141話
アルベルトside
忌々しい、腹立たしい、穢らわしい。
摘んでも摘んでも蛆のように湧いてくる。
もうどうにもならぬほど深く根を下ろしてしまった種は、僕の心臓を蝕んでゆく。
嗚呼、憎らしくて憎らしくて虫唾が走る。
我が物顔で根付たコイツを
―――僕は〝呪い〟と呼んだ。
◈◈◈◈◈
魔力は血。血は魔力。
魔力の有無は遺伝的要素が大きく関与されており、親から子へと受け継がれていく。
だが稀に隔世遺伝によって、両親に魔力がなくとも子に魔力が宿ることもある。また逆も然り、種のないところに芽は出ない。
ならば、その種《魔力》はどこから来たのか。
世界に海と小さな島しかなかった遥か昔。
ある日突然、島で1番大きな山が大噴火した。
迫り来る溶岩、逃げ場のない小さな島。
数分前まで平和に過ごしていた人類は滅亡の淵に立たされた。
もう死ぬしか道はない、誰もがそう思った時、奇跡が起こった。
神が1人の青年に自らの力を授けたのだ。
神に選ばれた青年はその力を使い大噴火を鎮め、焼き爛れた大地に緑を与え、そして国を創った。
その力こそが魔力の原点にして頂点〝青の魔力〟であり、その青年が後のノルデン帝国の初代皇帝。ユリウス= ブランシュネージュ=ノルデンである。
皇帝亡き後もその魔力は次の世代へと受け継がれてゆき、そしていつしか魔力は大きく2つに分けられた。純血と混血である。
純血。総称は皇族。初代皇帝の血を引き異種の血が混ざらない純粋な血統。
混血。異種との血が混じり、魔力が薄くなった者たち。ちなみに魔力保持者の9割が混血である。
こうして元々1つだった魔力は長い年月を経て枝分かれし、人々の生活に馴染んでいったのだ。
だがしかし。
あの大噴火から数百年経ったある日のこと。第7代ノルデン皇帝は気付いてしまった。
―――世代を超える度に〝青の魔力〟の力が衰えていることに。
資源の少ない雪国がこれまで敵国に攻められることなく平和に過ごせてこられたのは、神に与えられた〝青の魔力〟があったからだ。
このまま血が薄まり魔力が消失してしまえば、今まで魔力ありきで成り立っていた帝国が崩壊してしまう。
焦った皇族は考えた。考え考え考え抜いた結果、ある策に行き着いた。
皇族同士の血を合わせ、薄まった血を濃くすればいいのでは、と。
それは禁忌だった。
だが、皇族は禁忌を犯す恐怖よりも青の魔力を失う恐怖の方が大きかったのだ。
藁にもすがる思いで7代目の若き皇帝は侯爵家の娘との婚約を破棄し、新たな婚姻を発表した。その相手はなんと実の妹だった。妹君もまた魔力消失を恐れていたので、この婚姻は同意の上で進められ、反対する者は全て圧力で押さえ込んだ。
◈◈◈◈◈
7代目と妹君が正式に夫婦となり5年の月日が流れた。
その間に妹君は2回の懐妊がみられたが、どちらの芽も花咲くことなく天に流れてしまった。
やはり血が近すぎたせいなのか。
これ以上無理をすれば、妹君の精神が崩壊してしまうかもしれない。そう危惧した7代目は妹君との子は諦めようとした。が、それを見計らったかのように妹君の3度目の懐妊の知らせが7代目の元に舞い込んだのだ。
期待と不安を抱えながらもお腹の子はすくすくと育ち、どんよりと曇った冬の或る朝、待望の赤子が生まれた。
産声ではなく、青い炎を上げながら。
猛々しく燃え上がる業火の炎を目の当たりにした皇宮医達は思い出してしまった。
島を飲み込んだあの大噴火の恐怖を。
知らず知らずのうちに、炎への恐怖が人類の遺伝子に刻まれていたのだ。
燃え盛る炎を前に自分たちではどうすることも出来ない。誰もが生きることを放棄したその瞬間、ピタリと炎が鎮まった。
まるで何事もなかったかのような美しいままの皇宮に、傷一つない自身の身体。
不思議なことに先程まで燃え盛っていた炎の痕跡がどこにも見当たらなかったのだ。
呆気にとられていた皇宮医達はっと我に返り、慌てて妹君に駆け寄った。
ぐったりはしているものの妹君に外傷はなく、気を失っているだけであった。そして、妹君の足の間には生まれ落ちたばかりの赤子が一人。
静かに天を見つめるその瞳は、先程の青い炎のようにゆらゆらと煌めいていた。
◈◈◈◈◈
後に青い炎の正体が、膨大な魔力だったということがわかった。
皇族の思惑通りに、赤子は誰よりも〝青い血〟を色濃く受け継いでこの世界に生まれ落ちたのだ。
この知らせを受けた国民は歓喜の声を上げた。だが、皇族は一様に口を閉じた。
あの魔力は人間が操れるものでは無い。あれは地獄の業火そのものだった。いつか帝国はあの炎に飲み込まれる。
生まれたばかりの赤子に畏怖の念を抱いた皇族はあの日の炎を〝蝗害〟と呼び恐れ、再び脅威が生まれないよう皇族同士の婚姻に禁止令を出したのだ。
だがそんな皇族の不安をよそに、あの日以来、赤子の魔力が暴走することはなかった。
それどころか、赤子は上級魔力保持者でも手に余る膨大な魔力を完璧に制御していたのだ。まだ言葉も話せぬ赤子だというのに。
まさに神に愛された奇跡の子。
その赤子の名は、アルベルト=ブランシュネージュ=ノルデン。
ノルデン帝国第1皇子。
生まれながらにして皇位継承権第1位の次期皇帝である。




