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私は貴方を許さない  作者: 白湯子
第3章「後退」
52/217

51話



モニカside



男たちの話を聞いた私は、町外れにある森を散策するという男の班に紛れ込む。私のような侍女も数名見られるので、とくに違和感なく入り込めた。


どうやら、捜索には騎士だけでなく、侍女や皇族も駆り出されているようだ。なるほど、皇宮に人間の気配が感じられなかったのは、皆がアルベルトの捜索にあたっていたからか。



森に近づく度、夕闇はどんどん夜の暗さに変わっていき、森に辿り着いた頃には辺りはすっかり深い闇に包まれていた。唯一の光である月が完全に厚い雲に隠れているため、いつもの夜よりも闇の密度が濃く感じられる。


昼間とは違う夜の森の薄気味悪さに、思わず後ずさりをした。そんな自分にハッとし、心の中で舌打ちをする。



―怖がっている場合じゃないでしょ、モニカ。



誰よりも早くアイツを見つけて、必ず殺す。

私は前を睨み付けながら、もう二度と入ることはないだろうと思っていた森に足を踏み入れた。



※※※※※



初めは、木の根に躓くなど暗闇に悪戦苦闘しながら、だんだんと夜目にも慣れてきた頃、私は酷く焦っていた。



―居ない、居ない、居ない、居ないっ!アイツは何処だっ!!



血眼になってアルベルトを探すが、奴は一向に姿を表さない。

だいぶ時間が経っているというのに、手がかりの1つも見つからないことに私は焦りと苛立ちを覚えていた。


こんなに必死で捜しても見つからないということは、アイツはもうこの国には居ないのでは…?誰も知らない遠くの国へと逃げたんじゃ…


私は両手で口を覆い、その場に膝をついた。どんどん嫌な方へと考えてしまう。

もし、アイツが遠くの国に逃げてしまったら、魔力のない私ではどうすることも出来ない。


絶望で身体が震え出す。

嘘だ。そんなの嘘だ。

私しか居ないのだ。私しか、お嬢様の無念を晴らせないのに。私しか…。


その時、脳の芯がズキンと痛んだ。



「…うっ。」



思わず頭に手をやる。


頭が、痛い。頭が、熱い。


まるで誰かの手によって、脳を掻き回させているようだ。その手は勝手に私の脳を動き回り、ひとつのピースを摘み出す。そして、何かの記憶がすっと消えた。


あぁ、私の中から××が消えていく。


いやだ、やめろ。勝手に消さないでくれ。あぁ、嘘でしょ、あの人のことも忘れていくの?あの人の声は?顔は?仕草は?そもそも、あの人って?あぁ、いやだ、嫌だイヤだやめてやめてやめてください。あの人の事だけは、消さないで。

その記憶が無くなってしまったら、私は…


“青の魔力”を前に、自分はこんなにも無力なのかと思い知らされた私は、もう這い上がれないほど、深く、深く、底の見えない絶望に堕ちてしまった。








絶望に沈む私の鼻先を、懐かしい香りが掠めた。

甘くて、スッキリとした…まるで林檎のような香り。


私は顔を上げる。頭の痛みは消えていた。



―…これは、あの人の香りだ。



顔も声も仕草も名前も忘れてしまったけれど、香りだけは記憶に残っていた。



―貴女に会いたい。



何も覚えていないけれど、その気持ちだけが私を突き動かした。ふらりと、その香りがする方への足を進める。


森の奥へ奥へと入っていくと、微かだった香りがどんどん濃厚なものへと変わっていった。きっと、貴女に近づいているんだ。


どこにそんな力が残っていたのか、私は森を駆け出した。身体はとっくに限界を超えている。色んなところから血が滲んでいたが、それに構っている余裕なんて無かった。


その甘い香りに誘われたのか、私以外の人間も同じ方向へと走っている。

私を含め、皆、無我夢中で森の奥へと進んでいった。



※※※※※



―ここだ。



しばらくして、広く拓けた場所に辿り着いていた。しかし、辺りは濃い闇に包まれており、よく見えない。


あの人の香りだけを頼りに足を踏み入れた瞬間、辺りが一気に月明かりに照らされた。月を覆っていた厚い雲が何処かに流れていったのだろう。

夜目に慣れていた私には、それが余りにも眩しくて咄嗟に目をつぶった。周りに居る人間も同様な反応を見せている。


月明かりはこんなにも眩しかっただろうか?不思議に思いつつ、私は恐る恐る目を開けた。



「…っ!?」



目の前に広がる光景に息を呑む。

そこには真っ白な花畑が広がっていた。


月明かりに照らされた花々はより一層輝きを放っており、深い夜の闇を眩しいくらいに白く照らしている。


月に向かって咲く、白い花。

そうだ、これはカモミールだ。ノルデン帝国では割とポピュラーな花で、よく町とかでも咲いているのを見かける。


だが、何故こんなところに咲いている?今は冬だ。カモミールが咲いているだなんて、ありえない。だが、ここに咲くカモミールは全盛期のように美しく咲き誇っている。


ふと、花畑の中心部に違和感を感じた。

何故かあそこだけ、花が咲いていない。ぽっかりと空間が空いているのだ。周りの人間も同じく不思議に思ったのだろう、恐る恐る足を中心部に進めている。私も、彼らの後に続いた。


中心部に辿り着いて、何故そこだけポッカリと空間が出来ていたのか納得した。



―あぁ、なるほど。花が咲いてなかったんじゃなくて、花が潰れていたから見えなかったんだ。



そう、潰れていた。











―――2人の、人間だったものによって。









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