第6話 二番目に可愛い子のお部屋!
「あの、人気の無い場所に移動出来ます?山とか森とか」
「え?!」
「ちょっとその、能力確かめたいので」
はい。そういう事ですね。
「人気の無い山とか森とか!」パチン
シュッ。
「あー、山に来ましたね。抽象的な馬鹿みたいな要望も考慮されるんですね。きっと、ここが最適解って事です」
「そ、そうなんだ」
「おじさん、命はあと何個あります?」
「え?なんて?」
「いや、命ですよ。何個あります?」
あ、ダメだ。意味がわからない。
「多分1個かな?あのね、」
「えー、もう1個しか無いんですか?」
「いや、最初から1個じゃないの?てか、あの」
「え?!最初から1個なんて事あるんですか?死んだら終わりじゃないですか!」
「あ、あのちょっと!!話聞いて!!」
「あ、はい。」
あ、やべ。少し怒っちゃった。大人気ない事を……って、逆にこの子がキレ気味ーー。
「あのね、俺はまだこっちに来て間も無くて、全然わからないんだよね」
「はい?」
「この世界の事、全く知らないんだよ」
「いやいや、転生前に授業受けるじゃないですか。」
「なにそれ?」
「はい?」
「受けてないんだが」
授業ってなんだ。学校か?
「なんかやばいですね。色々察しました」
そんな顔で見ないで。お願いだからッ!
「ごめんね。色々と教えてもらえたらなって思って……教えてくれる?」
「はぁ?言い方きもいんですけど」
はい。ごめんなさい。
「聞きたい事は色々とあるんだけど、命って何個もあるものなの?」
「そうですね。私の場合は転生前に全部で7個貰いました。今は5個に減っちゃいましたけど」
減る?!
「あ、そうなんだ。2回死んじゃったって事かな?」
「ですです。魔法使っちゃって、ドーンですよ」
擬音辞めて! 意味わからないから!!
「あ、あたし、明日もバイトなんでそろそろ帰りたいんですけど」
おいおい。まだ何も聞いてないぞ……。
「そうだよねぇ。じゃ、帰ろっか……」
「はい。あ! 連絡先教えて下さいよ。ID交換しましょ!」
「ごめん。スマホ持ってないんだ」
「置いて来ちゃったんですか?良いですよ。取りに戻りましょう」
「持ってないんだってば!」
「わかりましたから、早く取りに行きましょう」
「だから、スマホ持ってないんだよ!!」
「え?! 連絡先交換したくないって事ですか?はぁ?」
「あのさ、話聞いてる? スマホを持ってないの!!」
「はぁ? なんなんですか? なんであたしが拒否られなきゃいけないんですか? ほんと意味がわからないんですけど?!」
怖い怖い。どんだけ俺を下に見てるのこの子。
「落ち着いて! よく聞いて? この世界のスマートフォンを持ってないの! 契約してないの!!」
「……ガラケーって事ですか?」
そー来たかぁぁぁ。
「違う違う。携帯電話そのものを持ってないの。ほら、まだこの世界に来たばかりだから」
「なぁーんだ! それを先に言って下さいよ!」
言ったよね……ずっと言ってたよね…。
……話が全然進まない。
そんなこんなでこの子とバイト終わりに会う事、4回。色々とわかった事がある。
バイトは週5のシフト制。5連勤で2日休み。仕事内容はテレアポ。直接雇用では無く、派遣との事だ。
そして、大きな進展もあった。
派遣会社の営業さんに俺を紹介してくれるらしい。上手く行けば仕事にありつける!!
脱・無職!!
あ、名前聞いてないや。
◆
「おじさん、明日面接決まりましたよ!」
「わぁ! ありがとおおお!」
ついに仕事が決まるかもしれない!!
「身だしなみですよね。言いたくは無いんですけど、おじさん……日に日に汚くなってる気がするんですよね」
俺はオブラートに包んで、今の状況を話した。無一文、身分証なし、風呂なし!
ジャスティスハウスの事だけは言えなかった。居候の押入れ暮らしと言う新たな設定を設けてしまった。ごめんなさい……。
「えっ? 支度金の100万G使っちゃったんですか? 転生前に身分証渡されましたよね?!」
目が覚めたらこの世界に居たんだ。なんだよ支度金って……。どっかから派遣されてきてるのか。あーもう意味わからない。
「とりあえず、身分証はやばいですよ。指パッチンしましょ」
「しちゃっていいのかな?」
「する以外の選択肢が思い浮かびません!」
身分証!パチンッ
住民票がひらひらと落ちてくる。
「やっぱりこの手の願いは叶うんですね」
「どういう原理なんだろう?」
「記録を改ざんしたんだと思います」
え、それ超やばくない?! いいの?! ねぇ、いいの?!
「あはは! おじさん酷い顔してますよ! バレなきゃいいんですよ! バレなきゃ!!」
「あ、はは。だ、だよね」
「割り切って下さい! おじさんは変に真面目って言うか、良い人って言うか……。損しますよ!そういう所、嫌いじゃないですけどね!」
あ、普段見ない顔つきだ。やっぱり可愛いよなぁ。
身分証ゲット。次は身なりかぁ。。
「とりあえず、うち来ます?」
俺は恥じらいながら静かにうなづいた。
「ごめんなさい。ほんときもいです。」
相変わらず。この言葉がもう癖になってしまっている。どうした俺……。
2番目に可愛い子の自宅!パチンッ
シュッ
THE女の子って感じの部屋だった。ワンルームかな。TVに生活家電、ベッド、ソファー。ここは本当に異世界か?と疑ってしまう。
「はっきり言います。臭いんですぐにお風呂入って下さい」
一応濡れタオルで毎日拭いてたんだけどなぁ。現実は厳しいなぁ。
「それと、シャワーだけにして下さい! 浴槽には浸からないように! あと、これおしぼり!これで体洗って下さい!」
色々傷付くなぁ……。現状、不潔。わかっては居るけど。
「あー、剃刀自由に使って良いですから! そろそろ交換しようかなぁと思ってたので。髭剃りにでも使って下さい」
お気遣いありがとうございます。もう俺の心はズタボロです。
ーーーー
久々のシャワー。俺は気付く。非日常だった事を。異世界なのだから非日常は当たり前。
しかし、こんな当たり前な生活が出来るのも事実。俺は何をやってるんだろう……。と思いつつ、女の子の部屋、それも風呂場に来てしまっている奇跡に心踊らして居た。
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風呂場から出ると、さっきまで着て居たはずの服が綺麗になっている。クリーニング帰りのフカフカみたいに。10分くらいしか経ってないぞ?ありえないだろう?
俺は本当にこの世界の事を知らなさ過ぎる。
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「ありがとうね! 最高だった!」
「早かったですね。今夕飯作ってるので、ソファーにでも座って待ってて下さい」
トントントントン。何やら切ってるようでこちらを見る様子はない。真剣だ!
な、ん、だ、と?!
夕飯?! 手料理?!
「お、おう!」
な、なんだよ! おう! って!! 動揺し過ぎて偉そうにしちまった!!
一人暮らし……だよな? 一人暮らしの女の子の部屋に来て、お風呂に入って、手料理だと。ま、ま、まるでカレカノじゃないかぁーーい!!
どうなっちゃうの俺、これから!!
「はぁーい! お待たせしましたぁ!」
わわ! ハンバーグだ!! じゅるり!
突然顔を近付ける。
「へー、綺麗にすると結構マシになるんですね!誰かと思いましたよ!」
「えっ、ちょっ」
「んー、最初からこれで会ってたらお兄さんって呼んでたかなぁ。もうおじさんはおじさんですけど!」
そう言うと台所に走って行く。
その後ろ姿は小さいけど、大人びてて、美しいと思った。
普段とは違う、彼女の姿を見て、年甲斐も無く不思議な気持ちになる。
テーブルの上にはさらに皿が並ぶ。
ご馳走だ。おかずもたくさん。
美味そうだ。
「あり合わせの物だからバランス悪いですけど、我慢して下さいね!」
「わわ、めっそうもございません。感謝……感謝……!!」
「なにそれ、きもっ!」
はい。きもいいただきました。ありがとうございます!
ーーーー
「いただきます。」
モグモグモグモグ。うめぇ。うめぇよ……。あー、本当に美味しい。この外見で料理も出来る。チートだろ!
「ふふっ」
「な、なんだよ!」
「すっごい美味しそうに食べるんですね! 作りがいあるなぁと思って!」
「普通に美味しいから!!」
「普通に〜? 減点ですよそれ〜! でも、ありがとうございます」
「ちょ、超美味しい!」
「もう遅いです〜なんて言うかおじさん、不器用ですよね!あはは」
あー、なんて幸せな時間なんだ。俺は今、すごい幸せだ。
──これが、異世界ライフってやつかぁ!