やられたらやり返す。それが僕の流儀。3
三月に入り、ついに思い描いたチョコが出来たので、僕は母さんと姉さんに試食してもらった。
ホワイトチョコとビターチョコの二層になっている完成品は、ホワイトチョコにはバニラエッセンスを。ビターチョコには塩と細かく砕いた黒胡椒をほんの少し加えてある。
二人はひょいっと摘まんでチョコを口に入れた。
「幸一、凄く美味しいわ!」
「うん。これは美味しいね」
そうか。美味しいか。
僕の反応の薄さに、二人はクエスチョンマークだ。
最初に言葉が出てくるようじゃダメだ。本当に感動したら言葉もないはず。
二人を置き去りにして思案していると、「ただいまあ」と父さんが帰ってきた。
「ほら、お土産あるよ」
夜の九時過ぎ。少し酔ってるのか、父さんの口調はご陽気だ。
お土産は、父さん行きつけのバーのマスターからの遅ればせながらのバレンタインデーチョコだった。常連客に毎年あげてるらしい。
「皆で食べよ!」と、黒の紙に赤いリボンの渋い包装を開けた。
出てきたのは、上にココアの粉末がかかったチョコだった。ふんわりと甘い香りに混じって、どこかで嗅いだ匂いが漂う。
一つ摘まんで口に入れる。
「んっ!?」
なんだこれは!? いわゆる生チョコだけど、この風味は?
「なんか保健室の匂いがするね」
姉さんの一言に僕も納得した。そうだ。保健室や歯科医院で嗅いだ匂いだ。
「そうだよ。これさあ、父さんの大好きなウィスキー入ってんだよね。芸の細かいマスターでね、お客さんに合わせて作ってくれんだよ」
僕はもう一つ食べて確信した。これだ!
「父さん! マスターに作り方教えてもらって! お願い! 急ぎで!」
「なんだ!? どうした、幸一?」
「頼むよ、父さん!」
「お、おう。じゃあ、明日また行ってくるよ」
これならいける。これがあれば言葉も出ないはず。フフフっ。
「幸一、キモいよ」
僕は姉さんのツッコミも気にならなかった。それほどの確信に撃たれていた。