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 モンスターを倒して装備の元を取る。そう意気込んだのが悪かったのか、ダンジョンはとても平和だった。あれから数匹奇襲を掛けてくるモンスターもいたにはいたが、不味い肉しかドロップしないのだから倒すだけ時間の無駄だろう。まあ、それも俺が一撃で倒しているので、時間の無駄にすらなっていないのだが……。

 もちろん分かってる。このスカスカ具合は、他のクラスメイト達を先行させたからだ。ちょっと前の俺からすれば計画通りとほくそ笑みたくなるくらいには順調なダンジョンアタックだとも。ただなぁ……。


「稼ぎが低すぎる……」

「ダンジョン入るまでビビってた割にめっちゃ好戦的じゃん桜間氏」

「俺達だって索敵はしてるのに、結局ここまでの襲撃も一人で対処してるしな。マジでどうやって見つけてるんだお前?」

「ただの勘だよ! クソ、こんなんじゃ散財した分が取り返せねぇ……」

「あ、それ。結構良い物揃えたみたいだけどさ、実際の所どれくらい使ったん?」

「……よ」

「よ?」

「四十万ちょっと……」

「うえ!? 思ったよりガチな金額じゃん! え、てか桜間氏、この半年でそんなに稼いでたん? ヤバ」

「放課後と休日だけでそれだろ? 結構良い稼ぎになるんだな」

「ね。僕、探索者は最後の手段とか思ってたけどさ、下手にブラックな所に勤める事になるよりいいかもとか思っちゃったもん」

「俺ら元勇者なら、プロ探索者一本でも困らないもんな」


 実際、こいつら元勇者共であればプロとして安定した収入が得られるだろう。元魔王である俺を一般人としてカウントしていいかは別にしても、近所のおばちゃん達だって晩飯のおかずを確保するついでに小遣い稼ぎに利用しているくらいなのだから。

 ダンジョンにしても、俺が潜っているようなほぼ死の危険すらない下級ダンジョンをすっ飛ばして、中級や上級、果ては勇者以外お断りの超級ダンジョンに潜る事ができる訳だからより稼げる。その分危険は増し増しな訳だが、仮にも世界を救った元勇者からすると温いもんだろうよ。


「結構進んだが他の連中と鉢合わせないな」

「だね。かなり広いっぽいねこのダンジョン。モンスターの殺意が高いけどあんまり強くないし、調査終わったら中級に分類されるかな?」

「こんな旨みのないダンジョン誰も好き好んで潜る事はないと思うがな」


 野田と(あずま)は相変わらず喋りながら歩いているので、いつの間にか隊列が俺を中心に男二人が前、女子二人が後ろへと変化していた。俺も時折話に混ざりつつ、不意討ちを仕掛けてくるモンスターをぶっ殺しているのだが、女子が静かすぎるのが少し気になる。

 氷室さんは元から静かな方なのでいいとして、佐々木はもっと喋るタイプじゃなかったか?

 軽く後ろの様子を伺うと、佐々木の顔がほんのり赤みを帯びている気がする。バスからここまでの間に風邪でも引いたのかこいつ?


「東、野田ちょっと止まれ。おい佐々木、顔が赤いが大丈夫か?」

「ふぇ!? そ、そうかな!? べ、別に何ともないよ?」

「……」

「ん? 確かに少し赤い気がするな」

「桜間氏よく気が付いたね」

「たまたまだ。何ともないならいいけど、ここらで少し休憩を挟んでおこうぜ」

「う、うん。ありがとね」


 ふう、無駄に着込んでるせいで暑いったらありゃしない。ここに出てくるモンスターが相手なら、ある一体を除いて俺は裸で戦っても問題無いくらいには馴れているし、休憩中に少し脱いでおくかな。


「ありゃ? せっかくの装備脱いじゃうん?」

「着込んでる分動きが阻害されるし、ここのモンスター相手ならいくらか脱いだ方がいくらか対応が楽だからな。正直ビビり過ぎてたわ――ッ!?」


 むっ、殺気!? 咄嗟に防御姿勢をとるが、その先にいたのは女子二人、だと? まさか、このタイミングで俺が元魔王である事がバレたとでも言うのか!? しかしいったい何が原因で……?


「おい、淑女があんまり鼻息荒く男の着替えを凝視すんなよ。桜間が今日一の反応速度で守りに入ったぞ?」

「えっ!? べ、別にそんな見てないし?」

「……」(カァ……)

「氷室さんの方は前から知ってたけど、え、佐々木さんもなん?」

「ち、違っ!」


 なんだ? いったい何の話をしてるんだこいつらは? この空気感、少なくとも魔王バレでは無さそうだが……元勇者にしか分からない暗号か何かでの遣り取りの線も捨てきれない。


「え~? 本当に~ぃ?」

「わ、私は! あっ、そ、そう、桜間のステータス見てあげよっかなって思っただけだし!」

「ステータス……?」


 (けん)に徹するつもりだったが、妙な単語が出てきたので反応してしまった。


「そうそうステータス! ここまで結構モンスター倒してるし、レベルも上がってるかもじゃん!?」

「何言ってんだ佐々木? ゲームじゃないんだからステータスなんてあるわけ無いだろ?」

「えっ……?」

「んん?」


 な、なんだ? いきなり空気が変わったぞ?


「いや、いやいやいや。桜間氏それは流石にギャグだよね?」

「何がだよ?」

「マジかぁ……」

「何だその可哀想な物を見る目は」

「あるぞ、ステータス」

「野田まで何言って……」

「……あるよ?」

「うそん!?」


 し、知らなかった……。まさかレベルアップやステータスなんてものがまかり通る世の中になっていただなんて! はっ! まさか、やたらパワフルなマダムの集団はレベルアップの賜物だったのか? 元勇者以外の地球人も戦闘力高過ぎぃ!とドン引きしていたのは勘違いだった訳だ。

 ……でも俺レベルアップした感覚なんて体験してないんだが!?


「てか下級ライセンス取得するときに講習とかなかったの?」

「えぇ……いや、あったかな? どうだったろう」


 正直あの頃は、突然周りの人間が天敵である元勇者だらけでストレスマッハ。とっととダンジョンに突入して少しでも早く力をつけなければ!とそればかりが頭にあり、精神的な余裕は皆無だった。

 初級ライセンスの取得の時となると……ああ、二時間くらい話を聞いたような、聞かなかったような。内容は一切覚えてないけどな!


「とりあえず見てあげるね!」

「お、おう」

「スキャン。え……?」

「どう、佐々木さん。桜間氏のレベルは」

「ちょっと待って! もう一回スキャン! えぇ……?」


 あ。流れで鑑定を受けてしまったが、称号みたいなのあったらどうしよう!? 転生者とか元魔王とか書かれてたら終わりだぞ俺ェ!


「桜間さ……」

「な、なんだ?」ゴクリ……。


 バレたか? ついにバレちまったのか!?


「がっかりしないでね?」

「へ?」

「その、すごく残念な感じだから」


 そう言って佐々木さんは東に出させた紙に俺のステータスを転写してみせた。


「こ、これは……」

「どれどれ……ブハッ」

「ひ、酷いな」

「わぁ……」




桜間 隼人

レベル1(next1568244)

所持魔力1/1

所持スキル

無し





「魔力あるやんけ!」

「最初に反応するとこそこ!?」


 やったー! 魔法が使えるぜー! ふっふーぅ!早速魔法を使ってみなくちゃだよなぁ!?


「世界を創りし偉大なる炎の精霊よ、我が力を糧とし、今一時の助力を願わん! 暗き闇を退けし導きの火をここに、トーチ!」


 ボッと指先に火が灯る。


「おお……魔法だ!魔法が使え……ぅ」


 ぐ、ぐおぉ……。なんだこの強烈な立ち眩みは!?


「桜間氏ってさ、たまに物凄くアホになるよね。魔力1しかないのに魔法なんて使ったらどうなるか分からないかなぁ? てかその詠唱で本当に魔法使えるんだね……」

「こ……これが……魔力切れの……感覚……」


 く、苦しい。だけど俺は久々に魔法が使えたので満足です!

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