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時は満ちはじめる

第六章開始です

 どこに行っても相変わらず祓い師の横暴は続いていた。もう皆諦めている。

 救滅地区では一人のスキンヘッドの大男が青果店の店主にいちゃもんをつけていた。


「だからよぉ。俺様は祓い師なんだぜ? そこんとこ、もうちょっと考えてほしいって言ってるだけじゃねえか」


 男の右手には袋に詰め込まれたバナナがあった。どうやら、男はこのバナナに関して無茶な値引き交渉をしているようだ。


「ですから、そちらの商品は相当高額な品でして。割引はできないんです」


 店主は頭を下げながら懇切丁寧に値引きができない旨を伝える。このバナナは黒層で取れた最高級品種で喧嘩は相当高額だ。飛び抜けた甘さとバナナとは思えないほどのみずみずしさから評判は極めて高く、藍岸でもこのバナナを欲する人間は多い。前々から資金を貯め交渉に交渉を重ねて、先日ようやく入荷した。この青果店はこのバナナを主軸に売り出そうと考えている。事実、男の後ろには多くの人がこのバナナを目当てに並んでいた。もし、このバナナを普段のようにタダ同然の値段で売ってしまえば、逆にこの青果店は潰れてしまいかねない。

 だが、そんな理屈が人でなしの祓い師に通じるはずがなかった。


「ほぅ。さっきから黙って聞いてりゃ言ってくれるじゃねえか。いいんだぜ、別に。お前を二度と舐めたことができない体にしてやってもなぁ」


 男は拳をパキポキと鳴らして店主に迫る。店主は思わずたじろぐが退くわけにはいかなかった。店の命運を賭けたといっても過言ではない。袋の中には二十個近くは入っている。それだけのバナナを譲っては店は傾き家族全員路頭に迷う可能性がある。

 だが、男は無慈悲に店主に拳を振るおうとする。店主が身構えたとき、まさに救世主が現れた。


「二度と舐めたことができなくなるのはてめえの方だよ」


「あ?」


 男が声のした方に振り向こうとした瞬間に急に顔が真っ赤になる。だが、すぐに顔は真っ青になり、両手で首を押さえる。男の右手からバナナの入った袋が消えると同時に男は泡を吹きながら倒れる。

 店主が青ざめた顔で男の後ろの方を見ると、まだ幼さが残る二人の少年がいた。


「おいおい。いきなり殺すなよ」


 銀髪に銀縁の眼鏡をかけた少年が呆れた顔でもう一人の少年を窘める。


「何でだよ? どうせ、こんな人外どもに人の言葉が通じるわけねえんだから、さっさと殺すのが正解だろ?」


 金髪の切れ長の赤い目を持った少年が首筋に手をやりながら答える。銀髪の少年は小さくため息をつく。


「まあいいさ。どうせ、こんなの大した収穫にもならないからね。はい、おじさん。これ」


 呆然としている店主に銀髪の少年はバナナの入った袋を手渡す。店主はその袋を受け取ろうとしない。

 先ほど男に凄まれても一歩も退いていなかったが、それは店を守るために胆力を絞り出していたにすぎない。だが、目の前でその男が死ぬ様を見たことで安堵と恐怖の感情が店主の中で入り交じっていた。

 それを察した銀髪の少年は袋を店主の右腕にかけると、そのまま立ち去ろうとする。

 だが、そこで多くの視線が自分たちに向いていることに気付く。


「おい。何だ? あいつら」


「やばいんじゃねーのか? 祓い師を殺しちまって」


「いや、そもそもそれ以前にどうやって祓い師を殺せたんだよ!?」


 本人たちはひそひそと話しているつもりなのだろうが、二人の少年からはまる聞こえだった。人々が二人の少年に向ける視線はさまざまだ。



 同情。警戒。期待。絶望。恐怖。



 あまりいい感情が向けられているとは言えない。当然のことだった。祓い師に刃向かえばどうなるか分からない。にもかかわらず、彼らは祓い師に反抗し、あまつさえ殺害してさえしまった。祓い師たちが黙っているはずがない。

 同時に彼らに対する疑問も溢れてくる。祓い師を殺すなど並の人間では不可能だ。祓い師を殺せるのは悪霊か同じ祓い師しかいないはず。しかし、少年たちは明らかにそのいずれかでもないのに祓い師を殺した。

 ひょっとすれば、祓い師に対抗できる術を編み出した人間なのかもしれないと希望を持つ人間も少なからずいた。

 人々の群れの中から一人の男性が出てくる。男性は戸惑いながらも少年たちに聞く。


「き、君たちは一体?」


 警戒しながらも聞いてくる男性に銀髪の少年はにっこりと笑って答える。


「僕の名は猟社堅。こっちの金髪が狩宮硬。僕たちは滅兵さ」


「滅兵?」


 銀髪の少年――堅はそれ以上答えることなくその場から立ち去る。硬もその後を追う。後ろから呼び止める声が聞こえてくるが二人が立ち止まることはない。



 こうして徐々に滅兵の名が知られていくことになる。そして、彼らの活躍によって滅兵は人々にとっての祓い師に代わる希望となっていった。

 しかし、この話の本質はそこにはない。



 狩宮硬と猟社堅。



 後の白い大爆発を引き起こしたとされる彼らが十年前どう動いたのか。そして、十年前に何があったのか。それらを語ることこそがこの話の本質だ。

 これはそんな話をほんのわずかだけ描く幕間である。


この第二部では狩宮硬と猟社堅を主人公とする予定です

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