やられたらやり返す。それが僕の流儀。2
二月ももうすぐ終わる頃になっても、今年は一向に雪が積もる気配がない。
本当に暖冬なんだなあと思いながら、ぼんやり昼休みに入るのを待っていた。
クラスでは、あのイベントの話題も影をひそめていた。これは健と紗央里のお陰でもあるけど、なんか皆そわそわしながら静観しているような気もする。『凍てついた女王』自らっていうのが影響してるのかもしれない。
チャイムが鳴り授業が終わると、健と紗央里がやってきた。
昼休みになり、喧騒と共に僕の近くの席が空く。学食に行くものや、購買に行くもの。
健といつも二人で食べることが多いけど、今日は珍しく紗央里も加わった。
僕は先に買っておいたパンを。健と紗央里は弁当だ。
空いた席をくっつけて食べていると、健が何気に口を開いた。
「なあ、どうなってる? 本当に大丈夫か?」
「ああ。何とかなりそうだよ」
紗央里も心配そうに訊いてくる。
「本当に大丈夫? 幸ちゃんなら心配ないと思って、あえて今まで触れなかったけど」
買ってきたお茶を一口飲み、僕は自信満々に頷いた。
「心配しなくて大丈夫だよ」
僕は少し辺りを見回して、小声で話した。
「実は二人には言ってなかったけど、手作りチョコを返す予定なんだ」
「て、手作り!?」
健のびっくりしたような大きな声を慌て制す。
「でかいよ健。そうだよ。手作りだよ。だって早川も手作りだったから」
紗央里が驚いた顔をした。
「えっ!? あれって手作りだったの!?」
「ちょっと、声。早川に聞かれたら面倒だろ」
再度見回してみたが、早川は教室にはいなかった。はああ。僕は胸を撫で下ろした。
「そうだよ。早川のあれは手作りだ。きっと本命にあげた余りだろ」
健と紗央里は顔を見合わせて、なにやら逡巡している。
「なに? どうした?」
不思議そうな僕の問いに、ようやく健が口を開いた。
「実はさあ、おまえのこと心配で取り巻き二人問い詰めたんだよね……」
「ほ、ほら、将を射んと欲すれば先ず馬からっていうでしょ?」
紗央里。いくらなんでも馬扱いはひどい。
僕が黙っていると、健が申し訳なさそうに話しだした。
「幸一、俺らも力になりたかったんだよ。気い悪くしたらごめんな」
「いや。別にそんなこと思ってないよ。そこは素直にありがとうだ」
ホッとしたような二人に、僕は続きを促した。
「それでな、今回のイベントは早川が直々にお前を指名したらしいんだ」
「そうなのよ。幸ちゃん、なんか心当たりある?」
ん? 直々に? 早川とは中等部でも同じクラスだったけど、ほとんど話したこともない。それほど見事に住み分けができていた。絡んだことがあると言えば……。
「僕が絡んだことあるのは、中等部最後の学祭の時くらいだよ」
紗央里が、あの時ねと頷いた。
僕は小道具係として、ヒロインの早川が付けるティアラを作った。総合演出の紗央里に、「夏休みの自由課題に、ペーパークラフトでサグラダファミリア作ってきた幸ちゃんを見込んで任命する」と言われて請け負った。なんでも、『細部に神は宿る』らしく、気合いの入った、ヒロインにふさわしいティアラが必用とのことだった。僕には良く分からなかったけど、そういうのは嫌いじゃないので承諾した。
紗央里は暫く難しそうな顔をしたあと、メガネをくいっと人差し指で持ち上げて、「そういうことか」と呟いた。
「おい。なんだよ?」
「幸ちゃん。とりあえず、お返しは気合い入れて頑張って」
それ以上紗央里は何も言わずに、弁当を食べ始めた。
わけの分からない僕と健も、ほったらかしにされれたまま、しょうがなく昼飯を食べ始めるしかなかった。