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私は貴方を許さない  作者: 白湯子
第5章「正義の履き違え」
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83話



「おい、エリザ。検査の結果が出たぞ。」

「…殿下。何度も言っておりますが、部屋に入る時は必ずノックを…」

「へいへい。以後気をつけますよっと。」



私の言葉を遮ってズカズカと部屋に入り込んできた殿下は、ソファーに座っている私の隣に、どっかりと腰をおろす。

そのふてぶてしい態度にため息をつき、読んでいた本を閉じた。



*****



彼の寝室に拐かされて……ごほん、殿下に保護されてから、早くも2日が経った。


今私は、皇宮の敷地内にある診療棟に身を置いている。

診療棟とは、常時皇宮医が滞在しており、皇族の体調管理や出産、治療等を担っている施設だ。

なぜ、そんな所に皇族ではない私が居るのかというと、全ては隣にいる殿下の計らいである。


殿下と話しを合って、義弟の居るシューンベルグ邸に帰るのは危険だと判断し、しばらく皇宮で過ごすことにしたのだ。

表上は、突然倒れた私を殿下が診療棟へ連れてきて精密検査を受けさせた、ということになっている。


本来ならば有り得ない事例であるが、殿下からの口添えと、皇帝陛下と私の父が旧友ということもあり、この特別待遇の許可が皇帝陛下から直々に下りたのだ。

このことを殿下からあっけらかんとした口調で聞かされた時は、あまりにも恐れ多いことに倒れそうになった。


が、


その後、私の父が尋常ではない早さで仕事を終わらせて、ここに向かっていると言われた時は、どう言い訳をしようと頭を抱えた。「愛されてんな、お前。」と殿下からケラケラと言われたが、素直に喜べなかった。果たして、この嘘がどこまで通用するか…。


今の所、殿下のよく回る口のおかげで(褒めているつもり)疑われている様子はない。私を世話してくれている侍女たちは、とても好意的だ。純粋に私を心配してくれる様子がひしひしと伝わってきて、良心がかなり痛む。


そして、私は一応体調不良となっている為、学校にも行っていない。…まぁ、隣にいる人のせいで制服が無惨な姿と変わり果ててしまっているので、どっちにしろ学校に通うことは難しい。

私たちが通う学校は、服装に対して厳しいのだ。どんな理由があれ、私服でその敷居を跨ぐなど、あってはならない。常識知らずだと世間に叩かれてしまう。


丁度、明後日から厳しい冬に向けて長期休暇が始まる。成績に特に問題のない私が、数日学校を休んだところで影響はない。


なので、有難くこの特別待遇に甘えている。



「さてと、検査の結果だ。」



自覚症状はないのだが、念の為と殿下に検査を勧められたのだ。

殿下は、検査結果の1枚の用紙に、ざっと目を通す。



「…へぇ?」



口角を上げ、ニヤリと悪い顔をした殿下に嫌な予感がした。



「な、何か問題がありましたか?」

「あぁ。1箇所だけ異常値があるぞ。」

「い、異常値…?一体何処ですか?」



不安げに彼を見上げれば、殿下は凄くいい笑顔をみせてきた。



「ここ。」



彼は、私の胸をツンとつついてきた。彼の人差し指が私の胸に埋まっているのを見て、ピシリと固まる。



「バストが平均値を超えている。けしからんな、おい。」

「~っ!!また、ふざけたことを…!!」



その不埒手を叩き落とし、検査結果の用紙を奪おうと手を伸ばす。だが、彼の方が腕が長いので、僅かに届かない。



「はははっ。そんな怒るなって。」



ケラケラと笑いながら彼は私の頭に手を伸ばす。



「―っ、」



私は咄嗟に頭を腕で守り、体を強ばらせた。



―あ、



彼は一瞬傷付いた表情を浮かべる。その顔を見て、またやってしまったと思った。


私と殿下の間に気まずい空気が流れる。


殿下に襲われたあの時から、彼に触れられると過度に反応してしまう。

彼が、私を傷付けるつもりは無い、ということはわかっている。だが、どんなに抵抗しても、力では勝てなかったという恐怖心が身体に染み付いてしまっているのだ。


お互い、相手を傷つけたい訳ではない。だが、その気持ちとは裏腹に、無意識に相手を傷付けている。今の私と殿下は、まるでハリネズミのジレンマのようだ。



「…すみません…。」

「…いや。俺こそ、すまん。」



なんとも言えない笑顔を見せた彼は、私を気遣うように少し距離をとった。彼のことを怖がっているくせに、その距離が寂しいと思うだなんて…矛盾している。



「…話しを戻すぞ。検査の結果、お前の血液の中に〝青の魔力〟が微量ながらも含まれていた。」



その言葉に驚き、息を呑む。



―私の中に、青の魔力が…?



「大方、クソベルトにでも入れられたんだろ。心当たりはあるか?」



指を唇の添え、少し考える。しばらくして、頭に浮かんできたのは…



「…カモミールティー。」



ポツリと呟くと殿下はピクリと片眉を上げた。



「カモミールティー?」

「はい。ユリウスによくカモミールティーを入れてもらっていたのですが、そのカモミールティーから鉄の香りがしたことがあったんです。」



その匂いに気付いたのは確か、聖女と義弟と3人でランチを過ごした時だ。その事を説明すると、殿下は「あぁ、あの時の。」と合点がついたように呟いた。…そうだ、彼は私を監視していたんだった。



「確定だな。アイツは飲み物に自分の血を入れて、お前に飲ませていたんだよ。…気持ちわりぃ。」



義弟が自身の血を私に飲ませていた?

そんな、馬鹿な。だが、検査結果がそれが事実だと裏付けている。

そこまで考えて、ぞわりと全身が総毛立つのを感じた。



「一体何のために…。」

「青の魔力は万能だ。なんだって出来るぞ。一時期、お前が情緒不安定だったのもアイツの血のせいだな。」



言われてみれば…義弟のカモミールティーを飲んだ後は、妙に感情が高まっていた気がする。

だがそれは、義弟に心を許しているからだと思っていたが……まさか青の魔力のせいだったなんて…。


彼は言葉だけでなく魔力でも私を堕落させようとしていたのだ。…徹底的だ。



「その血が抜けるまで、数日かかる。それまで、ここで大人しくしていろ。ここに居れば、アイツもうかつに手を出せない。」



皇宮には、如何なる魔力も通さない鉄壁の結界が張られている。もしかしたらここは、帝国で1番安全な場所なのかもしれない。


…魔力のない私はこうして誰かに守ってもらわなければ、身を守ることができない。…これでは、私の方が寄生虫のようではないか。


黙り込んでしまった私を、殿下は何かを考えるようにして、じっと見つめてくる。

そして、おもむろに立ち上がった彼は、何故か私の足元に傅く。何事かと狼狽えていると、彼は私の右足を掴み、あろうことか私の足の甲に唇を落としてきた。



「なっ!」



彼の突然の行動に驚愕し、目を見開く。

そんな私のことを、彼はニヤリと笑い上目遣いでこちらを、見てきた。



「足の裏もキスしてやろーか?」



因みに、今私は踵の低いブーツを履いている。そのブーツに唇を落とされただけで、気を失いそうだったのにブーツの底にキスされてしまったら、恐れ多さに死んでしまう!!



「おやめください!皇太子である貴方がなんてことを…!ご自分の立場をわかっているのですか!」

「ちゃんと理解している上で、やっている。」

「尚更タチが悪いです!」

「はは、そう言うなよ。これでも、お前の信用を取り戻そうと必死なんだぜ?」

「…。」



2日前、彼が私のお腹から目覚めた時、「信頼を得る時よりも、失った信頼を取り戻す方が大変なんですよ。」という話をしたことを思い出した。



「まぁ、心配すんなって。俺がちゃんと守ってやる。これは忠誠の証だ。皇太子である俺がここまでしているんだから、少しぐらい信用してくれよ。」

「わかりましたから!早く、手を、離してください!」



我慢できなくなって、私が貴方を蹴り上げる前に!!



「仰せのままに、エリザベータお嬢様。」



そう言って、そっと私の足を床に下ろした彼は、意地の悪い顔をしていた。





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