10話目
誰もいない朝焼けの中でひとしきり嗚咽を溢した後、自分の頭はようやく落着きを取り戻した。
何度か深呼吸を繰り返してしゃっくりを止め、改めて今の状況を冷静にまとめようとする。
(・・・とにかく、泣いてばかりにもいられないかな。今はまだ何にも分かってないけど、ひとまずはあの子も無事だったし、それで良しとしよう。)
ひとまずさっきの部屋に戻ることにし、立ち上がろうとしたところで、背後から誰かの足音が聞こえてきた。振り返って見ると、そこにはあの時の2人がいた。
『おっ?なんだ?意外と早いお目覚めだな。』
エイドは自分に気づくやいなや、ぶっきらぼうな挨拶を掛けてきて、自分の隣にどっかりと座ってきた。ズイッと肩に手を回してきたエイドの腕の毛がチクチクと刺さる。
『こんな時間にどーした?なんか悩みごとか?』
突然距離を縮めてきたエイドに戸惑っていると、レイジさんもなぜか自分の隣に、ゆっくりと腰を下ろした。
『おはよう。君も朝日を見に来たのかな?奇遇だね』
『お、おはようございます。自分はなんとなく・・・目が覚めたので・・・お二人はそうなんですか?』
『おうよ。何せこうやって高ぇとこから見る日の出ってぇのは元気がもらえるからな。出来るだけ見るように心掛けてんのさ』
『・・・本当はこの習慣がついたのも最近の話なんだけどね。こっちの寝坊助はさっき起こしてきたとこだし、自分からやるぜ!なんて言っておいてこの様だから、いつまで続くか分かんないけどね。』
『おいこらレイジ!それは誰にも言うなっつったろが。面目丸つぶれだろ?!』
『つぶれる面なんてもとからないだろうに。君も少しは休んで元気が出たかい?』
唐突に距離感を詰めてきた彼らに若干の違和感を感じつつ、自分はうなずいた。そして思っていたことを口に出した。
『・・・あの、自分はなぜここにいるんですか?そもそもここは何処なんですか?』
質問に対して、レイジさんは少しだけ考える素振りを見せた後、簡単に説明してくれた。
『そうだね。詳しい話はまた後程するとして、君をここに連れてきたのは君とあの子の治療と検査のためって言うのと、君の身柄を調べるためだね。』
『自分の身柄?』
『僕はあの日、君の言葉を全て信じることは出来ないって言ったのを覚えているかな。確かに君の活躍は素晴らしいものだったし、あの瞬間では嘘をついているようにも見えなかった。でも、だからと言って君の事を疑わない理由にはならないんだよ。君にとっては少し酷な話だけどね』
『なるほど』と自分の身の回りの状況を整理する。確かにあの時は場を納めて貰えたが、それでも自分が「正体不明な人物」であることは変わっていないのだ。村が襲われたタイミングで身元不明の人物。状況的に見ても関連性が無いとは言い難いのも納得だ。要は自分はまだあの村を襲った容疑者の1人として思われているということになる。
『・・・あの時以上の説明は出来そうに無いんですが、そもそもどうやって調べるおつもりなんですか?』
『それもまた後でね。さて、そろそろ部屋に戻ろっか。エイドも二度寝しないで、言葉道理に顔面平たくするよ?』
この短時間で鼻ちょうちんを膨らませて眠りこけているエイドを叩き起こすと、レイジは自分に手を差し出した。
『まだ身体は本調子じゃないでしょ?流石にこの時間は冷えるからね。』
・・・なるようになるか、と考える事を半ば諦めつつ、自分はレイジの手を取った。1日はまだ始まったばかりだが、長い長い1日になることは考える間でもなかった。