137話
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ベティside
聖女に目覚めてからというもの、私の生活は一変しました。
神に愛された乙女を一目見ようと、多くの人々が私が暮らしている修道院に殺到したのです。
毎日押し寄せてくる人の波に翻弄されながらも求められることに喜びを感じていた私の元に、ある日1人の男性がやって来ました。
その男性は酷く憔悴し切った顔で、こう言いました。「妻を助けて欲しい。」と。
男性から詳しいお話を聞けば、3年前に奥さんは原因不明の病に倒れてしまい、以来ずっと寝たきり状態で、もう頼れるのが聖女である私しか居ないと、涙ながらに答えてくれました。
それを聞いて私は胸が張り裂けそうでした。すぐさま奥さんのところに向かった私でしたが、床に伏せる奥さんを見て愕然としました。
血の気のない肌に、今にも途切れてしまいそうな弱々しい呼吸。
そこには、ひと吹きで掻き消えてしまいそうなか細い命が、ベッドの上に静かに横たわっていました。
呆然と立ち尽くす私の足に男性がしがみつき、悲痛な声で「何とかして下さいっ!!」と叫ぶ。
しかし、聖女に目覚めたばかりの私には、奥さんの病を治すような特別な力はありませんでした。そんな私ができることといえば、奥さんの手を握りながら励まし、神様に祈ることだけ。
奥さんの手を握りながら己の無力さ痛感した私は、悔しさのあまり血が出るまで唇を噛み締めました。
やはり、私は聖女に相応しくなかったのです。
せっかく神様が私を選んでくださったのに…。
ごめんなさい、神様。
あなたの期待に応えることが出来ませんでした。
諦めの感情が心を支配した、その時――
「……あ……」
まるで蚊の鳴くような小さな声が聞こえました。それは奥さんの声でした。
はっと顔を上げればそこには穏やかに微笑む奥さんが私を優しく見つめていました。
一体何が起きたのでしょうか。
私は瞬きすら忘れて、奥さんをただ見つめることしか出来ません。
奥さんは乾燥した紫色の唇をゆっくり開け、か細い声でこう言いました。
「……ありがとう…あぁ、やっと…楽になれる…」
その言葉を最後に、奥さんは永遠の眠りにつきました。
闘病続けた奥さんの最後の顔は、まるで母親と一緒に眠る幼児のように安らかでした。
その後、私は男性や奥さんの親族から感謝の言葉を貰いました。
「聖女様のおかげで、妻の最後は穏やかでした。」
「あの子の、あんな穏やかな顔を見たのは久々でした。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
何故、この人達は私に感謝をするのでしょうか。
何故、奥さんは最後に「ありがとう。」と言ったのでしょうか。
私は奥さんを助けてあげられなかったのです。目の前の命を救えなかったのです。
なのに、何故…?
何故?
何故?
何故?
この世界には不可解なことが多すぎます。
だから私は分からないことがあったらいつも神様に聞いているのです。
「神様。奥さんはどうして最後にお礼を言ったのですか?」
神様は答えます。
長い長い先の見えない闘病生活から解き放たれたからです。
「解き放たれた先には何があるんですか?」
神様は答えます。
理想郷です。
「理想郷って何ですか?」
神様は答えます。
皆が平等で幸福に満ちた優しい世界です。
「死んだらみんなその理想郷に行くんですか?」
神様は答えます。
皆が理想郷に行けるわけではありません。
人々を理想郷に導けるのは、聖女である貴女だけなのです。
「…私だけ?」
神様は答えます。
えぇ、貴女だけです。
この醜く腐った虚構だらけの世界から善良の人々を救い出せるのは、貴女だけ。
そう、貴女だけなのです。
神様は答えます。
神様は答えます。
神様は答えます。
神様は答えます。
神様は答えます。
神様は答えます。全てを答えます。
愛しい愛しい聖女のために。
彼女が幸せになれるように。
神様は答えます。
私が手放してしまった大切な記憶を。
人々が忘れてしまった世界の真実を。
神様は答えます。
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それから数日後、私の元に帝都から神官様御一行が訪れました。
彼らいわく、聖女として必要な教養を学ぶ為に帝都の学校へ来て欲しい、とのこと。
その時の私に、断る理由なんてありませんでした。




