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私は貴方を許さない  作者: 白湯子
第10章「奈落の告白」
213/217

205話



ユリウスside



ザシュッ!と肉を貫いた音が、薄暗い奈落の底に鈍く反響した。


傷口から血が噴き出し、辺りには青い雨が降り注ぐ。



「…え?」



己の胸に深々と突き刺さる長い釘を見下ろし、きょとんと眼を見開くペティーナ。


一体、自分の身に何が起きたのか。まだ理解できていない彼女の身体に、四方八方から次々に飛んでくる釘が容赦なく突き刺さる。



「ぐふっ…」



青い血しぶきを上げ、毛虫のように全身釘だらけになったペティーナは、口から血を吐き出し、両手で握っていた剣をカランと地面に落とした。


誰がどうみても十分な致命傷だ。

だがペティーナはしぶとかった。



「無駄な、悪足搔き、してんじゃねぇ、よ。」



忌々しく舌打ちをしたペティーナは、震える手で新たな武器ーーー己の腕に刺さった釘に手を伸ばす。

今度は目でも狙うつもりだろうか。先程はわざと手足を刺されたが、もうその必要はない。

僕はすぐさま、その手を捕らえた。



「ーッ!?」



ジャラジャラと音を立てながらペティーナの手を捕らえたのは、まるで蛇のように彼女の手首に巻き付いた赤黒い鎖。

驚愕に眼を見開くペティーナに構わず、四方八方から伸びる鎖がペティーナの身動きを次々に封じていく。手、首、胴体。そして、僕に馬乗りになっている彼女の足は、僕の胴体ごと念入りに巻き留めた。



「んだよ、これ…!!」



ペティーナは体中に巻かれた鎖を引き剥がそうと、髪を振り乱し躍起になって藻搔いてみせるが、鎖は一向に緩む気配を見せない。



「高濃度の魔力を練り込んだ鎖です。さすがの貴女でも引きちぎるのは難しいでしょう。」

「てめぇっ、こんなんどっから…誰か居るのか!?」



ペティーナは血走った目で辺りを見回すが、この奈落に居るのは彼女と僕だけ。



「おや。さっきまで貴女があちらこちらにばら蒔いて下さっていたじゃありませんか。」

「…は?」

「釘も鎖も貴女が叩き割ってくれた防壁の欠片です。」



何処からでもペティーナのことを拘束できるよう、この奈落の底を隙間なく駆けずり回り、彼女に魔力の防壁を叩き割らせてきた。魔力の欠片は満遍なく奈落の底に散らばり、死角はない。

回りくどかったが、僕の魔力には限りがある。

どうしても力の無駄打ちだけは避けたかった。



「…ははは、」



ペティーナは乾いた笑い声を漏らす。

その瞳には諦めではなく、嘲笑が浮かんでいた。



「こんなんで私を捕まえたつもりだなんて、ほんと笑っちまうよな…なァ!?」



語尾を荒げたと同時に、ペティーナはジャラジャラと鎖の音を立てながら、僕の首を両手で絞めてきた。

急激に気道が狭まり、息苦しさが容赦なく襲い掛かる。

反射的に彼女の手を引き剥がそうとしたが、手のない僕の腕は虚しく宙を掻いた。


まさかあの鎖を引きちぎったのか。そんな考えが頭に過ったが、ペティーナの両手首に巻かれた鎖はピンッと張ったまま。彼女を拘束し続けている。

ペティーナは拘束されたまま、純粋な力技だけで、僕の首を絞めているのだ。

そんな彼女の手首には鎖が食い込み、ダラダラと血が流れ、僕の首元を青く青く染めていく。

このまま鎖を引っ張り続ければ、ペティーナの手首は引きちぎれてしまうだろう。



「とっとと消え失せろ害虫!!エリザベータ様が居る世界にお前は必要ねぇんだよ!!!」



瞳に憎悪の炎を滾らせ、両手に力を込めていくペティーナ。鎖で両手首を拘束されているからか、本来の怪力は出せないようだ。

だが所詮は時間の問題。


僕も彼女も。



「…確かに、貴女の言う通り、です。」

「あぁ?」

「あの人が居る世界に、僕たち害虫は必要ない。」



そう言い終わると同時に、瞳に焼けるような熱が灯った。



「お前っ、」



ペティーナがそう言いかけた瞬間、僕たちの周りに青い炎が噴き上がった。

炎は僕の手足から流れ出る血を貪欲に呑み込み、僕たちを囲みながら瞬く間に天井を突き上げるほどの巨大な炎柱となる。



「僕は、この瞬間の為だけに生まれてきました。」



息を吞み、烈火のごとく燃え盛る青い炎を見上げていたペティーナは、驚愕に眼を見開いたまま僕を見下ろした。

そんな彼女に、僕は晴れ晴れしい気持ちで微笑む。



「一緒に死にましょう、ペティーナ。」



ゴォォォォッ!!と唸る炎は僕たちを焼き尽くそうと激しさを増す。

かつて聖女マリーの魂まで焼き尽くしたように。


ここでペティーナを殺しても、天文学的な確率を乗り越えて、新たな聖女という名の犠牲者が誕生してしまうだろう。


だが、そうならないよう、僕は彼らに託した。

僕だけでは成し得ることができなかったことを。

未来を託した。


だから、もう、僕の役はここで終わり。



「…あー、なるほど。妙に殺る気ねぇなと思ってたら、最初から死ぬつもりだったんだな、お前。」



そう気だるげに呟いたペティーナは次の瞬間、カッと目を見開き、僕の首を絞める両手に更に力を込めてきた。



「ふざけんなッ!!」



グッと僕に顔を近づけたペティーナは、噛みつきように怒鳴った。



「死ぬなら一人で死ね!!テメェの自殺に私を巻き込むな!!」



グググ…と気道が隙間なく塞がれ、空気が一切入ってこない。

肺が貪欲に空気を求め、悲鳴を上げる。

次第に頭の中に霧がかかり、視界が霞む。

霞んだ世界は青い炎が覆い尽くし、その中にはペティーナが鬼の形相で僕を見下ろしている。

彼女の手首からはとめどなく青い血が流れ、服が燃え、肌が蝋のように爛れ始める。

だがピンクダイアモンドの瞳だけは、炎の中でも変わらずに爛爛と光っていた。


なにをチンタラしている。

とっとと焼き尽くせ。


もう二度と、僕たち害虫が、彼女が居る世界に生まれてこないように。


存在することすら烏滸がましい、この卑しい魂ごと燃やし尽くせ。


そうすれば、未完成だった彼女の世界が完成する。


本来、彼女に与えられるはずだった、彼女が彼女らしく生きれる世界に。


そうだろう?世界。









































「ユーリ!!ベティッ!!!」



轟々と音を立てて燃えさかる炎に交じって、彼女の声が聞こえた。

幻聴?

走馬燈?


まさか、そんな、ありえない。


そう思うのに、散らばった気力を搔き集め、霞んでしまってほとんど見えない両の目を凝らしてみると、何かが物凄い速さでこちらに落ちてくるのが見えた。

蟻のような大きさだった影は徐々にその姿を鮮明に表す。


馬鹿な。瀕死の虫が見る都合のいい夢か。


バタバタとスカートをはためかせながら頭から落ちてきているのは、栗色の髪をもった少女。

少女は全てを焼き尽くす地獄の業火を物ともせず、確実に僕たちの元へと落ちてくる。


青い炎に照らされ、キラリと煌めくエメラルドの瞳が、あまりにも美しくて―――気付けば、僕の魔法が解けていた。辺りは、火に水をぶっかけた時のように、白い煙が立ち込め、煙幕のように視界を遮った。


何が起きた?僕の意思ではない。この魔法は僕の生死関係なく魂を燃やし尽くすまで消えないよう新たに数式を組み直した魔法だ。

ならば、誰の意思だ。

世界?

それとも傍観者か?


突然、身体中の拘束を解かれたペティーナは、身体のバランスを大きく崩した。だがすぐに、落ちてくる少女の存在に気付いたのか、ペティーナはまるで憑き物が剥がれたかのような、年相応のあどけない瞳を見開いて見せた。


ペティーナが何かを言いかけたと同時に、首の拘束が解かれ、急激に酸素が肺に入り込む。僕は激しくむせ込みながら、ただ必死に白い世界に腕を伸ばした。すると、すぐに白い世界から少女が飛び出し、その勢いのまま屋根に積もった積雪の如く、少女は僕とペティーナの上に落ちてきた。


ドシンッ!!と、まるで空から象が降ってきたような衝撃が全身を襲う。だが予測したほどではない。

少女が纏った微量な魔力を感じ、すぐに納得する。

騎士ナイト気取りの雑草か。



「…どうしてここに…」



僕とペティーナを同時にラリアットしたような体勢で、僕たちの上で倒れている少女に恐るおそる訊ねた。



「どうしてって…」



そう言いながら少女はむくりと上体を起こし、僕たちを静かに見下ろした。



「上と下の姉弟きょうだい喧嘩を止められるのは、真ん中の私だけだからよ。」

「…は?」



意味が分からなかった。

真面目な顔して、この人は何を言っているのだろうか。

僕が知りたいのは、そんなことじゃない。


怪我はしていないか。

痛いところはないか。

どうして上から落ちてきたのか。

ビアンコたちは何をしている。

貴女に魔法をかけたテオドール殿下はどうした。

虫下しの薬は効いているのか。


いや。それよりも、なりよりも。


その短くなった髪はどうしたのか。

いったい誰にやられたのだ。

誰に傷つけられたのだ。

誰が泣かせたのだ。


誰が、貴女を…


次々に浮かぶ言葉が喉まで出かかって、そのまま沈んでいく。


貴女に言いたいこと、聞きたいことが、たくさんたくさん…山のようにある、のに。



「…なん、ですか…それ…」



また会えると思っていなかった僕は、そう返すだけで精一杯だった。




























***



テオドールside



「っだぁ~」



エリザが無事にクソ姉弟の元へ行けたのを確認した俺は、エリザにかけていた魔法を解き、その場に尻餅をついた。

頭からは滝のような汗が吹き出し、手がカタカタと震えている。安堵の余韻と魔力を使いすぎた反動だ。


クソベルトの炎を制御しようとしていた他の魔力保持者たちも、俺同様にその場にへたり込んでいる。



「誰か縄梯子を持ってきてちょうだい。動ける者は、下の子たちを助けに行くわよ!」



俺の横ではビアンカが動ける騎士たちに指示をとばしていた。



「わりぃな、ビアンカ。」

「いいえ。魔力のないアタシは見ていることしかできなかったですもの。後のことはアタシ達に任せて、殿下は休んでてくださいな。」

「いや、大丈夫だ。」



流れる汗を拭い、俺はややふらつきながら立ち上がる。すると、そんな俺の身体をビアンカはガシッと横抱き―――俗に言うお姫様抱っこをしてきやがった。



「おい。」

「だってぇ~!子鹿のようにプルプル震える殿下が、アタシ心配で心配でぇ…!」

「だー!耳元で騒ぐな!うるせっうるせっ!」

「真面目な話、本当に大丈夫ですか?」

「あー…。身体は本当に問題ねぇけど、どっちかっつうと精神の方がきている。」



魔力のないエリザが、五体満足で助かる保障はどこにもなかった。保険なしの大きな賭けに出た心労が、ここにきて重く俺の身体に圧し掛かる。



「こんなん、命がいくつあってももたねぇよ」

「あら、アタシの気持ちが分かったようですね。」



茶目っ気たっぷりな笑みを向けられ、一瞬”いったいなんのこっちゃ”と思ったが、すぐに少し前の出来事を思い出す。

ビアンカはきっと、俺も前線で戦うと言い出した時のことを言っているんだろう。



「あぁ、痛ぇほど分かったよ。」



送り出す側がこんなにもキツイだなんて知らなかった。

ビアンカは小さく笑い、俺を横抱きにしたまま歩みを進めた。



「あいつ…エリザさ、」

「蛙ちゃん?」

「そ、蛙ちゃん。初めて会った頃、目を離したらすぐに死にそうな目をしててさ、俺が守ってやらねぇとなって思ってた。」

「…。」



アルベルトに怯え、300年前に囚われ、それを無理に押さえ込んで、当時のエリザ破裂寸前の風船のように酷く不安定であった。

それに加えてモニカ記憶もあった当時の俺は、正義のヒーロー如く使命感に燃えていたのだ。

それをクソベルトに言わせれば、『騎士ナイト気取りの雑草』らしい。ハハハ、滅せろ、ロリコン野郎。



「けどアイツ…いつの間にか俺が守る必要がないぐらい、前に進んでた。」



あんなにもアルベルトに怯えていたエリザが、高さのある場所から飛び降りて、アイツらの元に行くだなんて。

当時のエリザからは全く想像ができない。



「俺はすっかり置いていかれちまったな。」



思わず俺の口からは「ははは…」情けない乾いた笑い声がもれる。



「んもう、殿下らしくない声を出さないで下さいよっ!ぶちゅっ♡」

「おえっ」



突然、俺の頬にビアンカの熱くて厚い唇が押し当てられ、そのおぞましい感触に全身に鳥肌が立った。ジタバタと暴れるが、ビアンカの逞しい腕が俺の身体をしっかりとホールドして離さない。今は要らない安心感だ。



「殿下だって前に進んでいますわよ。以前の貴方だったら、こんなにも必死になって誰かを守ろうとはしなかったでしょう。共に剣術を習った弟弟子であったとしても、障害となれば迷いなく切り捨てていたはず。あ、それが悪いとは思いません。それも一つの英断でしょう。」

「…。」



ビアンカと出会った頃の俺は、モニカの記憶を色濃く持っており、何処か俯瞰的に世界を見ていた。

300年前の世界が本物で、今、俺が生きている世界が偽物。偽物だと思っていたから、全ての人間に興味がなかった。


だから、エリザと初めて出会ったとき。

まだ不確かではあったが、はじめて生きている人間と出会えたような気がして、嬉しかったのだ。



「でも、今回。殿下はそうしませんでした。アタシ個人の感情ですが、それがとても嬉しかったのです。」

「…。」

「アタシの教え子を守ってくださって、ありがとうございました。人として、本当に大きくなりましたね。」

「…ははは…ババァくせぇこと言うようになったな。」



急に胸が押し潰されたように苦しくなり、目頭が熱くなった。

俺は大きく息を吸って、そして吐き出した。



「俺は、守れなかった。逆だ。俺がアイツらに助けられた。」



先程の、俺の魔法を受けて倒れていく歳若い弟弟子達の姿が瞼の裏に浮かぶ。



「俺は、弱い。」

「そうですわね。」

「はっきり言うなよ。」

「おほほほ、ごめんあそばせ♪アタシ、昔から嘘がつけないタチですので。」

「あぁ、よく知ってるよ。」



ビアンカは昔からこびへつらうことなく、ありのままを伝えてくれていた。



「ビアンカ。俺、強くなりたい。お前や親父オヤジみたいに。」



それと、絶対に口にはしないがアルベルト。

性格と今までやってきた行いはクソだが、俺の記憶上、アイツ以上に魔力を自由自在に操れる奴はいない。



「なれますよ、殿下なら。」

「また剣の稽古、つけてくれるか?」



俺は自分の魔力の高さに胡座をかき、剣の稽古を真面目に取り組んでいなかった。



「うんと厳しくしちゃいますけど?」

「望むとこだ。」

「あら、頼もしいですね。……………それとぉ、あの~、話はものすっごく変わっちゃうんですが…。」



突然、ビアンカがソワソワもじもじし始めた。そして、俺が承諾する前に、ビアンカはコソッと俺の耳元で囁いた。



「ずっと聞きたかったんですけど、殿下って蛙ちゃんのこと好きなんですか?」

「あ?」



熱くなっていたはずの目頭が、なんの脈絡のない話題のせいで、すっと冷えた。俺の涙は何処へ消えてしまったのだ。



「藪から棒にどうした?」

「いやぁ~もう聞けるタイミングって今しかないと思いまして。で、実際どうなんですか??誰にも言いませんから!ねっ!」



ビアンカはつぶらな瞳を輝かせ、まわりに聞こえないよう耳元でコソコソと話す。その配慮が逆に腹立たしい。

そしてこのタイプの”誰にも言いませんから”は世界一信用ならん。

俺は溜息まじりで、噓偽りない真実を告げた。



「変に期待しているところ悪いが、そんなんじゃねぇよ。」

「えぇっ!うっそ!絶対好きだと思ってたのにぃ!!じゃぁ、どんな子がタイプなんです??」



このおっさ…乙女は、何かしら収穫しないと気が済まないと性格なのは、昔からよく知っている。

俺はぶっきらぼうに答えた。



「単身で敵地に乗り込んで、敵の大将の首を取ろうとする女。」

「…え、アタシ?」

「んなわけねぇだろ!」



ぽっと頬を染めるビアンカに、俺は全力で頭突きした。だがビアンカは一切ダメージを受けていないようで、俺だけが痛いおもいをした。その世界は理不尽極まりない。クソが。



「アタシじゃないとすると、そのお相手を見つけるのは非常に難しいかと…あらやだ、皇族家存続の危機に直面しちゃったわっ!どうしましょ…!」



ぶつぶつとビアンカはやけに真剣に悩みだした。

そんなビアンカを横目に、俺は本日何度目になるのか分からない溜息を吐く。


居たんだよ、300年前に。



「おい、ビアンカ。今はそんなくだらねぇことを考えている場合じゃねぇだろ。」

「あ、一人居たわ。」

「あ?」



ビアンカのつぶらな琥珀色の瞳が、きらりと煌めいた。







































***



カールside



「ブエックションアッハァァァイッッ!!」

「た、大尉殿。大丈夫ですか。」



だいぶ癖の強いくしゃみを一発かました、デューデン国海軍提督閣下の孫であり、第二王女でもある、アドリア=レシーナ=デューデン海軍大尉は、人差し指で鼻下を擦りながら鼻を啜った。



「やっ。食事中にすまない、カール殿。だがしかし、これは人間の生理的現象。どうかその海のように深いお心で許してほしい。」



彼女から発せられる凛々しさのおかげか、鼻を啜る姿さえ絵になる。

話せば話すほど、ノルデンには居ないタイプの女性だ。



「我々は気にしておりません。ただノルデンの寒さが大尉殿のお身体に障ったのではないかと心配で…」

「おぉ、なんとお優しい!その貴殿の温かいお心遣い痛み入る。だが、どうか心配しないで頂きたい。このくしゃみはきっと、何処かで私に恋焦がれるレディたちが噂話に花を咲かせている知らせだからね。」



背後に薔薇を背負った(ように見える)大尉は、私に向かって華々しいウィンクを放った。

幻覚か。私の周りにも薔薇の花びらが舞い始めたぞ。



「ははは…それなら良かったです。(?)」



私は曖昧に笑い、大尉や他の海軍兵たちが我々の為に作ってくれた温かい海鮮スープを啜る。

大尉と話していて分かったことがある。


決して悪い子ではないと思うのだが……おじさん、この子のこと、少し苦手。


だが仕事の話は別だ。

大尉からは大変興味深い話を聞けた。

今後、世界は大きく変わるだろう。


それが良いか悪いかは、私には分からない。

けれど、私は思った。

新しい世界を見てみたい、と。

年甲斐もなく、と思うかい?

でも君もそう思うだろう?

レオノーラ。



「…おや、そろそろ夜明けだ。」



大尉の言葉に、私は東の空を見た。

目を刺す眩い朱色が、見慣れた星空を西の彼方へと追いつめ、新たな年の黎明を告げる。


あぁ、長かった夜が本当に明けるのだ。


もうじき、優しい闇が隠していた雪上に残る赤い真実を、太陽の光が嘘偽りなく照らし始めるだろう。


私はその光景をこの両の目に焼き付けなければならない。それは私が墓場まで一生背負っていく十字架だ。


西の彼方に僅かに残る夜を吸い込み、東の朝に白い息を吐く。



「おはよう。エリィ、ユーリ。」



何ものにも代え難い、私の最愛の子供たち。


君たち2人にとって、新たに始まるこの1年が、希望に溢れる年になりますように。




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