よろしい。ならば戦争だ。3
中高一貫のそれなりに偏差値の高いこの学園にも、悪しき習慣ともいえるイベントが存在する。その名も『モテないモブにも救済を』。何の捻りもない名のイベントは、毎年バレンタインデーになるとモテない地味なキャラ一人に的を絞り、上から目線でチョコレートを渡して、その反応と冷やかしで盛り上がるという、本当にくだらないものだ。いつからかは分からないが、チャラい系カースト上位のやつらに連綿と受け継がれている。中学生から始まり高校卒業までの六年間、いつターゲットになるか毎年怯える生徒も多い。立派なイジメだと思うが、冷やかしはともかく、ちゃんとチョコレートをあげているので、貰ってしまうと中々声もあげられない。それに断って面倒なことになるのも避けたい。そんなキャラをターゲットにした、正に悪魔のイベント。高校一年になって僕に回ってくるとは夢にも思っていなかった。僕には最強の矛と盾があったので安心してたのに。
「どうするの幸ちゃん?」
紗央里の言いたいことは良く分かる。
「そうだな。相手は『凍てついた女王』だからな」
健、それプレッシャーだから。
バレンタインデーといえば、ホワイトデーも当然セットだ。やつらはお返しでも盛り上がる。
「俺らが話つけようか?」
僕の無言を心配するように健の顔は真剣だ。
「いや、ちゃんとお返しはするよ。目立たないように、騒がないように、日々を平穏に過ごしてきた。そんな僕をターゲットにしたんだ。ちゃんと心を込めて、相手以上のものを返すよ。例え相手が『凍てついた女王』でも」
僕の日常に対する宣戦布告。よろしい。ならば戦争だ。
ゴクンと健が唾を飲む音がする。
紗央里がちょっと呆れ顔で僕に言う。
「なんだかんだ、幸ちゃんも好きだねえ」
僕はその言葉に、不気味であろう笑みでもって返した。