表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は貴方を許さない  作者: 白湯子
第1章「共依存」
2/216

1話



「エリザベータ、お前もご挨拶を…。エリザベータ?」

「っ。」



父に話しかけられたことによって、世界が再び動き出す。



―いけない、こんな人目が多いところで粗相なんて出来ない。



今にも倒れそうな体を奮い立たせ、微笑の仮面を貼り付ける。有難いことに体は自然と動いてくれた。



「皇太子殿下、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。シューンベルグ公爵家の長女、エリザベータ=アシェンブレーデルと申します。」



両手でスカートの左右を摘み上げ、片足を後ろ側に引き、もう片方の足をまげて腰を落とした淑女の挨拶、カーテシーをとる。

教本通りの挨拶を流れるようにとってみせると、隣に立つ父から「おや?」と、少々驚く様子が伝わってきた。…まぁ、今 父が何を考えているのか何となくわかる。


私の母は私を産んですぐに亡くなってしまった。元々身体の弱い人だったらしい。

母を深く愛していた父は母の忘れ形見である私を溺愛し、ドロドロに甘やかした。そして蝶よ花よと育てられた結果、1人では何も出来ない娘となってしまった。

それが先程までの私。そんな娘が急に洗練された挨拶をとってみせるだなんて驚きだろう。

記憶が蘇った今、前世で何度も何度も練習した淑女の挨拶は魂に刻まれているかのように身体を動かしてくれた。



「どうした、エリザベータ。顔が真っ青じゃないか。」



顔色までは誤魔化せなかったようだ。私の異変に気づいた父は私の肩を抱く。



「初めての社交界に疲れてしまったのだろう。明日からは学校が始まる。今日は早く休んだ方がいい。」

「殿下、お気遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えまして、私たちはこれで失礼致します。エリザベータ、歩けるかい?」

「えぇ。…失礼致します。」



最後は殿下の顔を見ることが出来なかった。



父に支えられながら馬車まで辿り着いた途端、身体がぐらりと傾く。緊張の糸が切れたのだろう。

遠くで私の名前を呼ぶ父の声を最後に、私は意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ