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予期せぬメンバー

 ついに八月一日が来た。滅兵にとっては待ちに待った日だ。いや、滅兵だけではない。多くの民たちがこの日を望んでいた。

 いよいよ、祓い師たちの牙城を崩すときが来た。その歴史的瞬間を見るために、多くの人々が会場である死戦の宴場に押し寄せてきていた。

 祓い師を応援する者などいない。ひょっとすれば、観客たちの中には祓い師側の人間もいるかもしれないが、それを口にする者など一人もいはしない。声援を送るなどもってのほかだ。もし、応援すれば瞬く間に袋叩きとなってしまうだろう。完全にアウェーとなってしまっている会場の光景を祓い師たちは冷めた目で見つめていた。


「ばからしい。本当に奴らが我々を打倒できると思っているんですかね?」


「夢を見るのは自由だ。好きにさせてやれ」


 歓楽戦に出場予定の腕利きの祓い師たちはやる気のない態度でそんな言葉を交わす。彼らは完全に負けるとは思っていなかった。

 そもそも、彼らは滅兵側がどんな人間を送り込むかさえも知らなかった。知らずとも勝てると思っていたからだ。だからこそ、滅兵側のメンバーを見て彼らは驚くことになる。


「おい! 羽場(はば)! 野洲(やす)! 向こうのメンバー見たか!?」


「どうした? 草村(くさむら)。そんなに血相を変えて」


 羽場と呼ばれた男がうっとうしそうな顔になってそう返す。草村は構うことなく言葉を続ける。


「滅兵の奴ら。ガキどもをメンバーに当ててきやがった!」


「何?」


 羽場は眉をひそめる。野洲も訝しげな顔になる。何言ってんだ、こいつ。そう考えてるのが丸わかりの顔だ。それを感じた草村は二人の腕を取るとどこかへと引っ張る。

 羽場と野洲はその手を振り払う。


「ったく、急に何をする」


「そうっすよ。そこまで血相変えるほどじゃないでしょう。俺たちだって、ガキっちゃガキなんすから」


 三人ともまだ成人していない。羽場と草村が十七、野洲に至っては十五だ。充分子供と呼べる年齢だろう。

 だから、血相を変えてまで伝えるような事実ではないだろうと二人は思った。


「いいから来い。見れば、俺の言ってる意味が分かる」


 不信感をあらわにしながらも、そこまで言われてはさすがに二人も少しは気になった。だが、どうしても知りたいというほどではない。

 結局、草村の鬼気迫る態度に押し切られる形で二人はしぶしぶといった様子で草村の後をついていった。






 ○○○○○


 草村に連れられて嫌々会場の廊下を歩く二人だったが、草村に案内された場所に到達すると二人は驚きを露わにした。

 そこは会場のとある吹き抜けの部屋だった。休憩室として使われているその部屋に対戦相手となる滅兵の代表の面々がいた。彼らを見て羽場は思わず舌打ちをしていた。


「ガキってこういう意味かよ」


「完全に舐められてるとしか思えないですね……」


 二人は対戦相手の面子を見て苦々しげな顔をする。なぜなら、滅兵代表の全員が年端のいかぬ――それどころか、小学生にしか見えないほど幼い子供たちだったからだ。

 確かに羽場たちも充分若い。滅兵の年長者たちをぶつけてこなかったことに不満はない。しかし、だからといってこれはないだろう。羽場と野洲が呆れてしまうのも無理はなかった。


「なるほどな。まだ小せえガキをぶつけて、こっちの動揺を誘おうって魂胆か。くだらねえ真似を」


「そう見せかけて、実は滅茶苦茶強いって可能性もありえますよ。祓い師として将来が期待されてた子が何人かいるみたいですし。どっちにしても、ちょっと用心しておいた方がいいかもしれないっすね」


「お前は用心深すぎんだよ。どうせ、相手はちびっこどもだ。ワンパンで終わんだろ」


「いや。あんまり油断したくないんですよ。この戦いで負けたら、こっちは大損なんですから」


「そうかよ。なら、お前の好きにしろ」


「了解です」


 二人はひそひそ話でそんなことを言い合う。先ほどから見られていることが気になったのか、青髪の少年と金髪の少年がこちらに近付いてくる。

 波一とスタトラだ。


「失礼。我々に何かご用ですか?」


 スタトラが年齢にそぐわぬ礼儀正しさで聞いてくる。そんなスタトラを見て、三人はわずかにたじろぐ。


「兄さんたち、さっきからジロジロとこっち見てきて何なん? 見たところ、祓い師みたいやけど」


 波一は関西弁で聞いてくる。こちらは年相応の態度だ。あまりの温度差に戸惑いながらも、草村が少年の問いに答える。


「ああ、俺たちは君たちの今回の決闘の相手でね。滅兵側がどのような兵を出すのか興味があって来たんだ」


「ふーん。ほんで、どいつもこいつもちっこいガキで勝てそうとか思うとるんか?」


 挑戦的な笑みを浮かべて尋ねてくる波一に真意を掴ませない笑みを浮かべながら草村が答える。


「さあ、それはどうかな。見た目や年齢と強さはイコールじゃないからね。そもそも、祓い師の名門出身の君たち相手を見くびるはずがないだろう?」


 にっこりと笑い、あまつさえ挑発さえしてみせる草村に波一はつまらなそうにそっぽを向く。


「何や、教科書通りでつまらん()っちゃ。後ろの二人の方がまだ面白みがあるわ」


 波一は羽場と野洲の方に視線を向ける。だが、すぐに顎に手をやって考え込むような仕草を取る。


「いや。あんたも充分おもろいかもしれへんなぁ。まぁ、どっちにしてもすぐにガラクタになるような連中に期待しても意味なんかあらへんけど」


「面白いことを言うね。まるで、君たちが勝って当然と言っているみたいだ」


「当たり前や。そもそも、負けるつもりで戦いに挑むアホなんかおるん?」


「ふふ。心がけだけは殊勝なようだね。だが、それもいつまで保つかな?」


「多分、その台詞はブーメランやで? 兄さん」


 波一と草村は互いに穏やかな笑みを浮かべつつも火花を散らしている。他の面々は付き合っていられないといった様子で二人を見守っている。


「どちらが強いのかはすぐに分かる。それじゃあ、君たちとの決闘。楽しみにしてるよ」


 草村はそれだけ言うとさっさと行ってしまう。羽場と野洲は肩をすくめて、草村に遅れて立ち去る。滅兵のメンバーたちは各々談笑しながらも、その後ろ姿を目で追っていた。



 滅兵たちの顔を見に来たのは草村たちだけではなかった。逆側では四人の男女が滅兵のメンバーを懐疑心に満ちた目で見ていた。


「奴らめ。向こうから持ちかけてきた決闘だというのに何のつもりだ」


「見下しているつもりですかね? それとも、他に何か狙いが?」


「前者はいくらなんでもありえないだろう。となれば、後者と見る方が無難だな」


「でも、何のためにそんなことをする必要があるんだ? この戦いに勝てば、一応奴らは目的を達成できるんだぞ」


 四人は不快さを隠さずに言葉を交わす。彼らの頭の中には既に一つの仮説が浮かんでいたからだ。白髪の男がその仮説を口にする。


「おそらくだが、あの童たちを囮にして自分たちは逃げるつもりではないのか? 最初こそ調子づいていたが、徐々に祓い師(我々)の力の大きさを思い知らされはじめた。そして、勝てぬと悟った奴らは多少下を犠牲にしてでも、自分たちだけ逃げおおせようという算段なのだろう。その証拠に彼らの半分近くは我々祓い師側の家の子の上に、虎善の倅とやらも姿を見せていない」


内村(うちむら)氏の仰る通りでしょうな。まだ幼い子供を盾に使うとは小癪な真似を」


「どうだっていいでしょう。逃げたところで、いくらでも追って殺せる。この星にいる限り、奴らに逃げ場はない」


 黒のセミロングの女性がそう吐き捨てる。どんなに綺麗事を並べても、結局滅兵も祓い師と同じ薄汚れた思想を持った豚どもの集まりにすぎない。彼らはそれを確信し、その上であの子供たちを皆殺しにすると決めた。

 見せしめではない。単純に滅兵たちを皆殺しにするための一手間にすぎない。そのためなら、彼らは手段を選ばない。そう意気込むのはよかったが、彼らは大事なことを失念していた。手段を選ばずに勝つ気なのは滅兵側も同じだということを。



 こうして、二つの陣営の顔合わせは終わった。もうまもなく滅兵と祓い師の死闘が始まる。そして、いよいよ第一回歓楽戦のオーダーが発表された――。

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