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私は貴方を許さない  作者: 白湯子
第6章「不完全な羽化」
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101話



よく晴れた冬の空の下、太陽の陽射しを受けキラキラと輝いている積雪の上を2台の馬車が軽快に走っていた。ひとつは使用人達と荷物を乗せた馬車。もうひとつは、私だけを乗せた少しばかり豪奢な馬車だ。


特別な訓練を受けたノルデン帝国の馬は、例え吹雪の中でも難なく走ることが出来る。その素晴らしい駆動力は、他国が認めているほどだ。

そんな頼もしい馬車の中で、私は車窓から流れゆく雪景色を、ぼんやり眺めながら今朝のことを思い返していた。



*****



昨夜の倦怠感が嘘のように、私はスッキリとした朝を迎えた。


身体は重りが取れたかのように軽くなり、動く度に疼痛を訴えていた背中も今日は全く痛みを感じない。昨日、看護婦が塗ってくれた軟膏に痛み止めの作用があったのだろうと思っている所に、初老の男性皇宮医が朝の回診で私の病室にやってきた。

皇宮医は「昨夜は良く眠れましたかい。」などといった軽い質問をしながら診察を始める。


そして…私の背中を見た瞬間、彼は驚きの声を上げた。なんと、背中にあったはずの痛々しい打撲痕が消失していたのだ。初めから打撲痕なんて存在していなかったかのように、跡形もなく綺麗さっぱりと。

たった一夜で打撲痕が消えるはずがないと、しばし難しい顔で考え込んでいた皇宮医は、ひとつの仮説を導き出した。



―――『君の中に入り込んでいる〝青の魔力〟が作用した結果なのではないか。』と…。



そのとんでもない仮説に対し、そんな馬鹿なと思いつつ、この目で青の魔力の高い治癒能力を見た後では、その可能性を頭ごなしに否定することは出来なかった。だが…。

血は魔力、魔力は血。

果たして、その血液の宿主ではない私でも、その効果を発揮するものなのだろうか。

何十年と医療に携わってきた医者でさえ、今まで出会ったことの無い症例らしい。


その後、一通り診察したが特に異常はみられなかった為、正式に退院の許可が降りた。

最後に皇宮医は、青の魔力が入り込んでしまった原因に何か心当たりはあるか?と尋ねてきたが、一瞬心の中で迷ってから、私はわからないと嘘をついた。

平穏を求めている今の私は、事を荒立てるような真似をしたくなかったからだ。


こうして私はその日のうちに、慌ただしく、そして逃げるようにして、南にある公爵領へと向かったのだった。



*****



帝都から公爵領まで、半日かかる。その殆どの時間を1人で過ごしている為か、先程から〝青の魔力〟のことばかり考えてしまう。意図的に違うことを考えていても、結局はそこに行き着いてしまうのだ。

皇宮医の仮説がもし本当ならば、殺す目的で忍ばせた血液が、皮肉なことに私を助けてしまったことになる。これは義弟にとって誤算だったにちがいない。


血液の宿主ではない私にも、その魔力が働くと考えれば、先日、私の身に起きた不可解な出来事も全て辻褄が合う。何らかのきっかけで誤作動を起こした青の魔力が、私を皇宮から学校に転移したのだ。そのきっかけとは…………いや。

私はそこで思考を止める。

根拠の無い仮説をいくら立てたとして、明確な答えが返ってくるわけではない。考えるだけ無駄だ。



視線を窓から、誰も座っていない向かいの座席に移した私は、軽くため息をつく。本来、そこには父が座るはずだった。父は、やり残した仕事がある為、帝都を離れることができなかったのだ。

しかし、代わりにベル達数名の使用人達がついてきてくれた。年末、しかも突然のことだったというのに、ついてきてくれた使用人達には申し訳ない気持ちと、有り難い気持ちで頭が上がらない。そんな私にベルは「旅行みたいで、楽しみです!」と言ってくれた。私を気遣ってくれたのだろう。その言葉に救われる。


本日、何度目になるかわからない溜息を吐いた私は、窓に凭れ掛かり目を閉じる。

こうして馬車に揺られている間も、自室で謹慎処分を受けている殿下のことが、ずっと気がかりだった。

私を助けようとして、聖女の反感を買ってしまった殿下。それを分かっていたのに、私は殿下に何も言わず、負い目を胸に抱きながら馬車に乗り込んでしまったのだ。早くあの場から逃げたいが為に。そんな私は、どうしようもなく、狡猾な人間だ。



「―――エーリザ。」



罪悪感から来るものなのだろうか、殿下の幻聴が聞こえてくる。



「おーい、エリザァー。エリザちゃーん?」



殿下はいつもおどけた口調で、私を呼んでいた。逃げてしまった今の私を、彼はもう前と同じように呼んでくれないかもしれない。



「無視すんなよ。」



当然、横から伸びてきた何者かの手が、私の左胸を鷲掴んできた。



「―ひっ!?」



引き攣った悲鳴を上げた私は、反射的にその手を叩き落とし、勢いよく後ろを振り向いた。そこに居たのは―――



「よっ!怪我治ったんだって?元気そうじゃん。」



叩かれた左手を顔の近くでブラブラとさせ、相変わらずのニヤケ面を晒していたのは、自室で謹慎処分を受けているはずのテオドール皇太子殿下だった。



「なっ、ど、…何処から湧いてきたのですか…!!」



驚き、怒り、羞恥など様々な感情が入り交じり、声が裏返る。私は自身の身体を両腕で抱き締めながら、驚愕に目を見開いていた。そんな私を見た殿下は、可笑しそうにケラケラと笑っている。



「湧いてきたって…虫みたいに言うなよ。せっかく、会いに来てやったのに。」

「突然現れた上に、女性の胸を掴むだなんて、虫以下です…!どうして貴方はいつもいつも…!!」

「どーどーどー。まぁ、そりゃー、そこに胸があったら、取り敢えず揉むだろ?」

「揉みません!異常です!紳士のすることではありません…!も、もう、ここから出ていってください!」

「そう邪険にすんなって。謹慎処分を受けた者同士、仲良くやろーぜ。」

「―っ、」



―――謹慎処分。


その言葉に、頭から冷水を浴びせられたように一気に熱が引いた。

彼は、全ての事情を知っているのだろう。

殿下に対する負い目から彼の顔を直視出来なくなった私は、思わず俯く。そして…



「……すみませんでした。」



蚊の鳴くような声で謝った。

馬車の中は、しんと静寂に包まれる。それを破るように、殿下は徐ろに口を開いた。



「それって、もっと胸を揉んでOKってこと?」

「違います。」



じろりと視線だけ上げれば、殿下は困ったような笑みを浮かべていた。その顔に、わざと茶化したのだろうと察する。この人は、どこまでも優しい。私なんか、優しくしてもらう価値なんてないのに。そんなことを考えていると、額に小さな痛みが走った。殿下、お得意のデコピンだ。



「まーた変なこと考えてんだろ。」

「またって…」

「何となく、お前が何考えてんのか分かるけどな。」



殿下は立ち上がると、私の向かいの座席にどっかりと座り、その長い足を組んだ。



「ジジィから色々と言われてると思うけど、気にすんなよ。謹慎処分については別にお前のせいじゃない。」

「ですが…」

「ですがじゃない。それに謹慎処分つっても、普段の生活と変わんないんだぜ?自室で缶詰状態での書類整理。……ジジィにとっては、仕事が捗って万々歳だろーけど。」



陛下のことを思い浮かべ、苦々しい表情を浮かべていた殿下は、窓を一瞥してからカラッと笑った。



「ま、難しいことはなーんも考えないで、謹慎処分生活を楽しんでこいよ。南の方に行くんだろ?クソ寒い帝都に居るより、よっぽど良い。」

「え、」

「俺は俺で、この謹慎処分生活を楽しむからさ。たまには、こういう長期休暇もアリだよな。」

「……。」



笑顔で話す彼に、私は違和感をおぼえた。

殿下は私以上に、聖女を敵視していた。その聖女が、とうとう本性を表し、私たちを謹慎処分に追い込んだのだ。彼の性格からして、大人しく処分を受けているだなんて考えられない。

それなのに、彼はいつもの様に笑っている。それがかえって不自然にみえて……



「…殿下。」

「ん?」

「何か、私に隠しています?」

「…はぁ?何も隠してねーけど?」



綺麗に笑みを貼り付けた殿下。だが、彼の表情に一瞬動揺が走るのを、私は見逃さなかった。

問ただそうと口を開く前に、殿下の口が開く。



「あ、やべ。そろそろ戻らねーとバレちまう。」

「でん…」

「ってことで、またな!」



殿下の瞳が淡く煌めき出した瞬間、辺りの空気が揺れる。



「え、ちょっ…待って下さい…!」



咄嗟に腰を上げ、殿下に手を伸ばすも、時すでに遅し。ニヤリと笑った殿下は、ヒラヒラと片手を振りながら、完全に空気に溶け込んでしまった。



「…。」



宙を掴んだままの手を下に下ろし、長い溜息をつきながら座席に座り込む。

…一体、今のは何だったのだ。

向かいの座席には、そこに殿下が居たという痕跡が残っていないため、自分が白昼夢でも見ていたのではないかと錯覚してしまいそうだ。


虫のようにやって来て、嵐のように去っていった殿下。

彼は一体何を隠しているのだろうか。胸が嫌にザワつく。思わず胸を抑えると、馬車の速度が落ちていった。それと同時に揺れも小さくなり、そして―――


完全に馬車は止まった。



「お嬢様ー!!着きましたよー!!!」



外から侍女のベルの、はしゃいだ声が聞こえてくる。


帝都から出発して半日、南の公爵領に到着したのだ。











《おまけ》

*パラレルワールド

*軽い気持ちで、お読み下さいませ

*エリザ、ユーリ、テオ、聖女で仲良く?コタツでミカンを食べています。




テオ様「コタツと結婚したい。」


ユーリ「はい、姉上。ミカンですよ。」


聖女様「私も剥きました!!」


エリザ「甘やかさないで頂戴。皮ぐらい自分で剥けるわ。」


ユーリ・聖女様「そうですか…。(しゅん…)」


エリザ「……………今回だけよ。」


ユーリ・聖女様「わーい!」




―――無限ループ―――




エリザ「――はっ。ミカン食べている場合じゃないわ。お題カード、お題カード……あった。…ゴホン、えー、3人に質問します。恋人とどんなデートをしたいですか?」


テオ様「よくある質問だな。そりゃあ…市場で美味いもんたらふく食って、めちゃくちゃ遊びまくって、んで最後はSピーッ(自主規制)」


聖女様「まずは王道に、噴水広場での待ち合わせですよね!それでそれで、オシャレなカフェとか入ったり、流行りのブティック店に入ったり……そこで、お揃いのドレスとかリボンとか買えたら最高ですね…!そのままお揃いのドレスを来て、買い物したいです。家に帰ったら、一緒にお風呂に入って、あ、洗いっことかしちゃったりして…キャッ!その後は、お揃いパジャマを着て、ベッドの上でお喋りをしながら眠る。…あぁ、なんて素敵なんでしょう…。」


ユーリ「お家デートが良いですね。…姉上は、どのデートが良いですか?」


エリザ「え?そうね…」



次回へ続く…

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本編より、パラレル聖女の、「お揃いのドレスとかリボンとか買えたら」から始まる百合デートな内容に持ってかれてしまった(笑)。そして続くのですね。それはそれで楽しみです。
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