやパイを焼いているときは楽しく心安らぐが、そんな時もあの子は「お菓子の生地を焼くと膨らむってことは、中の何かが膨らんでるってことで、膨らんでるのは何かしら」とフォークを片手に断面を見て考え込んだりしている。


 あの子はこの先どんな人生を歩むのか。

 あの子の賢さを殿方に受け入れてもらえるだろうか。生意気で煩わしい、可愛げがないと思われないだろうか。


 取り越し苦労が過ぎるかもしれないが、あの子が結婚をせずに生きる道を進んでもいいように、資産を用意した方が、と思っている。


 それなのに

「お母さまの家系の血を濃く受け継いでいたら、私は子沢山になるわね。でもお父様の血筋に似たら無理だわね」

と笑っていた。


 胸が痛んだ。可愛いあの子を否定せず、型にはめ込まない人に出会えますように。私は毎日のように祈っている。

 

 それと、これだけは夫にも親兄弟にも言えないけれど、あの方が、娘を丸ごと笑って受け入れてくださってる大らかなあの方が、せめて普通の貴族だったらどれだけ良かったか。繰り返し思う。


「いなくなったあの人」のようには絶対にさせたくない。


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コミック『超!!! 天才発明令嬢のパワフル領地改革1・2・3・4・5巻』
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