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再会…… ?

 いの一番に到着した武は迷うことなく扉を開ける。部屋の前で合流するとは言われていない。片付けられるならさっさと片付けてしまった方がいいだろうという判断だ。普通ならば罠も確認せずに単身敵の懐に飛び込むなど危険極まりない行動だったが、武にとってはその程度はどうでもいいことだった。

 中に入ると真っ暗だった。少し前に統也と会ったときに入った部屋を彷彿とさせる。窓らしきものもなく、光源らしきものは正面に灯された五つのロウソクだけだった。

 刹那、部屋の中に濃厚な気配が満たされる。武は反射的にファイティングポーズをとって身構える。


『こいつは随分と舐められたもんだな。他の仲間を待たずに一人で突っ込んでくるとはよ』


 部屋の中からそんな声が響く。初めて聞く声だった。そういえば、座子の声を聞いたことがなかったなと武は呑気に思う。

 姿を見せることのない座子に小さくため息をついて武は口を開く。


「別に。渉に瞬殺された程度の奴なら俺一人で十分だと思ったんだよ」


『はっ。大きく出たな。出来損ない(・・・・・)の分際でよぉ』


 出来損ないの言葉に武は反応を示す。座子の表情は分からないが、空気の震えから察するに笑っているようだ。


『ああ。そういやぁ、いろいろと忘れてるんだっけか? ワライの奴がそこまでは無理だったってぼやいてたっけなぁ』


「ワライ?」


 聞いたことのある名に武は目を細める。空我の言葉を信じるならば、十年前の大爆発を起こした張本人だ。


「ああ。あの十年前の大爆発を起こしたって奴か」


『あいつが爆発を起こしただぁ? 誰だ? そんな見当外れなことをお前に吹き込んだ奴は』


「クウだが?」


『ああ。あいつか。あいつは嘘を教えるのが好きだからな。あんま真に受けねえ方がいいぜ』


「少なくとも、姿すら見せないお前よりは信用できると思うけどな」


 武の言葉に座子は一瞬沈黙する。だが、すぐに大笑いする声が響く。


「何がおかしい?」


『はっ。笑うに決まってんだろ。お前、何でそんなに空我(あいつ)のことを信じてるんだ?』


「!」


 武は大きく目を見開いて、そのまま黙り込む。言い返すことができなかったからだ。確かに空我はこの世界に来た当初から怪しいところはあった。普通に考えれば、彼こそが武をこの世界に連れ込んだ黒幕ではないかと疑ってもおかしくはない。

 怪しいと分かっていながら、武が空我を疑わなかった理由。それは、空我が命の恩人だからだ。彼が武を拾って城神家に入れてくれなければ、武はきっとどこかで餓死していただろう。元々この世界にいようといまいと武に記憶がない以上、この世界で生きる術を知らない。だからこそ、危険を薄々理解していながら、あえて見て見ぬフリをしていたのだ。

 だが、あらためて指摘されてしまえば何も言えなくなる。武に空我を全面的に信用する理由を挙げることはできない。挙げられるとすれば、命を助けてくれたという不明瞭な理由だけだ。


『くだらねえ。どんなに強い力(白い呪力)を見せつけたところで、結局お前の本質は何も変わりはしねえ。記憶を失ったって聞いて、ちったあ期待したがとんだ見込み違いだぜ』


 その言葉を聞いて武の表情が大きく崩れる。次の瞬間、武は思いきり大声で叫んでいた。


「待て! お前、俺が記憶を失う前のことを知ってるのか!?」


『あぁ? んなもん当たり前だろ? なんたって……』


 そこまでで座子の言葉が止まる。武は突然言葉を止めた座子に戸惑うが、やがて、くっくっと喉を震わせるような笑い声が聞こえてくる。


『いや、いいや。やめておこう。どうせ、すぐに知ることになるとしても、ここは放置してやった方が面白そうだしな』


「何だと?」


 武は白い呪力を放出させ無意識の内に威嚇する。食えないしゃべり方をする座子にいい加減苛立ちはじめたのだ。


『おお、(こえ)ぇ、(こえ)ぇ。(こえ)えから、悪いが俺は消えさせてもらうわ』


「何!?」


 真っ黒な部屋に無数のからくり人形のようなものが青白い光とともに浮かび上がってくる。全部で十五体だ。


『一応それなりに人の動きに近付けちゃいるが、いいとこそこらの実力者(笑)と呼ばれてる連中と同程度だ。今のお前なら三分もあればつりが来るだろ。そいつらをぶっ壊して、俺の下に来い。俺はこの村に居座ってる元凶の近くにいる。もし俺のところに来られたら、もう少し情報を教えてやってもいい』


「!」


『じゃあな』


「待て!」


 武は出口に向かって走ろうとするが、背を向けた瞬間に一斉に人形たちが背後を襲ってくる。武は舌打ちをするとその全てをいなし一瞬で破壊する。十五体全てが襲ったためか、三分どころか十秒も経たずに全てを壊滅させてしまった。

 だが、すでに座子の気配はない。


「逃げられたか」


 武がそう舌打ちをしていると、部屋の中に二人の人影が入ってくる気配がある。暗くて遠目からでは影しか見えない。しかし、すぐにその正体が分かる。


「何を勝手な行動をしている?」


 織珠が不機嫌な顔を隠すこともなく咎めてくる。武は冷めた目に能面のような顔でそれに答える。


「別に。この部屋の前に着いたらどうしろとは言われてたんでな。ただ早期決着を望むと聞いてたから、さっさと終わらせるべく単身この部屋に入っただけだ」


「ふざけるな。奴は祓い師の中でも屈指の実力者だ。ひよっこの貴様一人でどうこうできるはずがなかろう。現に奴を逃がしている」


「まぁまぁ。落ち着け。織珠」


 織珠の言葉と表情からは怒りを感じる。天成は窘めようとしているが、織珠は聞く耳を持たない。


「はぁ。文大を倒し、あの善也を相手に善戦したと聞いて少しは期待してたんだがな。ここまで馬鹿だとは思わなかった。無能を通り越して、存在価値を見つけることすら難しいな。もういいぞ。お前はさっさと荷物をまとめて帰れ。二度と私たちの前に姿を現すな」


 冷たい目で織珠はそう言い放つ。どうやら、相当ご立腹のようだ。指示がなかったからと、独断専行をした上に標的を取り逃がせば当然のことだろう。それどころか、武は天成たちが苦労して掴んだ情報すらふいにした。何しろ、今まで対祓滅女を牛耳っているのが座子だということすら分かっていなかったのだから。

 しかし、怒っていたのは織珠だけではなかった。


「黙れよ。てめえごときが俺に命令してんじゃねえ」


「…… っ!」


 怒りとともに絶大な白い呪力を迸らせ、凄まじい殺気を織珠に向ける。織珠は身をすくませ、怯えたような表情を見せる。先ほど、座子にこけにされた挙句に逃げられたのだ。武の失った記憶に関して何かを知っていそうだったのに、その手がかりをみすみす取りこぼしてしまった。この世界に来て、ようやくことが進展するかもしれなかったのにだ。そのせいで今の武からは完全に冷静さが失われている。



 天成は大きくため息をつくと、ぱんぱんと手を叩く。


「はいはい、そこまでだ。武、矛を収めてくれ」


 天成がそう言うと武はしぶしぶといった様子で呪力と殺気を消す。織珠はほっと息をつく。


「確かに不用意に行動をして敵を取り逃がした武が悪い。だが、織珠。お前も言い過ぎだぞ」


「ちぃ……」


 織珠は盛大に舌打ちをして、そっぽを向いてしまう。天成はそんな織珠を見て頭を抱える。


「それで? 座子は何か言ってたか? せめて、行き先の情報くらいは引き出していてくれるとありがたいんだが」


 尋ねてくる天成の表情には失望と諦めの色が見られた。武はまだまだ新米の祓い師だ。多少ずば抜けた実力があろうとも、致命的な経験不足は否めない。

 だから、百戦錬磨の座子から何も情報を引き出せてはいないだろうと思いつつも、万が一のことがあると考えダメ元で尋ねているのだ。

 天成の問いに武はほんの少しだけ逡巡する。座子との会話の全てを言うわけにはいかない。その場しのぎかもしれないが、それでも自分のせいで任務に影響が出てしまったこの時点で余計なことを言ってはまずい。

 武は言葉を選びながら話し出す。


「奴は自分はこの村に居座ってる元凶の近くにいる…… と言っていた」


「この村に居座ってる元凶?」


「それ以上は分からない。だが、その言葉からするとこの村で起こっている不審死を引き起こしている元凶とみていいんじゃないか?」


「貴様の勝手な推測で喋るな。ただ事実だけを言え」


 先ほど殺気をぶつけられ小動物のように怯えていたにもかかわらず、織珠はそう吐き捨てる。武が小さくため息をつくと、織珠は体をびくつかせる。天成は武に冷めた目を向けているが、武は気付いていないフリをする。武もたいぶ祓い師として板についてきたようだ。


「まぁいい。とりあえず、また探索だ。三人がかりで調べるぞ。聞き込みや潜入などの内偵調査を行って、この村を苦しめている元凶とやらを調べる。ただお前も慣れていない面があるようだから、あまり無茶をする必要はない」


 もう天成は完全に武を戦力として外している。彼らは二人でこの任務をやり遂げるつもりのようだ。しかし、武にとっては好都合だった。邪魔が入らないのなら、遠慮なく座子に問いただせる。

 聞かれるわけにはいかないのだ。誰だって、自分がこの世界とは違う世界から来たと言われれば本気にしないか、逆に本気にして利用しようとしてくるだろう。前者ならいいが、後者は大変まずい。いや、前者でも状況にとってはまずいことになりかねない。いずれにしても異世界のことに触れて、いいことは何一つない。

 だから、武は沈黙し二人が建物から立ち去っていくのを静かに見つめていた。二人の姿が完全に消えたところで小さくため息をついて口を開く。


「出てきたらどうだ? いるんだろ?」


 背中を向けたまま尋ねてくる武の問いかけに相手は静かに笑う。暗闇の中からその人物は姿を現す。


「凄いな。前回と違って、今回はわりと本気で気配を消していたつもりだったんだが」


「どこがだ。バレバレだったぞ。渉」


 武の言葉に渉は小さく笑った。武は渉の方に体を向ける。


「驚いたな。まさか、お前が緑陸(ここ)に来ているとは。…… それで? 無様なミスを犯した俺に何の用だ?」


「そうかっかするなよ。冷静さを失えば、さっきのように余計な失敗(ミス)を招くだけだぞ?」


 武は静かに渉を睨みつける。その鋭い眼光を向けられた渉は両手を上げておどけてみせる。


「だから、怒るなって。ちゃんと、用件は言うよ」


「何だ?」


「いきなりで悪いんだが…… お前、転生者だろ?」


「!!」


 武は大きく目を見開く。渉はそんな武を見て不敵に笑った。

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