2話目
…白い光が顔全体に当たり、ほんのりと暖かみを帯びる。外では風が吹いているのか、木葉や枝がさわさわと擦れている音が聞こえてくる。
自分は重い瞼を開け、周囲を見渡す。
そこは周り一面が緑一色の部屋だった。いや、性格に言うと、苔がびっしりと生えた壁に、小さな白い花を咲かせた植物などで覆われてる。自分はそんな部屋のど真ん中で、木で作られていると思われるイスのような物の上で眠っていた。
あまりも信じられない、あり得ない光景に、自分はこれが夢であると頭は勝手に納得する。
その時、腰の当たりに謎の違和感があるのに気付き、何事かと振り向く。
そこにあったのは、俗に言う『尻尾』のようなものだった。朱色のスマートで短めな尻尾らしきそれは、自分の腰の下当たりにくっついていて、かすかにゆらゆらと揺れていた。
しかもそれだけではない。改めて自分の体を見てみると、全体的にオレンジかかった朱色の鱗が、びっしりと全身に生えているではないか。
手や足には肉食獣のような鋭い爪がついていて、顔の形も触った感じら鼻が犬のマズルみたいに延びていて、人間離れしたものになっている。
…ここだけの話、翼がないのは少し残念にも思えたが…。
鏡のような物は見当たらないので確信は出来ないが、おそらくゲームとかでお馴染みの『ドラゴン』『リザードマン』のような体になってしまったのようだ。
「な…なんだ?何がどうなってるんだ?」
しばらく体中をペタペタと触って、自らに起こった異変を確かめる。
ふと、足元を見ると自分が眠っていたイス(?)の隣に、何かが2つ、革のような物にくるまれて置いてあるのを見つけた。自分はそれを拾って、中を見る。
「これ…どっからどう見ても、アレだよな?何でこんなところにあるんだ?」
それは二丁の拳銃と、それを腰に巻いて持ち歩くためのベルトのような物だ。じっくり見ていると、自分は銃のある特徴に気がつく。
「でもこれ、玉を入れるような所が見当たらないんだけど…どうなってんの?これ?」
あれこれ眺めては見たが、やはり玉を入れるマガジンが無いように見えた。
もちろん、本物の拳銃なんて触ったことも見たこともないが、ゲームなどでよく見る形状のそれは、どう考えても使えるようには見えなかった。
だがしかし、それ以上に目を引かれたのは、銃身全体に掘られている模様だ。その意匠は全く分からないが、一言で言うと「カッコいい柄」だ。
まるで龍が空にうねりながら登って行くように彫られた模様は、久しく忘れていた自分の中二心をくすぐった。
「何なのかわかんないけど、すぐ近くにあったわけだし、周りには誰も居なさそうだし…持って行ってもいいの…かな?」
という訳で、自分はこの「なんか凄そうなでカッコいい銃」を手にいれたのである。頭の中ではアイテムの入手音が自然と再生されて…
…ってこんなことしてる場合かよ!と誰もいない空間に向かってノリツッコミを入れ、我に帰る。
とりあえず現状を整理するために、自分の記憶を辿ることにしたが、思い出せるのはあの病室で命を絶ったことまでで、それから先のきおくはここで目覚めるまでのことは何も思い出せなかった。
つまり、「自分はあの時死んで、何かがどうにかなって、こうしてドラゴンになって生き返っている」ということになる。
…馬鹿馬鹿しいにも程がある。そんなアニメやゲームのようなことがあるわけがない。
そう独り言を言いかけた自分は、『あの日』の出来事を不意に思い出す。あれは決して2次元上で起こったことではなく、現実で起こったことだ。なんなら異世界事変は世界中で起こっていることなのだから。
なら、今この状況も、もしかしたら現実なのではないかということを考慮するべきだ。
だが、本当にそんな事があり得るのか?もし、仮に、これが現実だとしても、なぜこんなことになっているのか?
考えれば考えるほど分からないことが増えてゆき、最終的に「どっちでもいいか」という結論で、ひとまずは落ち着けることにした。
「とりあえず、こんなところでじっとしてる訳にもいかないな。…一回外の様子を見てみるか。運が良かったらここがどこだか分かるかもだし」
早速外の様子を確認するために、光が差し込んできている壁の前へと来てみる。
光は窓のように壁が四角にくりぬかれているところから入ってきているが、外には蔓のような植物が覆い被さっていて、外の全貌をみることができなくなっている。
「困ったな、これじゃ全然見えないじゃんか」
その時ピンっと閃いた。せっかくこんなに強そうな体になったのだ。もしかしてと思い、蔓をつかんで爪を立ててみると、ベキベキと剥がれていくではありませんか!
我ながらよく考えたという気持ちと、この体けっこう力があるんだなという驚きの気持ちをよそに、サクサクと植物をどかしていく。
「これで..よし!やっとおわっ...!?」
壁の向こうに見えたのは、真っ黒な森だ。
太陽の光を反射することもなく、そこには夜が広がっているのかと錯覚するほどに、広大で黒々とした木葉を茂らせた森の光景を見下ろしていた。
無論、自分の知る限りではこんな場所は地球にはないはずだ。
「なん...なんだよこれ...こんな場所、地球にはないはずだぞ?」
驚愕の事実に呆然としてしまう。だからと言って、途方に暮れている訳にもいかないのも分かった。
こんなところにまで助けが来るとは思えないし、ここには食料になりそうなものがない。仮にここで咲いている花を食って助けを待つとしても、もって1日が限界だろう。それならば多少リスクはあれど、外に出て助けを呼ぶべきだ。
「だけど、もしここがあの異世界だとしたら、あの怪物がいるかも知れないしなぁ..」
もし森の中であんなバケモノと遭遇したならば、今度は間違いなくその場で殺されるだろう。
「...でもここで待っててもミイラになるだけだな。なら外に出るしかない。大丈夫、きっと大丈夫だぞ龍天、運が良ければ生きてこの森を出られるはずだ」
幸い、この問題についてウロウロしながら考えている間に、下に通じている階段は見つけている。降りていけば外には出られるだろう。
最悪この「カッコいい拳銃で何とか出来るかもしれない」という淡い期待を胸に、自らを励ましながら、意を決して外に出ることにした。