表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

3

「桜間氏ってさ、氷室さんて付き合ってるん?」

「ゴパァッ」

「うわっ汚!?」


 ダンジョンお漏らし事件より早1ヶ月。周りが勇者だらけの日常にも漸く慣れてきた俺だったが、東の唐突な質問には同様を隠せなかった。


「東、お前はなんて恐ろしいことを言うんだ……おかげでエナジーポーションが台無しじゃないか」

「えー? 確かにちょいクールだけどかなり美人じゃん。てか毎日一緒に登下校してれば誰でも付き合ってると思うって」

「……」


 別に俺は氷室さんと一緒に登下校をしようと思ったことは一度もない。それどころか家を出る時間まで毎回ずらして一緒に行動するのを回避しようとしているくらいだ。

 なのに彼女は常に完璧なタイミングで家から出てくるのだ。

 玄関を開けた瞬間にお隣の玄関も開いて聞こえてくる「あ、おはよう……」は最早一種のホラーと言ってもいいのではなかろうか?


「あとさ、最近いつも飲んでるそれたぶん効果ないよ?」

「何!?」

「ダンジョン出来る前から売ってるジョークグッズだからねー」

「そ、そんなバカな……じゃあ俺が感じていたあのダンジョン攻略の疲労が抜けていくような感覚は……」

「プラシーボ効果じゃない? にしても桜間氏はよくダンジョンなんか潜る気になれるよね。わざわざ自分から危険に身を投じる意味が分からないよ」

「こっちからすれば力を持っているのに誰もダンジョンを攻略しようとしないクラスメイト達の気がしれないけどな」


 そう、うちのクラスの連中は1人も(例外的に氷室さんは俺について来たりするが)ダンジョンを攻略しようとしていない。勇者としての圧倒的な力を持っているのに、だ。


「そりゃ切った張ったはもうあっちで散々やって来たからね。戦う必要のない平和世界に戻って来てまで命のやり取りしようって人は少ないんじゃない? そう言う人はそもそも召喚先から戻ってこないだろうしさ」

「そう言うものか……」

「ま、就活失敗したらダンジョンもいいかもだけどねー。桜間氏最近かなり羽振りいいしさ」

「1年以上先の失敗を今から考えている時点でお前はダンジョン行きだろうな」

「んなことないってー。……ないよな?」


 とは言うものの、実際に勇者達が職に溢れることはないだろう。

 異世界で生き延びた経験を有する勇者達であれば戦力としては勿論の事、それ以外についても異世界召喚経験の人材とは比べるまでもなく優秀だ。遊ばせておくくらいなら国が積極的に職を斡旋してくれることだろう。超危険ダンジョンの攻略とか、特殊ドロップアイテムの回収とかな。

 ん? どのみちダンジョンに潜る事になるじゃないかって? それは違うぞ。自発的に潜るのと命じられて潜るのでは雲泥の差だ。

 前者であればダンジョン内で手に入れた物の中から気に入った物を手元に残しておけるが、後者の場合は全て企業や国に回収されてしまう。その分保証やら何やら手厚くはあるようだが……魔王的に魅力を感じないのでNGです。



 ◇ ◇ ◇



 さて、ここでこの1ヶ月の俺の修行の成果を披露しよう。

 既にスライムファクトリーは俺の敵ではなくなり、ボススライムもワンパンでノックアウツ! 駅向こうのダンジョンをすっ飛ばして隣街のダンジョンのボス、オークより美味しいとマダムに評判のピッグマンの親玉であるピッグマンエックスとも互角の戦いが出来るようになった! 奴らからドロップする肉がめちゃくちゃ旨いので、モチベーションにブーストが掛かった結果の急成長だ。

 もう肉体のレベルはかなり上がっているのでそろそろ魔力が覚醒してもいい頃合いだ。たぶん。


 魔力さえ使えるようになればスライムファクトリーの隣に存在する一般解放されているダンジョンの中でも最もレベルの高いダンジョンの一つ、激流のクロマグロ帝国でも通用すると思うんだよ。

 このクロマグロ帝国、名前の通りマグロっぽいモンスターが常に走り回っている危険なダンジョンだ。ボスモンスター「帝王・ブラックツナマン」を頂点にミナミ、メバチ、キハダ、ビンチョウのツナマンが出現する。

 そして一番の特徴として、ボスモンスターも他の雑魚モンスター同様にダンジョン内を常に走り回っているという点が挙げられる。そしてもう一つ厄介なことに、素人目では走り回るツナマンのどれがボスモンスターなのか判別もつかない。二足歩行するマグロはどれもマグロだからな。


 そんなビジュアル面でも非常に危険なダンジョンに何故魔力が使えるようになれば通用すると思うのかって言うとだな、魔王だった頃得意だった魔法の中に雷を操る物があったんだよ。

 アレさえ再び使えるようになればマグロ丼が好きなだけ食べ放題……じゃなくて勇者に怯えずに過ごす明るい未来にまた一歩近づくと言うものだ。

 別に最近豚肉が続いたから魚が食べたくなった訳じゃないぞ?

 それじゃ短いが今回はここまでだ。次に会う時には魔法の一つも使えるようになっておくから期待していてくれよ?

ピッグマン

オークっぽいけどオークじゃない、けど本当はオーク?なモンスター。

オークより脂身が美味しい。


ツナマン

マグロに立派な二本の脚が生えていると言う強烈なビジュアルを持つモンスター。

マグロらしく常に走り回っていないと死んでしまう。

脚は食べられない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ