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死神vs勇者

 鎌瀬が出ていってしばらく経ったころに一人がけの椅子に座っていた剣也が小さくため息をつく。


「どうした? 目をかけてる祓い師が強大な相手とぶつかることに心配でもしてるのか?」


 先ほど南条に圧勝した燃が缶コーヒーを飲みながら聞く。


「いや、そういうわけではないんだがな。ただ、やはり相手が勇者ともなると勝てるかどうか不安になるというものだ」


「それを心配してるっていうんだろ」


 燃は鼻でふんと息を吐いて、再び缶コーヒーに口をつける。


「そういうお前こそどう思っているんだ? 確か、あいつはお前と対をなす存在。お前の永遠のライバルと言われていた男だろう?」


 今度は逆に剣也が燃に尋ねる。燃は缶コーヒーを飲み干して手で潰す。それから、剣也に目を向けずに答える。


「どう…… と言われてもな。しょせん、俺とあいつは水と油だ。揃って正義の味方と呼ばれちゃいるが、俺とあいつはまるで違う」


 燃はそれだけ言うと缶コーヒーを部屋に備えつけられていたゴミ箱に近付いて捨てる。じっとモニターを見ていた茂豊が不意に口を開く。


「そろそろ試合開始のようですね」


 茂豊が言うと同時に、モニターでは鎌瀬とスタトラが構えをとる様子が見られた。いよいよ、試合が始まるようだ。



 一方、滅兵側の待機室では北村がモニターを食い入るように見つめていた。


「そんなに近くで見ていると目が悪くなるんじゃねえか?」


「そんなこと言ってる場合じゃないっすよ! 応蛇さん! これから、スタトラさんの晴れ姿が映し出されるんすよ! ぜひとも、南条の敵をとってほしいっす!」


 両手を胸の前で握りしめている北村の周囲からは熱気が漏れているようにみえた。暑苦しい北村にソファに座っていた波一は呆れたようなまなざしを向ける。


「別にそう心配せんでええ。あいつは勇者。偽物(パチモン)の英雄様ごときとはわけがちゃう」


「そんなことは分かってるよ。それでも、同じ陣営である以上応援しねえとまずいだろ!!」


「はぁ……。暑苦しいなぁ。さすがにうざったいわ」


 波一はソファの背もたれに体重を預ける。恭司は二人のやりとりに苦笑いをしながら口を開く。


「波一の言う通りだ。向こうもこの試合で嫌というほど分かるだろう。あいつこそ、我らの掲げる正義を真に体現する男なのだと」


 そう力説する恭司を波一は冷めた目で見ていた。しかし、すぐに試合が始まって北村が盛り上がり、波一もそちらに視線を向けたため恭司がその目に気付くことはなかった。






 ○○○○○


 試合開始がモニターに映し出されると同時に、二人は持っていた武器(エモノ)を相手に振りかざす。すぐに激しい衝突が起こる。

 超高速の動きによってもたらされる複数の衝突音が観客たちの耳に襲いかかる。耳をつんざくような音に一般客や未熟な祓い師、滅兵たちは両耳をふさぐが実力者たちは目をはらして見ていた。耳をふさいでいる暇など在るはずがない。最高峰の実力者たちが送る超高度なバトルを見逃すわけにはいかない。

 このバトルを見ることで自分たちはさらなるレベルアップへとつながるはずだ。ただそれだけを(・・・・・・・)考えて祓い師、滅兵両方の精鋭たちは試合に見入っている。

 鎌瀬の使う鎌による変則的な攻撃をスタトラは緑色の刀身を持つ剣一振りで捌いていく。激しく打ち合いながら、鎌瀬は口元に笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。


「さすがは勇者と呼ばれるだけあるな。俺の鎌を剣だけで防ぐとは!」


「そうか? お前には、まだまだ余裕があるように見えるが?」


「そいつはお互い様だろうが!」


 鎌瀬は少々速度と威力を上げた振り上げをスタトラに見舞う。スタトラは難なくかわし、カウンターを鎌瀬の胴体に入れようとする。鎌瀬はそれを左手で受け止め、スタトラを蹴飛ばす。スタトラは二十メートルほど吹き飛ばされ着地する。

 蹴られた腹を左手で払いながら、スタトラは口を開く。


「やるな。さすがにこの歓楽戦に参加しているだけのことはあるか。恭司の言う通り、六本柱でないからといって油断しているとあっという間にやられてしまうな」


「ほざけ。今の一撃、お前は力を逃していた。さっきの蹴りはわざと受けたんだろ? 三味線ひいて、余裕ひけらかしてるのはどっちだ」


 鎌を手首のスナップだけで振り回しながら、鎌瀬は不満げな表情で言う。


「そういきりたつな。おれも手を抜いているわけじゃない。お前の危険性はよく聞かされていたからな。まずは様子見さ」


「そうかよ。いつまで余裕こいてられるか見せてみろ…… よっ!」


 鎌瀬は速を使っていないにもかかわらず、凄まじい速度でスタトラに接近していく。

 スタトラは鎌瀬の動きを脱力した構えをとって、じっと見ていた。それ以外に何もする素振りはない。だが、鎌瀬が自分の間合いに入った瞬間にスタトラは鎌瀬の動きに合わせて先ほど以上の威力と速度を持つ斬撃を放つ。鎌瀬は鎌でそれを弾き、スタトラの懐に入る。空いた左手でスタトラの鳩尾に拳を放つ。スタトラは左手でその拳を受け止める。振り上げたままの刀を懐に入る鎌瀬へと振り下ろすことで鎌瀬の脳天に一撃を入れようとするが、鎌に阻まれ鍔迫り合いの状態になる。

 左手は拳と拳、右手は鎌と刀でそれぞれ押し合いになる。体勢の上では左手は鎌瀬が右手はスタトラが優勢といった状態だった。

 一見互角のように見えたが、戦況はすぐに動いた。


「……」


「くっ……」


 鎌瀬の額から一筋の汗が流れる。鎌を持つ右手が震えだした鎌瀬はたまらずに剣を受け流し、スタトラの足を払う。その勢いで左手も自由になった鎌瀬は遠心力を利用した左ストレートをスタトラの顔面に叩き込み吹き飛ばす。スタトラは吹き飛び地面を転がるが、鎌瀬の表情はあまりいいものではなかった。

 スタトラはゆっくりと起き上がり、鎌瀬を底の知れない目で見る。鎌瀬は思わず体を強ばらせる。


「逃げたな?」


「…… っ!」


「今の鍔迫り合い。この試合の勝敗を決めるほどではないが、それでも重要な競り合いであったことは間違いない。お前は膂力の差を感じ、それを逃げた。結果はまだ分からないが、勝負は見えたな」


「ほざけ!」


 凄絶な笑みを浮かべるスタトラに鎌瀬は斬りかかる。スタトラは表情を崩さずにその鎌を素手で受け止める。


「なっ!」


「ほら、隙ができたぞ!」


 返撃として放たれたスタトラの斬撃が驚愕で固まる鎌瀬の右肩から左脇腹までを抉る。傷口から血が噴き出す。


「ぐっ!」


 鎌瀬は後ろへ大きく飛んでスタトラから距離を取る。傷口である右肩を左手で押さえながら、肩で息をする。今の一撃で受けた傷はかなり深いらしく、鎌瀬の全身から汗が流れ出ている。


「はぁ…… はぁ……」


「どうした? もう終わりか?」


 スタトラの言葉に鎌瀬は唇を噛む。鎌瀬は先ほどの立ち合いで理解してしまった。この試合で鎌瀬が勝てる確率などゼロに近いのだと理解してしまったのだ。この男と自分では格が違う。おまけに、スタトラはまるで本気を出していない。祓い師でいう祓己術にあたる滅己術はおろか滅術すら使っていない。術を使っていないのは鎌瀬とて同じだが、それでもこの試合に到底勝てるとは思えなかった。単純な武器を振るい合っただけで分かるほどの圧倒的な実力差。それに鎌瀬は苛立ちを覚える。



 かませ犬。それが幼少期の鎌瀬につけられたあだ名だった。当然のことながら親しみを込めてなどという理由でつけられたのではない。鎌瀬という名字をからかわれたことが原因による、言うなれば侮蔑を込めてつけられたあだ名だ。

 当時はひょろっとした体格をしていて、体も弱かった鎌瀬は言うまでもなくいじめられた。かませ犬にはぴったりだなどという理由でヒーローごっこと称され、何度も殴られ蹴られた。大人になっても救いようのない愚図と呼べる祓い師たちにも当然のように虐げられ、何度も暴力を振るわれこき使われた。悪意も何も知らない無邪気ゆえの邪悪さを持つ子供たちと、幼子から成長するにつれてより性質の悪い邪悪さを身につけた大人たちに鎌瀬は復讐を誓った。

 両者の力関係が逆転するのはそれからさほど時間はかからなかった。元々祓い師として図抜けた才能を持っていた鎌瀬は祓い師として修練を始めた途端に鎌を扱う才能を開花した。鎌瀬はその鎌を振るい、今まで自身を虐げてきた子供たちの首をはねた。いばるだけで、大した力を持たない大人に至っては自分よりも大きな体に興味があるという理由で体をバラバラにして殺すなどということもした。それからだ。鎌瀬が悪霊退治と並行して殺し屋を始めたのは。

 有頂天だった。もう自分に勝てる者はいない。もう誰も自分の名字や貧相な体を理由に虐げたりはしない、そう思っていた。しかし、それも長くは続かなかった。六本柱と後に呼ばれる子供たちが台頭してきたのだ。

 ショックだった。別に彼らが鎌瀬に何かをしてきたというわけではない。剣也に至っては疎まれてきた鎌瀬に親身になって接してくれた。それについては感謝している。だが、どうしても思い出してしまうのだ。名と体の弱さだけを理由に虐げられてきた幼き日々を。

 もちろん、自業自得だというのは分かっている。しかし、それだけで割り切れるほど鎌瀬は大人ではなかった。あの日誓ったことに嘘はない。それでも――。



 鎌瀬は一度目を閉じる。そして、静かに目を開く。その目は先ほどまでとは違い、強い意志が込められていた。

 スタトラもそれを感じたのか、正眼に構える。この試合で初めて見せる構えであり、そして、スタトラがこの試合で初めてまともに構えた瞬間だった。

 鎌瀬はスタトラには見向きもせずに、左手に呪符を持つ。刹那、鎌瀬から絶大な黒い呪力が放出される。鎌瀬の祓己術だ。

 鎌瀬はその呪力の全てを鎌に集める。鎌瀬の祓己術により発せられる黒い呪力は強力無比。その強大な呪力を攻撃する部分に纏めることで最大威力の一撃を放つ。これが鎌瀬の祓己術から派生させる鎌瀬の究極奥義だ。普段は暗殺するにはあまりに攻撃範囲が広く無関係の人間を巻き込む可能性が高い上に目立つため使用することはないが、こういう正面戦闘でなら話は別だ。スタトラは自身の本気をぶつけるに値する相手。鎌瀬は禍々しい呪力を纏った黒い鎌を振り上げ、攻撃態勢を取る。スタトラはそんな鎌瀬を見て、感嘆の息を吐く。


「素晴らしい呪力だ。面白い。ならば、こちらもお前に敬意を表し、我が刃の真の姿で迎え撃つとしよう」


 スタトラはそう言って刀身に左手をやる。スタトラが刀身に左手を添えると同時に刀身が緑色に光り輝く。


「これが我が武器『緑光刃(ルーチェ)』の真の姿だ。この美しき碧色に輝く刃を所有することを許された者こそ、真の勇者たる証だ」


「御託はいい。さっさとやるぞ」


 全く取り合う様子を見せない鎌瀬にスタトラの眉がかすかにぴくりと動く。しかし、大きく息を吸って吐くと無表情になって言葉を紡ぐ。


「いいだろう」


 二人はそれぞれの武器を構える。両者ともに凄まじい速度で接近しぶつかり合う。同時に激しい煙が会場を包む。

 会場は混乱に陥る。祓い師、滅兵、一般客問わず咳をしている者がほとんどだ。少なくとも、会場で直接戦いを見ている者で、今、何が起きているのか理解できている者はいなかった。そして、煙が晴れた瞬間にそんな観客たちの目に入ったのは鎌瀬が大量の血を流し、地面に倒れ伏す姿だった……。


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