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私は貴方を許さない  作者: 白湯子
第9章「愚者の記憶」
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161話



アルベルトside



皇宮の外れにある監獄塔から出れば、父と母、そして複数の騎士達が僕を囲うように待ち構えていた。



「何が「お久しぶりです」だ、巫山戯るなっ!!!」



額に青筋を張らせ、目じりを吊り上げた父は、僕に向かって怒声を放つ。父の横に居る母も、父に負けじと声を張り上げた。



「陛下の言う通りよ!この1年、ろくに報告を寄越さなかったくせに、帰ってきて早々こんな………。アルベルト、貴方は今自分がなにをしているのか、ちゃんとわかっているの?」



両親から鋭い視線を向けられた僕は、小さく溜息をつく。こんな所まで来て、わざわざ説教か、と。



「勿論、ちゃんとわかっていますよ。エリザベータ=コーエンは聖女を殺害しようとしました。僕はただそれに似合った罰を与えただけです。」



僕は何も間違っていない。僕は正しいことをした。それなのに、どうして彼らにはわからないのだろうか。



「驕るなよアルベルトォ!!若造であるお前に、人を裁く権利などあるものかっ!!!」



躾のなっていない野犬のように、噛みつかんばかりの勢いで吠え立てる父。以前の僕ならば、この時点で頭に血が上っていただろう。だが、



「…父上は昔から変わりませんね。」



父が憤怒の熱を上げれば上げるほど、僕の頭は冷えてゆく。



「馬鹿の一つ覚えのように、頭ごなしに怒鳴り散らすことしかできない。」

「なっ、」



父の顔にカッと恥辱の朱が走る。そんな父に、ニコリと微笑みかけた僕は、彼らに向かって1歩を踏み出した。



「いつだって貴方は、僕やラルフよりも自分が優位に立つことばかり考えていた。」

「な、何を訳の分からんことを…」



1歩、また1歩と。僕はゆっくりと、そして確実に、彼らとの距離を詰めてゆく。



「それは一体何故か。国を背負う皇帝陛下としてのプライドか、それとも1人の父親としてのプライドか。」



憤怒色に染っていた父の瞳が、戸惑いに揺れ、新たな色が滲み始める。



「きっと、どちらも正解でどちらも不正解なのでしょう。」



1歩、また1歩。手を伸ばせば、届く距離。



「父上、貴方はずっと僕のことが―――」

「私に近寄るなっ、化け物がァァァァ!!」



再び怒声を上げ、僕の声を遮った父は、魔力を込めた拳を僕に向かって振り落とす。

拳が風を切る音と、母の金切り声。

そして…



「貴方の手は僕には届かない。」



父の拳が振り落とされる寸前、僕は片手で父の手を弾いた。



「ぐっ、」



顔を歪ませ、大いに怯む父。その一瞬の隙を、僕は見逃さなかった。すぐさま無防備な父の顔面を掴み、そしてそのまま青い炎を放った。



「グァァァァアッッ!!!!!!」

「兄様ァァァ!!」



まるで断末魔ような父の叫び声と、父を呼ぶ母の甲高い叫び声。一応火加減はしているというのに、2人揃ってなんと大袈裟な。



「貴方はずっと、僕のことが怖かったんですよね。」

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!熱いィィ、熱いィィ!!!!」

「だから貴方はそれが僕に悟りないよう、そして僕の矛先が自分に向かないよう、ずっと虚勢を張っていた。」

「ググググッ、」

「健気な父上。ですが、そんな猿芝居で僕を飼い慣らせると思っていたのでしたら、大間違い―――」

「もうやめて、アルベルトッッ!!」



辺りに響き渡る母の悲痛な叫び声。その声に父から手を離せば、父は呻き声を漏らしながらその場に蹲った。



「お願いよ、アルベルト。こんなの、おかしいわっ!」



すぐさま父の身体を支えた母が、目にいっぱい涙を溜めながら声を張り上げる。そんな母をじっと見下ろしていると、母は思い出したかのように周囲の騎士達に助けを求め始めた。



「貴方達も見ていないで早く助け――」

「母上はいつもお願いしてばかりですね。」

「えっ」



不意打ちを食らったかのように、場違いにもキョトンとする母に、僕は微笑みかける。



「本来、皇后ではなく他国に嫁ぐはずであった母上は、嫁ぎ先で可愛がってもらえるよう、それはそれは大切に育てもらいましたよね。そしてその結果、母上は素直で真っ直ぐな、いわゆるいい子に育ちました。」

「急になにを言って…」

「それゆえに、母上は無自覚に傲慢です。」

「なっ、」

「お願いをすれば、大抵の事は思いのまま。あはは、実に生きやすい世界だ。……そうでしょう?母上。」

「…ば、馬鹿なことを言わないで!私は、そんなつもりじゃ…」

「周りにいる騎士達がお2人を助けないのも、貴女の傲慢さに日頃から参っているからなのでは?」

「―っっ、」



母の瞳が戸惑いに揺れ、僕によく似たその顔からは色がサーッと抜け落ちる。

長年、ぬるま湯に浸かってきた母にとって、人の敵意は猛毒。その毒に対する抗体は今の母に備わっていない。

この先もずっと、母は少女の優しい殻から抜け出すことは出来ないだろう。



「アルーー!!!ちょぉーっと、通してねー!」



重苦しい空気を粉砕するかのように、人垣の向こうから少女の可愛らしい声が聞こえてきた。

僕を取り囲んでいた騎士達は、奥の方から波が引くように1本の道を開けてゆく。そして、その屈強な騎士達が開けた道から、白いドレスを身に纏った1人の少女が現れた。



「あっ、アルみーつけた!」



ぱぁっと花が咲くような笑みを浮かべた最愛の人――マリーは、軽やかな足取りでこちらに駆け寄ってきた。



「みてみてー!」



僕の前まで来たマリーは、その場でくるりと回った。艶やかに靡くストロベリーブロンドの髪に、ふんわりと広がる白いドレス。

その姿は、目眩を覚えるほどに可憐だった。



「どう?似合う?」

「とても似合っているよ。」

「可愛い?」

「世界一可愛いよ。」

「好きになっちゃう?」

「とっくの昔から僕の愛は君のものさ。」

「うふふふふっ、嬉しー!アル、だーいすき♡」



満面の笑みを浮かべたマリーが僕の胸に飛び込んできたので、僕はしっかりと抱きとめる。先程までササクレ立っていた気持ちが、マリーのおかげで癒されてゆくのを感じた。



「貴女、そのドレスどうして…」



放心状態だった母が震えた声を出す。その声に反応したマリーは、僕に抱きついたまま母を見下ろした。



「アル、この人は?」

「皇后陛下。僕の母だよ。」

「へぇー!アルってママ似なんだね。じゃあ、隣りで蹲っているのは、もしかしてアルのパパ?」

「そうだよ。そろそろ治癒が終わる頃かな。」

「ちゆ?」

「ふふ、マリーは気にしなくていいよ。」



僕らの中に流れる〝青の魔力〟は、宿主を守ろうとする治癒力が非常に高い。なので父の顔面のやけどは、殆ど治っているはずだ。それなのに、未だに蹲ったままなのは…



「アルママ、アルパパ、初めまして!私の名前はマリー!最近、聖女に目覚めて――――うーんと、まぁ――色々あって、今度アルの花嫁になる予定ですっ。よろしくお願いしまーす!」

「…ふ、ふざけないで!!」



呆気にとられた母の瞳に、再び憤怒の光が灯る。



「アルベルトには既に婚約者が居るのよ!?それなのに、突然現れた貴女が花嫁ですって?い、意味が分からないわっっ。それに貴女が今着ているそのドレス、それはエリザベータの為に新調したドレスよ!?素性もわからない小娘が着ていい代物ではないわ!」

「エリザベータ…?…あぁ、あの牛乳(うしちち)女かぁ。なるほどぉー、だからこのドレス大きかったんだ…色々と。」



僕の胸の中でポツリと呟いたマリーは、僕からそっと離れ、母の前にしゃがみ込んだ。



「このドレスは皇宮のメイドさん達が着せてくれたんですー。」



愛らしい笑みを浮かべたマリーは、両手で頬杖をつき母に視線を合わせた。それを母はキッと睨む。



「あの子たちが、私に黙ってそんなことするはずがないわ。」

「えー、本当のことなのにぃ。」

「そもそも、殺されそうになった人が呑気にドレスを着込んでいるなんておかしいわ。…貴女、いったい何者なの?」

「私は聖女!って、さっきも言ったじゃないですかー。」

「だから、」

「皇后様。」



母の話を遮ったマリーは、そっと母の頬に両手を添える。そして…



「ちゃんと私の目を見て。」

「えっ、」



マリーの瞳が煌めいた瞬間、母の身体がかくんと前に傾いた。そんな母を前からぎゅっと抱きとめたマリーは、母の耳元に桜桃色の唇をそっと寄せた。



「ねぇ、皇后様。私の事好きー?」

「……す、好きです。」



ヒステリックに叫んでいた母の声音は、いつもと同じ穏やかなものに戻った。



「陛下よりも?アルベルトよりも?」

「兄様よりもアルベルトよりも、貴女様を愛しておりますわ。」

「うふふ、嬉しー!これからもぉーっと、私の事を愛してね。」

「あぁ、愛しの聖女様。私の愛は貴女のもの。あぁ…」



母とマリーは和解した。

流石は僕が選んだ最愛の人。マリーは誰からも愛される。マリー以上に素晴らしい人はこの世界に存在はしないだろう。



「皇后様、寝ちゃったから誰か運んでー!」



マリーの腕に包まれて安心したのか、母は寝息をたてていた。その寝顔は少女のようにとても穏やかだ。

そして、マリーの声に反応した近くに控えていた騎士が前に出て、母の身体を抱き上げた。

僕はその騎士に声をかける。



「父上も一緒に寝室まで連れて行って。」

「かしこまりました。」

「ここに居る全員も持ち場に戻れ。」

「御意!!」



僕達を囲んでいた騎士達は、各地持ち場へと散っていった。



「ねぇねぇ、アル。エリザベータ様はどんな様子だった?」



監獄塔の前で僕と2人っきりになったマリーは、僕の腕の袖をちょんと掴み、首を傾げてそう尋ねてきた。



「自分はやっていないの一点張りだよ。全く、困ったもんだ。」

「ふぅ~ん。まぁ、そりゃそうか。」

「マリー?」

「ねぇ、アル。」

「ん?」

「いっその事、エリザベータ様の一族全員を連帯責任として捕まえちゃった方がいいんじゃない?」

「え?」

「私たちの世界を脅かす危険因子は、ぜーんぶ摘み取っちゃおうよ!」



そう言ってマリーは、可愛らしく微笑んだ。

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