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ワールド・ノーツ   作者: ドラドラ
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1話目

注意※これは初心者が書いたものです。過度な期待はしないで下さい。誤字脱字、ご意見等がございましたら。コメント欄にお書きください(出来る限りの努力はします)。また、失踪前提での投稿となっています。あらかじめご了承下さい。

 …朝の優しくも鋭い光が自分の瞼を焼く感覚を感じ、夢から目を覚ます。

 まだ意識のはっきりしない頭に飛び込んでくるのは、いつもと変わらない真っ白の天井、点滴から漂う薬のにおい、そして体から伝ってくる痛み。

 また今日もベットから動くとも出来ずに、退屈な一日が始まるのかと思うと、こんな生活が嫌で嫌で仕方なくなる。

 自分は寝ぼけている頭を覚まそうと、近くのテーブルに置いてあるテレビのリモコンに手を伸ばす。

 普通の人ならなんでもないこんな動作にですら苦痛を伴う、この不自由な生活にはもう慣れてしまった。

 カレンダーがこの部屋にはないので、今日が何曜日か分からないが、平日ならこの時間はニュース番組でもやっている頃だろう。こんな悩みと痛みを紛れさせてくれるような面白いニュースに期待し、電源をつける。


「…です。では次のニュースです。今日は6月19日、あの世界を襲った世紀の異常事態、『異世界事変』からちょうど2年になります。まずはこちらの映像をご覧下さい」


  流れ始めたのはまるで地獄を再現したかのような火の海と瓦礫の山の映像。あちこちで悲鳴が上がり、一生懸命に走って逃げている様子だ。

 自分はこの時と同じ光景を今でもよく覚えている。

 いや、覚えているというよりも、瞼に、脳裏に、心に焼きつきていると言った方が正しいのかもしれない。だが、あまりにも酷い《むごい》記憶に対し、自分はつとめて無視をする。

 自分は急いでテレビを消そうとするが、手はブルブルと震えて、思いどうりに動かせない。

 そんな自分のことを煽るかのように、ニュースはなおも続いていく。


「今ご覧いただいております映像はアメリカで撮影されたものです。他にもロシアやイギリス、アフリカ、ここ日本など様々な国々と地域でこのような事態が発生しました。原因は突如陸地や空中に空いた正体不明の『穴』から出現した未知の生物によるものです」


  ちょうどそのタイミングで、映像からその謎の生物が発したのであろう、大きな鳴き声のような音が飛び込んできた。

 耳をつんざくような音の振動と衝撃はすさまじく、火の粉や瓦礫を空に巻き上げ、撮影者や回りの人を数メートルも吹き飛ばしていた。

 自分の呼吸が無意識に浅く早くなり、心臓はドクドクと高鳴っていた。


「ここで映像は途切れています。この映像が撮影されたアフリカでは国土の約10%が火に包まれ、死者、行方不明者など被害に遭われた方は今でも数が増加し続けており、今日までで7000万人に及ぶそうです。また、日本ではこの異世界事変により、波子島が消滅、3万人もの方々が命を落としました。アメリカ政府は映像から判明した生物を詳しく調査した結果、この地球上の生物ではないと断定。穴の向こう側をこの地球上とは全く別の環境、別世界へと繋がっていると発表しました。世界連盟はこの謎の穴の調査を行うべく世界各国と連携し、国際的な探索チーム。『UNDWE』を結成し、現在も探索を続けて…」


『涙子島』…自分の故郷の名前を聞いたとたん、必死に目を背けていたトラウマが、濁流のように叩き起こされる。

 燃え盛り、崩れていく建物や木々。必死に助けを求める、悲鳴にも似た叫び。空にぽっかりと空いた、黒い穴。

 そして、全ての命をかき消し、島の大部分を一瞬でふき飛ばした咆哮。『何かを憎んでいる』ように見下ろしていた黒く濁った青色の目、何もかもを塗りつぶすかような漆黒の翼で空に浮かんでいた巨大な怪物…。

  …2年前の今日、自分は16歳の誕生日を迎えた。自分は大学への進学を目指し、次の定期テストに向けて勉強をしていたが、この日は友人がサプライズで誕生日パーティーを開いてくれた。家族や友達に囲まれ、平凡ではあったが幸せに日々を過ごしていたのだ。だが、そんな当たり前だった日常は、この日突然奪われてしまったのだ。

  当時の自分は、周辺の海を漂っていたところを救助隊に見つけてもらい、奇跡的に命は助かったものの、脊髄や内臓をかなり損傷し、現在に至るまで下半身の麻痺や心身の痛みにさいなまれている。

 自分はやっとの思いでテレビの電源を落とすと、深いため息をつき、目を閉じた。

 …こんなに苦しい人生があっていいものなのか。自分は一生この体で、この真っ白な病室で、誰にも看取られず死んでいくのか。なぜ自分がこんな目に遭わないといけないのか、なぜ自分は生き残ってしまったのか…。

 この2年間ずっと考え続けてきた、暗く、ドロドロとした負の思考と、呪いが混ざりあい、嗚咽となって爆発した。


  …しばらく時間が経過し、落ち着きを取り戻した後、自分はリモコンの隣に置いてあった工具箱の中からハサミを手に取った。

「リハビリ用にどうぞ」と看護師が工作用の画用紙などと一緒に買ってきてくれたものだ。

 今では何かをすることですら億劫になったので、長い間手を付けていなかったハサミは錆がつき始めていて、動きが悪くなっていた。


「…今さら誰も止めたりしないだろうし」


  もう耐えられなかった。自分は、生傷に触れるように、恐る恐る腕に差し込まれた「呪縛」とも呼べるものに刃を当てた。


「皆、今からそっちにいくよ」


  冷たくなっていく体の感覚を覚えながら、もしもまた人に生まれ変わったなら、また昔のように誰かと笑い合えることを願いながら、次こそは幸せに生きられるようにと祈りながら、もう一度夢を見るように、意識を朝の白い光の中に沈めていった。


 …これが、『人間』としての「間空(マゾラ) 龍天(タツマ)」の最後だった…。

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