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私は貴方を許さない  作者: 白湯子
第9章「愚者の記憶」
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127話 BADEND

注意

・127話のBADEND

・もしもエリザベータがユリウスを拒絶したら…というイフストーリ

・救いなしの普通のBADENDなので飛ばしても大丈夫です。(後の本編の補足にはなるかもです)




「…寂しかったのですか?」

「寂しい、ですって…?」



彼との感覚の違いに、心の奥底で燻っていた怒りの残り火が、カッと炎を上げた。



「馬鹿なことを言わないで…!」



私が感じていたものは恐怖だ。

彼の気まぐれで食事の提供が途絶えてしまえば、私は餓死してしまう。そんな死に対する怯え。だから、寂しいだなんて、そんな可愛いものではない。


それを伝えようとした。

けれど、人の気持ちを理解できない彼に話したところで何も変わらないと悟った私はグッと気持ちを飲み込み、代わりに拒絶の言葉を吐き出した。



「出てって。」

「姉上、」

「今すぐここから出て行って。」



性懲りもなく、こちらに手を伸ばそうとしてくる彼を鋭く睨みつける。

すると彼は伸ばしていた手を下ろし、こちらに悲しげな視線を向けてきた。

なぜ、そんな目で見てくるのか。全くわからない。

理解できない彼の存在が、酷く不快で、腹が立つ。


視界に入ることさえ我慢できなかった私は彼に背を向ける。

完全なる拒絶。


部屋に満ちる重苦しい沈黙の中で、無限とも思える数十秒が過ぎた頃、彼がポツリと呟いた。



「…すみません。」



その言葉に思わず振り向く。

しかし。

既に彼の姿は、そこには居なかった。



「…ははは…」



一人っきりの部屋に落ちる、力が抜け乾ききった私の笑い声。

その声は次第に大きくなっていった。



「あはははははははははははははは!!!」



私は腹を抱えて笑う。

笑う。

笑う。

狂ったように笑う。


私は彼から守ったのだ。

この小さな世界を。


その事実に私は高揚した。

こんなにも満ち足りた気持ちになったのはいつぶりなのだろう!

興奮に打ち震える身体を抱きしめながら、柔らかなベッドに倒れ込む。

そしてしばらくケラケラと笑いながら身悶えたあと、笑い疲れてしまったのか、急に瞼が重くなった。

抗う必要なんてない。今ならきっと素敵な夢を見ることができるはずだ。

私はそのまま幸せな気持ちで眠りについた。


















*****




真冬だというのに、その日は暑くて暑くて寝苦しい夜だった。

暑さから逃れようと、夢の中を彷徨う私は、呻き声を上げながら何度も寝返りを打つ。

そして、その眠りは、遠くから聞こえたパリンッ!とガラスが割れるような音に妨げられた。

ぼんやりと浮上した意識は、鼻孔をうつ何かが燃える嫌な匂いに一気に覚醒する。

ハッと飛び起きた私は、眼前に広がる光景に言葉を失った。


見渡す限りの赤、赤、赤!

白い部屋は真っ赤に燃え盛る炎に包まれていた。


なぜ、どうして。


意味のなさない、そんな言葉ばかり頭の中を駆け巡る。

もしや私はまだ夢でも見ているのでは。

そんな淡い希望は、覆いかぶさる身を焦がさんばかりの熱気に焼き払われた。


炎は家具や絨毯を飲み込みながら、ジリジリとこちらに迫ってくる。その様子を唖然と眺めていた私は、炎の触手がベッドのシーツを捕らえたのを見て、ようやく今の自分が命の危機に瀕していることに気が付いた。


考えるよりも先に身体が動く。


弾かれたようにベッドから飛び降りた私は迷わず、この部屋に唯一存在する窓へと向かった。

大股3歩ほどで辿り着いた窓は記憶通りの“はめ殺しの窓”。開閉することはできない。

絶望に目の前が真っ暗になる私の脳裏を過るのは、何故か幼い頃に読んでもらった絵本で。その物語の内容が、塔に閉じ込められたお姫様を他国の騎士が窓を割って助けに来てくれる、というものだった。こんな状況で、そんなことを思い出すのは一種の現実逃避なのかもしれない。


今も昔も、私を助けてくれる騎士は存在しない。

存在しないなら、自分で割るしかない。


私は近くにあった椅子を持ち上げ、はめ殺しの窓目掛けて投げ放った。


ガシャン!と甲高い音が耳を劈き、ガラスの破片が飛び散る。

咄嗟に目を閉じ腕で顔を覆ったが、腕や頬に小さな痛みが走った。おそらく血が滲んでいるであろうが、今は気にしている場合ではない。


恐る恐る開いた目に、光が差し込み、息をのむ。

窓の向こうには、鮮やかな朝焼けの空が広がっていた。


なんて美しいのだろう。

その神秘的な光は、一瞬だけ、背後に迫る炎の存在を忘れさせてくれた。


今の私にとって太陽の光は希望の光だ。

手に割れたガラスの破片が刺さることなんて構わず、私は窓の縁に手をかける。


そこは紛れもなく外の世界。


私はようやくここから出れるのだ。嬉しさのあまり、口元に笑みが浮かぶ。

こんなに簡単なことなら、もっと早く窓を割るべきだった。

心の中で、私をここに閉じ込めた男に向かって「ざまぁみろ」と吐き捨てながら、窓の縁に足をかけた。


だがしかし。



「ーっあ!」



私の足には、あの忌々しい足枷が嵌ったままだった。


ガシャガシャと乱暴に鎖を引っ張るが、外れる気配は一切ない。それどころか鎖は熱を孕み、私を焼き殺そうと牙と立てる。

再び目の前が真っ暗になった。これでは外に出られない。

どうしようと悩んでいる間も、背後の炎は無情にも全てを飲み込もうと触手を伸ばしてくる。


あと一歩。あと一歩なのだ。あと一歩で、この地獄から逃れることができるのに。

どうして、どうして、どうして…どうしてこんな事に......


ぐるぐると思考が駆け巡るが、一向に解決策へ辿り着かない。その目的地のない思考の旅路は、とある答えへと着地した。





















………あの男だ。



ポツポツと黒いシミが心に滲む。


全部、全部、あの男のせいだ。


心に増える小さな黒いシミは、やがて全てを覆い、黒く黒く染め上げる。


あの男が、こんなところに閉じ込めるから。

あの男が、足枷なんて嵌めるから。


あの男が、この世界に存在する限り、幸福は永遠に私の元にはやってこない。




















そこまで思って、私はふと気づいてしまった。


きっと、この火は、あの男が放ったものだ、ということを。



「あぁ…あぁ…!」



煮えたぎる憎悪に身体がワナワナと震え、黒く黒く育った心がどぶ泥を吐き出しながら潰れてしまった。

臭くて、汚い、腐った泥が、体中に溢れ、溺れそうになる。そのまま倒れ込みそうになる身体を何とか支えようと、割れたガラスが散らばる窓の縁を手が白くなるほど強い力で掴んだ私は、空に向かって大声を張り上げた。



「神様ァ!!!」



憎らしいほどに鮮やかな朝焼けの空に、私の悲痛な叫びがこだまする。



「どうして私ばかり、こんな目に合うのですか!!!」



轟々と音を立てながら背後に迫る来る炎に、声を掻き消されないよう必死に声を上げ続ける。



「私は今も昔も、何も悪いことなんてしていません!ただ人として、普通に生きて普通に死にたいだけなのです!それをどうして、あなたは許してくれないのですか…!!!」



喉が痛い。

目が痛い。

身体が熱い。

意識が霞む。


こんなにも必死に助けを乞いているというのに、世界は何も変わらない。

朝焼けの空は私を置き去りにして、どんどん遠くに流れてゆく。


待って、行かないで。


そう叫んで手を伸ばす。

けれど、伸ばした手は、まるで引き留めるかのように背後から伸びてきた赤い手に絡めとられてしまった。


背後に感じる紛れもない熱。

もう逃れられない熱。


「…あぁ、そうか…」と呟いた私の口元に、歪な笑みが浮かんだ。





















神様なんて、最初から何処にもいなかったんだ。





















燃え盛る業火の炎に、私の身体は包まれた。



最初に感じた恐怖は、すぐに安堵へと変わる。



だって私は―――



















ずっと誰かに、抱き締められたかったのだから。







































BADEND「花葬ーかそうー」






















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