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副将戦決着

 時は少し戻る。燃の一撃で意識を失っていた南条は三将戦が始まる直前で意識を取り戻した。体を起こし、そこが医務室のベッドだと理解した南条は制止する医師や看護師の忠告も聞かずに体を引きずりながら滅兵側の待機室へと向かう。

 勢いよく待機室に入ると、既に三将戦は終わっていた。それどころか、もう副将戦が始まろうとしている。そのモニターを食い入るように見ていた南条は大きく目を見開いて体を震わせる。


「南条…… ?」


 その声でハッとなる。南条が声のした方を向くと、スタトラが怪訝そうな顔で南条をみていた。波一はさして興味がないといった様子でモニターを見ている。南条はその様子を見て、再びモニターの方に顔を向ける。いや、思わず向いてしまった。できれば、嘘であってほしいと願ったその光景を見るために。


「お前。もう動いていいのか?」


 スタトラの問いに南条は答えない。モニターを凝視している。その理由に容易に見当がついたスタトラはそれ以上言うことはない。


「スタトラ様……」


「ん?」


 弱々しい声で話しかけられたスタトラは南条の方へと顔を向ける。南条の顔は真っ青だった。目は大きく見開かれ、唇は震えている。南条は震える声でスタトラに問う。


「あれは…… もしや……」


 南条の問いにスタトラは目を閉じる。そして、否定してほしいと願っていた南条の祈りをいともたやすく打ち砕く。


「おそらくは、お前の思っている通りだ」


 痛々しげな表情で答えるスタトラに南条から顔色が失せる。波一は何も言わない。彼らの視線の先には白い呪力を迸らせた武の姿があった。






 ○○○○○


 武は猛スピードで善也へと突進していく。善也に到達するまでのほんのわずかな時間。一瞬にも満たない時間で武は自身の纏う呪力を変質させる。ただ無秩序に放出されるだけの白い呪力から、今までまともに制御することのできなかった白い炎へと。文大戦、渉戦で使用されたその圧倒的存在感を放つ炎はまだまだ未完成の技だ。いや、未完成だったと言った方が正確か。自身の意思で自在に発現させることのできなかったその白い炎を武はついに意のままに操れることができるようになった。負ける気がしなかった。

 目にも止まらぬ速度で白い炎を発現させた武は何のひねりもない右ストレートを善也の顔面めがけて放つ。当然善也はそれを体を横にしてかわそうとするが、武は拳を振り切ることなく即座に裏拳に変える。


「へぇ」


 善也は途中で攻撃を変えた武に感嘆の息を漏らすが、それとは裏腹に右腕で裏拳を受け止めようとする。だが、受け止めきれずに吹き飛ばされてしまう。しかし、善也には予想の範疇だったのか左手で地面に手をつくとその反動で一回転し着地する。


「分かっちゃいたけど、やはりこの程度ではダメか」


 善也は赤黒く変色してしまった自身の右腕をみてそう呟く。当然折れている。善也は最善の行動を取った。ストレートから裏拳に変えるということを知っていた善也は右手に本気で硬質化した樹木を纏い、その上でさらに基本術の一つである『鎧』で防御力を強化した…… つもりだった。

 別に祓い師に大した思い入れのない善也にとっては祓術を使うことにためらいはなかった。だが、長らく使用していなかったゆえに鈍っていたところがあるのだろう。昔よりも精度も威力も落ちたそれはあまり役に立たなかった。実質的に樹木の鎧のみで防御(ガード)することと同義になってしまい、善也の理想より遥かに脆くなってしまった防御ではこれが限界だった。

 しかし、善也の判断は間違っていない。もし、生身で受け止めていたら善也の右腕は消失していただろう。そう思えるだけの凄まじい一撃だった。それに鎧も全く役に立たなかったわけではない。少なくとも樹木の鎧のみで受け止めるよりは気休め程度には防御力が上がった。



 それにこの程度は善也にとっては覚悟の上だ。今、出せる力の全てを出して善也は戦っている。たとえ、武の放つ攻撃の全てが異常な破壊力を持っていたとしても、善也の精神(こころ)が揺らぐことはない。


「仕方ない。こっちも相応の力で迎え撃とうか」


 善也は右手に木の枝のようなものを出す。長さは一メートル前後といったところか。先端は鋭く尖り、鋭利な凶器のように見えるこの枝こそが善也の持つ最強の矛だった。

 善也はそれを武に向けて宣言する。


「来なよ、屋敷武。せっかくここまで来たんだ。君の力の全てを引きずり出して、その上で君を倒す」


「はっ! やってみろ!」


 武は再び善也に突撃すると見せかけて、白い炎による弾丸を善也めがけて飛ばす。善也はその全てを的確にかわしていくが、その先には武が拳を握って待ち構えていた。武の左アッパーを善也は平然とかわす。しかし、武の本命はこの後だった。善也の足を払って体勢を崩すと、その隙をついて右のスマッシュを打つ。白い炎と合わさり絶大な破壊力を持った拳を善也はわざと大きく倒れ込むことでかわす。武は仰向けに倒れた善也の腹めがけて拳を振り下ろすがその場から善也が大きく離脱したことによって拳は地面を粉砕する。

 武の追撃は止まらない。左膝を使っての飛び蹴りで善也の顔面を狙い、身を屈めてかわされたのを見ると、右足でドロップキックを放つ。しかし、善也は悠然とそれをかわす。ことごとく攻撃がかわされることに業を煮やした武は両手を使った超高速の連続パンチを放つも、いずれも避けられてしまう。


「ちょこまかと…… !」


「わ~。さすがに、これは引くな」


 善也は少しも焦りを見せないでそんなことを言う。武にはそれが挑発だと分かっていた。しかし、武の心に焦りが生じはじめているのも事実だ。この白い炎を発してから一番最初に当たった裏拳以降一発も攻撃が当たっていない。それどころか防がせることすらできていないのだ。防がせれば防御箇所に痛打を与えることができるのは最初の裏拳で分かっている。しかし、それすらさせないとなると武にとってまずいことになる可能性が高い。その理由は単純明快だ。武自身詳細には把握していないが、この祓己術は特性上あまり燃費がいいとはいえないはずだ。つまり、長引けば長引くほど武に不利になっていく。

 思わず臍を噛む武に善也はクスリと笑いかける。


「さすがに気付いてるか……」


「ああ。どういうタネかは知らねえが、お前は俺の攻撃の全てを読んでいる。その上で戦闘時間を伸ばして俺の呪力切れを狙ってる。そうだろ?」


「半分正解…… かな。まぁ、残りの半分は今の君(・・・)には知るよしもないことだ。結局このまま逃げ続けていれば、君は勝手に自滅する」


 凄絶な笑みを浮かべてそう言い放つ善也を武は睨みつける。しかし、こうしている間にも武の呪力は消耗していく。おそらく、現時点でこの世界に来た当初に武が持っていた呪力量はとうに使い切ってしまっているだろう。実戦経験を重ねるにつれて、時間を重ねるにつれて呪力量が上昇していることは分かっているが、それでもそう長くは保たない。保って五分程度だと当たりをつける。

 つまり、五分以内にこの怪物を倒さなくてはならないのだ。滅兵最強と謳われるこの男を。


(このままむやみに攻撃してても埒が明かねえ。一か八か……。やってみるか!)


 武は右腕を上げ、すっと目を閉じる。そして、一度深く深呼吸をする。すると右腕に白い呪力が集まり、他はうっすらと白い呪力が纏われているような状態になる。


「…… やけっぱちになっちゃったの? 僕が君の攻撃の全てを読んでるって、さっき君が言ったんじゃないか。これじゃあ、僕じゃなくても次の手が丸わかりだよ」


「さあな。そいつはどうかな!」


 武は一直線に善也に突っ込んでいく。突っ込んで近接攻撃を仕掛ける。今までとまるで変わらぬ攻撃方法。

 善也もさすがにつまらなそうな顔になり、目を細め武の攻撃をかわそうと身構えるが、武はそれを見てうっすらと白い呪力を纏っただけの左手で地面を殴りつける。

 たとえ、薄く纏っただけでもその威力は絶大で善也の視界を覆うほどの煙幕ができる。だが、善也は慌てることはない。


「なるほどね。いい手だけど、言ったろ? 丸わかり……」


 善也の言葉がそこで止まる。大きく目を見開いて信じられないようなものを見る目で自身の眼前の光景を見る。そこには、武の右拳があった。善也の顔面に寸止めするように置かれた武の右腕に白い炎は纏われていない。それどころか、武の全身から白い呪力が消えている。


「くそっ。一手遅かったか……」


 武はその場に膝をついて倒れる。善也はうつ伏せに倒れる武を見て目をパチクリとさせるも、やがておかしそうに腹を抱えて笑う。


「ふふっ。そうか! そういうことか!」


 善也は笑いを何とか引っ込めて、武の後頭部を見る。


「まぁ、ぼくにはどうすることもできないんだけどね。でも、どっちにしても君はすぐに大変なことになると思うよ?」


 愛おしそうな顔で善也はそんなことを言う。武はその意味を問い質そうとするが体が動かない。完全に呪力切れだ。最後の文大を倒した白い炎を押し固めての攻撃。文大戦の時よりも大幅な進化を遂げたその攻撃を武は扱いきれずに残った呪力全てを吐き出してしまったのだ。だが、これが結果的に功を奏することになるのは後の話。

 善也はモニターで自身の勝利を確信すると、骨折し鬱血してしまった自身の右腕を押さえながら、会場を後にする。武はその後ろ姿をぼんやりと見ることしかできなかった。






 ○○○○○


 廊下。空我は副将戦の決着を見届けると、すぐに待機室から出た。空我は微笑を浮かべ、ゆったりとした足取りで会場へと向かう。


「よく頑張ったね。武」


 労うようにそう呟く空我。だが、その声に答える者は誰もいない。空我は独り言を続ける。


「心配しないで。お前の敵はちゃんと取ってあげるよ。『死戦の宴場』という名にふさわしいやり方でね……」


 空我は一転不気味な笑みを浮かべる。この後、六本柱の中でも危険と称されている男が最終戦となる大将戦で祓い師にふさわしい締めを見せることになる。それを見てどう思うかは見る人次第……。


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