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雑談2

今回はやや短めです

 武が思っていたよりも早く場は収まった。というより、問答無用で収まったということにされたといった方が正しいか。武は空我に抱きついている心友に呆れた視線を向けるが、当の本人はにこにこと笑うだけだ。

 特に問題もないので武は話を再開することにした。まだ気になっていることがあるからだ。


「なぁ、少し聞きにくいことだが、一つ聞いてもいいか?」


「何? 遠慮せずに聞いてくれていいよ」


 心友に抱きしめられながらも空我は笑みを浮かべる。その笑みは天使のようにも思え、心友はさらに空我を目ではじめる。確かに気持ちは分からなくはないが、調子が狂うのでやめてほしいと武は内心思う。しかし、気にせずに話を続ける。


「歓楽戦の説明を受けているときに木下さんから、今度の歓楽戦はかなり平均年齢が下がると言っていたが、どういう意味だ?」


 おそらくは無知極まりない質問なのだろうが、それを咎める人間はこの場にいなかった。空我は少し考える素振りを見せてから答える。


「そうだな。簡単に言えば、今は次々と若い世代が出てきてるってことだよ」


「つまり、若い衆が力を伸ばしてきてるってことか?」


「うん。まぁ、そういうこと。今は十代から二十代前半が主体でね。重要な任務もその辺りの年齢層が独占してる状態なんだ。でも、それをよく思っていない人間が少なからずいるのも事実でね。自分の力不足を棚に上げて子供のくせに出しゃばるなとか言い張る馬鹿な大人が結構いるんだよ」


 空我の言葉に美夢も心友も複雑そうな顔を見せる。言われてみれば武にも思い当たる節はある。五月の初め頃に最上級討伐任務で出向いたメンバーは一人残らず未成年だった。歳を取った大人という者は一人もいなかった。


「まぁ、祓い師なんて一人残らず愚図だからね。そんなもの気にしなくていいよ」


「いや、かえって気にしちゃうと思うんだけど……」


 あんまりな心友の言葉に美夢が突っ込みを入れるが、心友はさらりと受け流す。そんな二人の様子などお構いなしといった様子で空我が口を開く。


「要は精神的に未成熟な不出来な大人による醜い嫉妬ってことだよ。お前の頭に入れる価値もない、薄汚いものだ。そんなの気にしてる暇があるなら、次の歓楽戦に向けて修練を行うなり、準備を整えるなりしておいた方がよっぽど有益だよ」


 手厳しい言葉だったが覆しようのない真実だった。この世には気にする価値のない人間など腐るほどいる。一生ものの大怪我を負おうが死のうが損にも得にもならない人間などいくらでもいる。そんなものを気にしていても仕方がないというのはこの世における絶対的な正論の一つだ。

 とはいえ、さすがに武もその言葉に同意することはできずに、適当に笑って流すに留めたが。


「何か変な話を聞いてしまったようで、悪かったな」


「いいよ。どうせ、聞こうが聞くまいが目に見えて違いはないし」


「みたいだな」


 ばっさり切り捨てた空我に武はため息をつくしかなかった。聞いた直後は武も反論ぐらいはしようかと思っていた。しかし、反駁できるほど武はこの世界の大人について知らない。そのため、反論しようがなかったのだ。それ以前にムキになって言い返すほど武も大人たちに対して思い入れがあるわけではない。どれだけこきおろされようが知ったことではなかった。

 だから、武は話を変えることにする。


「それにしても、今度の歓楽戦。図らずも出場することになっちまったが、相手はどれだけの力を持ってるんだ?」


「図らずもって……。三回戦で茂豊に完膚なきまでに叩きのめされた私への嫌み!?」


 武の失言に美夢が頬を膨らませる。武は慌てて自分の失言を謝罪する。空我と心友はそんな二人の様子を微笑ましいといった様子で見ている。心友がクスクスと笑いながら武の問いに答えてくれる。


「そうだね。せっかく、ボクたちと一緒に戦うわけだからそういうところもきちんと教えておこうか。とりあえず、善也、波一、スタトラ、応蛇の四人について教えておこうかな」


 応蛇の言葉に心友の腕の中で美夢が反応する。あからさまに不機嫌になった彼女に心友は頬をかきながら、美夢に話しかける。


「何? まだ、応蛇のこと嫌ってるの?」


「当然でしょ。あいつのせいで波一は……」


 どこか忌々しげな顔で美夢はそう吐き捨てる。その様子を見て、最初に応蛇と邂逅したとき、武は美夢が応蛇に何らかの因縁があるとこぼしていたことを思い出す。


「そんなことはないと思うけどな。確かに応蛇のやったことは擁護できないことだとは思うけど、十分あいつなりに力を尽くしてると思うよ?」


「そんなことはどうでもいい」


「むぅ……。言いたくないけど、それは八つ当たりだよ。それにあいつのことを責めるんなら、他の連中はどうなるのさ」


「それは……」


 そこで美夢は口ごもり、黙り込む。心友と空我はそんな美夢を見て小さくため息をつく。武はそんな二人を見て、息ぴったりだななどと場違いなことを思ってしまった。どうやら応蛇と波一の間に何かがあり、そのせいで美夢は応蛇を恨んでいるようだが、二人の間に何があったのか分からない以上武にはどうすることもできなかった。

 空気が悪くなってしまったのを払拭するように心友は咳払いをし、今度こそ滅兵たちについて話そうとする。


「まずは善也だけど……」


「三人とも何をしているの?」


 縁側から心友の話を遮る者が現れる。そこには、空雲と空乃の二人がいた。


「…… 話し込むのはいいけど、武くんも疲れているみたいだし休ませてあげた方がいい」


「分かったよ」


「残念。じゃ、行こっか。クウ」


「…… いい加減離してくれないかな」


 空雲が淡々とそう言うと、三人は立ち上がる。空我は心友に抱きかかえられたままであり不満そうだが、親友に離す素振りは見られない。その様子を見て、空雲と空乃は縁側から立ち去る。

 武は相手の情報が得られなかったことに不服そうだが、疲れているのは事実なのでお言葉に甘えて休むことにする。ただでさえ、昨日は歓楽戦予選で渉や鎌瀬といった手練れと連戦した上にこの日は朝の七時から祓師協会の本部ビルに出向いていたのだ。まだ朝の十時少し過ぎだが、明らかに疲れが出てきている。無理をしない方が賢明だ。


「それじゃあ、またね。武」


「ああ。悪いがしばらく寝る。十二時になったらまた起こしに来てくれないか」


「分かった。美夢に行かせるよ。それでいいでしょ?」


 空我が心友の腕の中から抜け出しつつ、美夢にそう確認をとる。二人は迷わず頷く。


「ああ」


「了解。十二時に起こしに来ればいいんだね?」


「頼む」


 武も美夢も異存はなかったようなので、三人はその場から去っていく。武はそれを見送ると、すぐに布団に潜り込む。

 布団に潜り込んだ途端に驚くほどあっけなく深い眠りへと落ちていった。

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